あれから何度か藪医者のお世話になりながら、俺は朱鷺恵さんとの約束を待った。
 ゆっくりという言葉を信じて、その間に俺も知識を得ようと努力する。といっても、有彦に借りた自称良書を見る程度しか出来ないのだけれど。
 で、正直困った。
 特に詳しい『やり方』が書いてある訳でもなく、かなり抽象的だったり、いきなり行為に走っていたり。
 一体どうしたらいいのか、不安は隠しきれなかった。
 流石に後ろでするというのは普通の愛し方ではないので、もし間違えた知識で朱鷺恵さんに何かあったら、本人に申し訳が立たないし、何よりあの藪医者に何をされるか分からない。
 そうして焦りを感じつつも、結局何も出来ぬまま時は流れ

「いらっしゃい、志貴君」

 雰囲気として、その日が来てしまった。
 別に普段と変わりなく、ちょっと他愛のない話をしてから、ちらちらと朱鷺恵さんの様子を伺う。

「どうしたの?」
「いえ、何でもないです」

 朱鷺恵さんの質問にも、何だか受け答えに身が入ってないと自覚する。
 自分から求めなければいいか。きっと、朱鷺恵さんはそれを望んでいないだろうから。

「……ね、志貴君」

 会話が途切れた頃、朱鷺恵さんがふと俺の事を優しい瞳で見つめた。

「……はい」

 それは、いつもの合図だった。
 これから朱鷺恵さんを抱きしめてキスをして、後ろにあるベッドに導く。
 そんな、合図。

 が、今日だけは違っていた。

「今日は、お風呂……入ろ?」

 朱鷺恵さんが、ふとそんな提案をしてくる。

「えっ? あ、はい」

 意外な展開に少々驚きながらも、俺は勧められるままに返答していた。
 汗の匂いとか少しでも感じると、女性はイヤなのかな? ここに来る前、しっかり体を綺麗にしてきたつもりだったけど、朱鷺恵さんはそれを敏感に感じたのかも知れない。

「うん。じゃぁ、先行っててね」

 俺は言われるがままに、浴室へと向かっていた。

 朱鷺恵さんと一緒の入浴。
 見慣れているつもりの朱鷺恵さんの裸体も、性的な感覚が薄いと何となく見るのが気恥ずかしい。
 目の前で体を洗い、湯浴みをする姿はとても綺麗だった。

「はい、志貴君の背中も洗ってあげる」

 そう言われて焦ったが、一度決めたら結構頑固なところがある朱鷺恵さんだ、素直に従う事にした。
 嬉しそうに背中を滑るタオルが心地よいけど、女性に洗って貰うとなると無駄に緊張してしまう。
 ざあっとお湯を流されて俺が気持ちよさそうに一息つくと、朱鷺恵さんが笑っていた。

「はい、終わり」

 満足そうに朱鷺恵さんが微笑むのを感じて、俺は後ろをちょっと振り返ろうとした。と、

「志貴君」
「?」

 おどけていない声。
 俺はやっと朱鷺恵さんの方を振り返ると、いつになく慎重な眼差しの姿を見つけた。

「今日は、ここで……しよう?」
「……えっ」

 それは、突然の提案だった。
 ここでする、と言う言葉の意味を一瞬理解しかねた自分がいたが、すぐにそれを頭の中で整理して、真意を知る。

「えっ、え?」

 ようやく、俺が慌てていた。
 お風呂場でする、なんてちょっと頭の中になかったから。ただ、これは前置きだと思っていたのに、既にここがその場所になっているなんて。

「あのね、私、色々勉強したんだよ。その……そっちの事」
「……あ」

 その言葉に理解したのと同時に、驚きを隠し得なかった。
 朱鷺恵さん、俺の為なんかに……
 自信がないと諦めかけていた俺だったのに、朱鷺恵さんの方がしっかりしていたなんて。
 悪いと思いつつも、出来ないなんて言えなかった。

