そこまで言って、鎖から己の戒めを解いて呪文を詠唱し終わったヴァーミリオンは口をつぐんだ。
そう、セヴンスナイトがいると言われている世界への扉……
アンバーは、こくりと頷いた。 「ジェイドちゃん……」 分かっていた。これをくぐるとあまりにも厳しい現実が待ちかまえているのを。 ジェイドは、セヴンスナイトを見つけだし、この世界に連れて帰ると訴えた。そうすることでヴァーミリオンと契約させ、再びこの世界の安定を求めようとしていた。 しかし、アンバーはそうではなかった。 それは、主君でもあるヴァーミリオンに対する裏切り。 しかしそれは、向こうの世界からこちらの世界には自分達の力だけでは帰って来られないことを知っているアンバーにも、そして自らの力が衰え、身を引くことを決心しているプリンセスの為にも一番正しい選択であった。 契約をし、自分が新たなプリンセスになれば、強大な力を得ることが出来てこちらに帰って来られる……通常は相容れられぬ世界の秩序を守るために、自分たちは向こうの世界にあまり干渉してはいけないのだ。 ジェイドはそれを知りながらも、契約はせずにマスターを見つけだし、奇跡とも言える可能性を探して帰ってこようとしていた。 プリンセスになろうとする者と、それを阻止する者…… 同じ血を分け、同じ君に仕えながら敵対する。 「プリンセス」 ジェイドは初めて瞳を起こすと、ヴァーミリオンを見つめた。 「必ず……戻って参ります」 ジェイドは、全ての迷いを振り切っていた。 「姉さん……」 そして、最後にアンバーを見つめると、ぎゅっと抱きついていた。 「こんな妹を、お許し下さい……私は、こうすることしかできないのです」 泣いていた。 「……ジェイドちゃん」 その震える体を抱きしめてあげながら、アンバーは優しく答えた。 「大丈夫。また平和になったら一緒に暮らしましょう?」 そう言ってジェイドの瞳をまっすぐに見つめた。 「はい、姉さん」 そうして、ふたりはヴァーミリオンに向き直る。 「それでは……」 いよいよ旅立とうとするその姿を見つめるヴァーミリオンは、ふっと微笑んだ。 「ふたりを見てると、昔を思い出しちゃうな……私も、そうやってセヴンスナイトを探しに向こうに行ったのよ」 「そんな……」 初めて聞かされる事実に、アンバーもジェイドも目を見開いていた。 「ううん、いいのよ。それがこの世界の宿命だもの」 ふたりの心を悟ったのか、ヴァーミリオンは首を振った。そうして…… 「ふたりに、私の想いを分けてあげる。私がたった一人だけ愛した、セヴンスナイトの記憶……」 ヴァーミリオンが手を水を掬うように合わせると、そこから輝いた真っ白な光がそれぞれアンバーとジェイドの体に吸い込まれていった。 「あっ……」 ふたりは、体を伝うその暖かさに驚きを隠せなかった。 「セヴンスナイト……向こうの世界では「遠野志貴」って言うわ……」 そう語るヴァーミリオンの心が、今は自分達の中に入って痛い程分かる。
セヴンスナイトだけを誰よりも愛し、愛し、愛し続けて……そして……別れ。
ヴァーミリオンは、がたがたと震えていたアンバーを優しく見つめた。 「……志貴を、大事にしてね」 その言葉が、あまりにも悲しい。 しかし…… 「……はい……」 涙で前が見えない、ヴァーミリオンを見られない。 己の、そしてこの世界への悔しさにまみれながら、アンバーは大きく頭を下げ、敬礼をした。 「行って参ります」 振り返ったら、もう迷わない。 「……ん」 ふと、丘の上で目を覚ます。 「プリンセス……」 瞳に手をやると、そこにはまだ涙に濡れていた。 「……」 プリンセスにこれほどまでに愛された遠野志貴とは、いったいどんな人物なのだろうか。 「……必ず、探し出して見せます」 プリンセスに誓ったのだ。セヴンスナイトを見つけだすのだと。 アンバーは意志のこもった瞳で立ち上がると、ほうきを手に取り、空に向かって飛び出していた。 「セヴンスナイト、待っててくださいね〜。必ず最初に契約して、私のモノにしてあげますから〜!」 元気に叫ぶ声が、空じゅうにこだましていた。 (End,and...GO TO the 1st Night!) |