宿題、予習、復習。
「くすぐったいよ、志貴君」 その声に、俺は自然に微笑みが浮かぶ。 「いいじゃないですか、朱鷺恵さん。もっと触らせて下さい」 俺は、その手を朱鷺恵さんの髪から離さない。 「もうっ……ふふっ」 朱鷺恵さんは「仕方ないな、志貴君は」という顔で、結局俺の我が侭を許してくれる。 無言のまま、ただ愛しい人の髪を撫でて時を過ごす、この瞬間はただ、それだけでお互いの全てが伝わっているような気持ちがして、流れゆく静寂に身を任せるのみだった。 「……くくっ」 触れば触る程、朱鷺恵さんの髪は俺の指の間からスルリと抜け、毛先の触れる感触が自然に笑いを呼び起こしてゆく。髪を触らせてくれるのは云々と勝手に解釈すると、それも当然かなと思ってしまうからだ。 「……志貴君、なんかおかしいね」 朱鷺恵さんはそんな俺を見て不思議そうにするが、とっても幸せそうな顔をしてくれて、許してくれているのが分かる。 「……ねえ、朱鷺恵さん」 どれくらいそうしていただろう、何て言うか、僅かに残っていた火種が少しずつくすぶり始めてきたような感覚。 「もっと……知りたいです」 ちょっとだけ遠回しに、本当の気持ちを声にする。 「……うん」 それだけだった。 「……私の事。志貴君の事。もっと、もっと……」 たまらず、きゅっと抱き寄せた。 「……ねえ、志貴君」 今度は朱鷺恵さんが俺を呼び止める。 「どんなことが、したい?」 それは、無邪気な言葉なのに、ひどく妖艶な言葉だった。 「志貴君がそうしたかったら、いいよ……」 ちょっと恥ずかしそうに、朱鷺恵さんがうんと言ってくれたから、俺はちょっとだけお願いした。 「えっと、その……改めて『朱鷺恵さんの初めて』が欲しいなあって……」 興味があった事を口に出すと、改めて恥ずかしいものだと思う。 「?」 朱鷺恵さんは、俺のそんな言葉に意味がさっぱり分からない様子だった。 「初めてって、え……?」 朱鷺恵さんはきっと初めての時の事も思い出したのか、不思議恥ずかし、といった表情を見せた。 「その……出来れば、もうひとつの方の初めてを……」 ちっとも具体化されてない言葉だったが、そこで朱鷺恵さんは理解できた、と言うよりしてしまったようだった。 「あ……」 驚き、顔を真っ赤にしてしまう。そして、俺の肩に寄せられていた腕が、さっと朱鷺恵さんの臀部に回った気がした。 そう、つまりそう言う事で。 「う〜……」 朱鷺恵さんは、そんな俺を少し変なものを見るように睨め付けていた。 やっぱいいです、今のは忘れてください。 これ程の重圧に、自分の発言を後悔しそうになった時、 「……いいよ」 絶妙のタイミングで、朱鷺恵さんが恥ずかしそうに小さく声を発していた。 「え?」 唐突のことについ聞き返してしまった俺に、朱鷺恵さんは顔を真っ赤にしながらごにょごにょと言う。 「あ……」 もっと嫌がられてしまうかと思っていただけに、言った自分なのにちょっと驚いてしまった。 「よかった……」 俺はそう呟くと、脱力した。 「でも……志貴君の、えっち……」 朱鷺恵さんはやっぱり俺を見ると、複雑な表情を浮かべた。 そうして気が付くと、純粋な愛しさや緊張感から解放されてしまったくせに、こうして朱鷺恵さんと抱き合っていたから、昂ぶってきてしまった。 「朱鷺恵さん……」 俺は色々我慢できなくなって、朱鷺恵さんを抱きしめた。 「ちょ、ちょっと待って、志貴君」 珍しく慌てて、朱鷺恵さんが否定する。 「?」 ああ、そうか。 「だから……慌てないで」 俺を拒否してしまった事を謝罪するかのように、朱鷺恵さんがゆっくりと俺の頬に、首筋に、キスをした。 「ゆっくり、ゆっくり始めよう? 志貴君なら、分かってくれるよね?」 胸、臍、そして…… 「は、い……」 そう答える前に、朱鷺恵さんの指が、口が、俺の下半身に触れていた。 そうして……俺はこの日何度目かの絶頂を、朱鷺恵さんの口の中で迎えていた……
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