「きっとね、志貴君はあまり分からないと思うし、私も知識だけだけど……きっと大丈夫。始めましょ?」

 そう言って近付いてくれて、優しいキス。

「んっ……」

 これだけは本能的に、俺は朱鷺恵さんを受け入れて舌を絡めさせた。
 いつもよりも俺だけが少しだけぎこちなく、愛情を確かめ合う行為。

「んふっ……うん……」

 嬉しそうにしてくれる朱鷺恵さんを見て、自分を奮い立たせる格好となる。

「はあっ」

 絡まりを解き、見つめると、朱鷺恵さんがぽうっとしながらも笑っていた。

「ね……ゆっくり、約束だよ?」

 そう言って、朱鷺恵さんは体を後ろ向きにさせると、浴槽の縁に上半身を乗せて、俺の方へお尻を突き出すようにした。

「は、い……」

 ごくりと、溜まっていた二人分の唾液を飲み込む。
 視線は、自然と朱鷺恵さんのお尻に向けられていた。

 少しだけ火照ってピンクに染まったお尻。
 その中心で、朱鷺恵さんの大事な部分が露わになっている。
 いつもならば、そこだけを愛して、そこだけを見ていた筈なのに、今日は、視線が少しだけ上に移ってゆく自分がいた。
 例えるのが恥ずかしい場所。
 自分で望んでおきながら、何となく凝視できない自分がいるのが分かる。
 それは、本来の目的には遠い場所なのに、これから俺達は、それを使って愛し合おうとしている。
 そう考えると、朱鷺恵さんのその小さな入り口に不思議な思いを抱かずにはいられなかった。

「恥ずかしいよ……そんなじっと見ないで」

 朱鷺恵さんは顔を赤くして俺を見ると、俺を促した。

「いきなりはだめ。まずは、ゆっくり……」

 その言葉に導かれて、俺は朱鷺恵さんのお尻に体を近づけると、そうっと入り口を指で触れた。

「きゃっ」

 瞬間、朱鷺恵さんはびっくりして腰を逃がし、俺から逃れてしまう。

「あ、ごめん。ちょっと、ビックリして……」

 朱鷺恵さんはもう一度ぐっとお尻を突き出してくれると、

「いいよ……あのね、暖めながらの方がいいんだって……」

 そう言って、きゅっと浴槽の縁を強く掴んだ。

「はい……」

 俺はもう一度強く頷くと、今度はもっと優しく、人差し指で朱鷺恵さんのアヌスへと触れた。
 今度は少しだけ引っ込めそうになりながらも堪えたようで、朱鷺恵さんのお尻へと指の腹が触れた。
 そこは本来排泄器官だというのに、俺がくにくにと中心から周縁に向かって円を描くようにマッサージをすると、段々とおかしな愛着を感じてしまっていた。

「んっ……あっ……変な感じ、だよ……」

 まだ、きっとむず痒いとしか感じないのだろう、声に少々の困惑とおかしみさえ含みながら、朱鷺恵さんが可愛く思える声をあげた。
 一度そうしてしまえば、後は嫌悪感など感じなかった。
 俺は朱鷺恵さんのお尻を割り開くようにして、もっと中心部を露わにさせる。
 指が触れるたびに、ヒクヒクと収縮を繰り返しているアヌスは、本来の花びらにも似た動きを思わせて、やっぱり出来るようになってるんだと、間違って納得してしまう。

「朱鷺恵さん、どんな感じ?」

 その感覚を知りたくて、俺は興味が強いという口調で尋ねた。

「あのね、んっ……なんだかくすぐったいけど、いつも志貴君が優しくしてくれるみたいに気持ちいいよ……ふうっ」

 時折声を詰まらせながら、朱鷺恵さんも意外な感覚に驚きを隠し得ない様子だった。

「そうなんだ……」

 納得してしまい、そうして、ちゃんと朱鷺恵さんが悦んでくれていると理解した俺は、少しだけ勇気が湧いてきて、安心した。そして、さっき『暖めた方がいい』と言っていたのを、ふと思い出す。
 丁度手の届く処にあったシャワーを捻って湯を出すと、自分の肌で温度を確認してから、朱鷺恵さんのお尻にあてがった。

「あっ……きゃっ!」

 アヌスへシャワーの軽い飛沫を浴びせられて、朱鷺恵さんがちょっと驚いた様子を見せた。

「あ、ごめん……なさい」

 俺はそれを見て咄嗟の事に驚くと、慌ててシャワーの勢いを弱くした。
 アヌスは基本的に皮膚が薄くて弱い場所だから、ちょっとの刺激でもあまりよくない筈だと本能的に理解する。
 ちょろちょろとした流れに調整すると、朱鷺恵さんのお尻を伝わらせて流すように上から湯を落とす。お尻の隆起に従って、谷間の底、アヌスの辺りに流れが出来るのを確認してから、俺は余った手の指をもう一度触れさせる。

