――朝が来たからというより、朝に起こされた感じだ。
すっかり日課になった起床時間に目を覚ますと、ぼんやりとした意識の中で、多少の疲れは残っているが心地よい目覚めだと思う。
それは――次第に覚醒してくると、自分以外の温もりをはっきりと感じ、視線を横へやる。
「おはようございます、シロウ」
そこには、昨夜の出来事が嘘ではないことを証明する温もりの主。
「ああ。おはよう、セイバー」
俺は目の前にいる少女に軽く挨拶をした。
結局あの後、すっかりセイバーに夢中になっていた。
次第に感度を高め、そして幾度と無くしなやかに躍るセイバーの身体。それに魅了され、自らの容器が空っぽになるんじゃないかと思う程、俺は今までの分も合わせるようにセイバーと交わっていた。
「凄く元気になれました。何だか、朝からとても気分がいいです」
にっこりと、そんなセイバーは俺に軽く頭をもたれかけたまま嬉しそうに笑う。それはまるで白百合を彷彿とさせる可憐な美しさ。
その身体を、昨夜俺は何度も薄桃色に染めて――
やば。
今はそんな情事の回想をする時じゃない。だが、そう考えると身体は正直で、朝であることも相まって、何だか気恥ずかしくなってしまった。
「ああ、よかった……」
「?」
くっついていた身体を意識的に離すと、俺はまだ起きあがれないまま天井など仰いでみる。少しだけ冷静になろうと努めて、ちょっとこれからのことを考えてみる。
「うーん……」
心境はいささか複雑だ。
しかしまあ、俺達の関係は多分変わらないだろう。
それは俺とセイバーと、そして遠坂の三人の……
「まあ、なるようになれというか、何というか……」
「? ふふふ……」
くすくすと、俺の独り言に横で笑うセイバーが何だかうらめしい。
「ったく、人ごとだと思って」
「いいえ? これはわたし達の問題ですよ? でも、深刻なのはシロウだけかも知れませんね」
「う、うーん……」
そうやって複雑な思いのまま伸びをすると、ようやく落ち着きを取り戻した下半身をいさめてグッと起きあがる。
「とにかく、こんな格好を遠坂に見られたら昨日と逆だ。とりあえず着替えて――」
と、そこで初めて廊下へと繋がる障子が少しだけ開かれていることに気が付いた。丁度朝の光がそこから漏れて……特に、微かに真紅の何かが……って!?
「やっほー」
と、完全にそのタイミングを計っていたであろう赤いあくまが、スパン! と景気よい音を立てて戸を全開にしていた。
「あ、あ……」
朝の陽光をバックに、しっかりと仁王立ちするは遠坂様。かつて学園で夕焼けを背に階段で待ち受けていた姿を思い出し俺は震えたが……しかし、その顔はあの時の迫力はなく、よく見ればニヤニヤとこの状況を楽しそうに眺めているのだった。
「ようやくお目覚めのようね、衛宮君?」
「と、遠坂……」
俺は二日続けて――しかも、今度は別の女性と同衾している姿を他人に見られ、明らかに動揺していた。
しかし、
「セイバーもおはよう。どうだった?」
「はい、おかげさまでとても心地よい朝です」
「そう、それはよかった」
「……え?」
そんな二人の会話を目の当たりにして、何だか肩すかしを食らった気分だった。
そこで改めて俺は上半身剥き出しでこの場にいることを思い出し、慌てて布団を身に巻くと、遠坂を睨め付けた。
「遠坂……出歯亀は良くないぞ、出歯亀は」
「んー?」
俺の非難もまったく気にしないとばかりに受け流して、遠坂はきししと笑う。
「あら、そんなことに気付いてなかったのは衛宮君だけよ。ね、セイバー?」
「はい、これでおあいこですね?」
「そうね? まあやられっぱなしってのが一人いるけど、そんなの知らないわ」
「ふふふ……そうですね」
「え……?」
俺は交互に女性陣を見やる。遠坂は相変わらずだし、セイバーはというと……ちょっと恥ずかしそうだが、顔は明らかに『つまりそう言うことです』って言っていた。
「と言うことは……」
あるひとつの結論に達する。
「あー……」
――さっきの、遠坂に全部見られてたのか。しかも、セイバーはそれを知ってて敢えてそうやった……何だか頭痛がしてきて額に手をやってしまった。
――まあ、しかし。
まったくの考え損だと言うことは分かって、俺はなんだかおかしくなってしまい、
「くっくっっく……」
思わず自分の境遇に、内からこみ上げてくる衝動にも似たそれに笑いが自然と沸き上がった。
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