「んっ……んんん……」

 今度は上手くいったようで、朱鷺恵さんがもう一度甘い声をあげてくれる。心なしかリラックスしたみたいで、すぼまりに見える固さも少しほぐれた様子だった。
 俺のつたないアヌスへの愛撫に、朱鷺恵さんが感じてくれている。そう思うと、汚れた存在であるはずのそれさえも、愛しく思えるようになってきた。

 この感覚。
 それを理解した瞬間、酷く嬉しかった。
 朱鷺恵さんのどんな所でも愛してあげられる、そんな自負を感じる。
 ちょっとだけ何かが足りないと思っていた部分は、これで少し埋まったような気がした。

 愛しさから、自然に行動は次へ移る。
 俺はそれを何とも思わず、自然に顔を近づけ……

「ひゃっ!? し、志貴君?」
「ん……ふ……」

 俺は朱鷺恵さんのアヌスに、優しくキスをして、舌を触れさせていた。

「ダメだよ、汚いよぉ……」

 そこまでは予想してなかったのか、朱鷺恵さんの反応は驚きに近いものがあり、俺の口から逃れようとしていた。
 しかし、俺はどけていた手を朱鷺恵さんの腰に後ろから回して、腰が動いてしまわないようにぐっと自分に引き寄せる。

「大丈夫だよ、さっきいっぱい洗ってたでしょ?」
「そうだけど……恥ずかしい……ん、あっ……」

 さっきとは違って消え入りそうなか弱い声で、朱鷺恵さんが身をくねらす。俺に押さえられて不自由にしたまま、何とも艶めかしい光景。
 俺は舌先でつつくよりもいいだろうと、舌の面の部分を使い、アヌス全体を押すようにして愛撫した。
 口の中に少しだけ流れ込んでくるお湯が顎を伝って流れていく中、朱鷺恵さんのお尻に顔を埋め込ませて、感じさせてあげたいと舌を微動させる。

「んっ……あ、はああっ……」

 段々さっきのように甘い声が混じり始めて、朱鷺恵さんが感じてくれているのが分かる。
 腕にあった抗う感覚も殆ど無くなって、俺は朱鷺恵さんの下腹部を優しくなで回しながらアヌスへと舌を擦りつけた。
 排泄器官を舐めると言うよりも、愛しているという想いが圧倒的に強い。これは、ちゃんとした行為なんだと肯定できる。

「朱鷺恵さん……次、行っても良い?」

 俺は顔を離すと、回していた腕をまたお尻にあてがい、その先を尋ねた。
 その言葉の意味を、朱鷺恵さんは理解してくれたようだ。

「ん……うん、ゆっくり、挿れてね。傷ついちゃうから」
「もちろんです」

 俺は不安にさせないようにしっかりと頷くと、ひとつ唾を飲み込んだ。
 ゆっくりと人差し指に自らの唾液を絡ませて、それからあてがう。
 何度もしているように、まずは周縁を優しくマッサージしてほぐしてから、今度は先に進む。
 つ……ぷ……
 初めて、指先が少しだけ朱鷺恵さんのアヌスの中に沈み込んだ。

「んああっ……」

 瞬間、構えてしまっていた朱鷺恵さんが身を固くして、まだ幾ばくも進んでない指の進入を拒む。

「力、抜いてください……」
「ん……で、も……あっ、怖い……」

 朱鷺恵さんは、恐らく自分でも未知の部分に指を射し込まれた感覚の所為だろう、きゅっとすぼまりを強めてしまう。
 俺は一瞬、焦りから進入を強めようとする。しかし、それは朱鷺恵さんを余計怖がらせてしまう格好となると気付き、慌てて思いを訂正した。
 しかしこのままじゃ、前にも後ろにも進めない。
 そう思った時、自分がすっかり朱鷺恵さんのアヌスばかりに固執している事に初めて気が付いた。
 ふと、目の前にあるそれに気が付いて、解法は何て簡単な事だろうかと思ってしまう程だった。

「朱鷺恵さん、息吐いて……」
「えっ、何? ああっ!」

 朱鷺恵さんが驚いた声を上げ、震え上がった瞬間、ふっとすぼまりの力が抜け、指がまた一ミリずつ進入を開始していた。
 俺は、すっかり無防備になっていた朱鷺恵さんの花びらを、いつもそうするように優しくキスしていた。
 お尻でも感じてくれていたからだろう、程良く濡れていたそこは、舌先で俺が優しく突いてあげると、簡単にやわらいでくれた。それと同時に、下半身の力が抜けるようにしてアヌスの方も思った通り緩み、指を受け入れてくれていた。

「んっ……両方なんて、ずるいっ……はあっ……」

 朱鷺恵さんが可愛く拗ねながら、それでも気持ちよさそうにしてくれたから、俺は安心した。

 そのまましばらく愛撫を続けていくと、第一関節まで指が埋まった。
 しかし、ここで顔を少し無理な形に傾けて朱鷺恵さんを後ろから舐めているから、シャワーを持つ手が邪魔に思えてきた。
 これだけ暖めて準備すれば大丈夫だろうと思い、俺はそれを脇にどけると、朱鷺恵さんの腰に回し、後ろから朱鷺恵さんの敏感な真珠を優しく擦った。

「あっ! 志貴君、んっ……!」

 三つの感触で同時に責められて、朱鷺恵さんの体から力が抜けていくのを感じた。
 腰が落ちそうになるのを必死に堪えるかのような体勢に、俺は意地悪く舌での愛撫を強め、アヌスの指を深く沈めた。

「んっ、んんっ……!」

 遂に、人差し指全部が朱鷺恵さんの中に埋まった。
 そこまで行って、俺は一度動きを止めると、ゆっくりと引き抜く。

「んっ……あっ……」

 そこに、先程から比べて一番の甘い声を聞き、俺は尋ねていた。

「抜ける時、もっと感じるの?」
「うん……なんだか、変……」

 抜ける時の方が気持ちいいと、読んだ本に書いてあったような気がしていたから、本当にそうなんだと、何だかやけに冷静に納得してしまう自分がいた。

「ん……志貴君、慣れてきたから、もっと動かしていいよ……」

 少しだけ呼吸を整えると、朱鷺恵さんが笑ってくれた。

「うん……」

 俺はその言葉を信用して、また指を沈めた。

「ううんっ……くぅ……ん」

 指を奥まで挿れると、少しだけ高い体温と腸壁が俺を包み、膣内にも似て何とも不思議だった。
 どうやら、こちらも濡れているようで、引き出す指にまとわりつく液体は、決して汚いものではなく、透明で愛液に似たものだった。
 同様にその下。こちらは、花びらから本来の愛液を分泌させて、俺の口元を濡らしている。いつもより感じ方が早いと思う。それは明らかに未知なる部分への愛撫に興奮しているからだろう。
 もう一度指を奥まで入れ、今度は少しだけ中で動かしてみる。

「あっ……いや……」

 朱鷺恵さんが嫌がるまで指の先を鍵状にしてみると、思いの外内部は広がっていくのだと驚いた。しかし考えると、確かにそうでないと、これよりも太いものなんて入らないだろうし、そもそもの役割も果たせない。
 俺は、人差し指をギリギリまで引き抜くと、今度はそこへ中指を添えた。
 今度も力が入らないように、舌ともう一つの手は朱鷺恵さんの前を愛撫しながら、ゆっくりと二本の指を射し込んでゆく。

「あっ……んんっ……」

 朱鷺恵さんは驚いたが、それでも指が進入してくるとそれを受け入れてくれて、準備に答えてくれるかのようだった。
 いきなり指一本からペニスだと、隔たりが大きいと思い、俺は揃えた二本の指でアヌスを段々と柔らかくしてゆく。
 揃えた指を中で前後に開くと、

「ああんっ……なんか、おかしいよ……ぐりぐりってされて……ふあっ!」

 その感覚に驚きながらも、熱くうねった内部が指を締め付けた。
 それに興奮して、前の方へも指を入れてみる。中をかき回すようにして、薄い膜の向こうの指と触れさせようとするような動きをする。
 くちゅりと滴り落ちる愛液を舐め取りながら、そうして愛撫を繰り返していたら

「やっ……ダメ、強い……ああっ!」

 急に、朱鷺恵さんが体を強ばらせてしまった。

「あっ、ああっ……!」

 その反応に、俺はちょっとビックリした。朱鷺恵さんは、いつもより早く達していたからだ。アヌスに気を取られていた所為もあってか、俺の前後への愛撫は調整知らずだったのかも知れないけど、ぴくぴくと内部を震わせて目を瞑ってる朱鷺恵さんは、たまらなくいやらしく思えた。

「は、あっ……いや、はずかしい……」

 その高揚感から戻ってきた朱鷺恵さんが、少し息を乱しながら顔を赤く染めた。
 無理もない、初めてお尻も弄られて、それも少し手助けした格好で達したのだから。

「あっ……はあっ……志貴君」

 それでも、朱鷺恵さんは気丈に笑って俺を見てくれる。

「来て……志貴君。私は、大丈夫だから……」

 




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