(ナニかあったと思いねえ)

 

 


「ふふふ……」

 なんだか結局は琥珀さんがいっぱい得をしてるな、と苦笑してしまった。

「もうっ! マスター、次に何かしたらこれじゃ済みませんからね、分かりましたか?」

 少し惚けた顔でそう責められても、とても効果がない。

「はいはい、分かりましたよお嬢様」

 俺はぎゅっと抱きしめてあげると、琥珀さんは顔を真っ赤にしながらも俺を睨め付け

「マスター……分かってない……」

 と、可愛くごにょごにょとやったからたまらない。このまま体制を入れ替えてもう一度……と思った矢先だった。

「それじゃ……」

 と、琥珀さんがすっと俺から離れてしまった。急に一緒だった体温が離れ、寂しくなる。

「こ、琥珀さん?」
「ふっふっふ……マスター」

 と、琥珀さんは不適な笑みを浮かべる。それはとても楽しそうな……。
 そのまま、琥珀さんは俺の部屋のクローゼットにつかつか歩み寄ると、ばんっ! と勢い良くそれを開けていた。と

「ひいいいっ!!」

 そこにはなぜか……青い服を着た金髪の少女が惚けながら驚愕におののいていた。

「あらあらセブンちゃん、出歯亀なんて誰に教わったのかしら〜?」
「ひいいいいいいいいいい! アンバーさんっ!」

 ちょっと悪戯した子供を叱るが如く、優しく微笑む琥珀さんだったが、それに完全に言葉を失い、ガタガタ震える女の子。なんか腕は蹄になっていて……あれは馬の女の子?

「……え?」

 と、ようやく俺は気付いた。まさか……見られていた?
 恥ずかしくなって慌ててトランクスを穿いて布団を巻き付けるが、すでに遅いことは明らかだ。

「こここ琥珀さん、その子は?」
「この子ですか? この子は先程言っていたシエルさんの『武器』ですよ。正確には武器に宿る精霊ですけど」

 さも当たり前のように、琥珀さんはその子の首根っこを掴んだままずるずるとクローゼットから引きずり出していた。うわ、なんだか怖い。

「全くマスターったら、本当に鈍感ですね〜。私は部屋に入ってすぐ気配に気付いたのに、全く気にも留める様子がありませんでしたからね」

 と、ちらりと俺を見ながら意地の悪い顔をする。

「ですから、少しマスターのお仕置きも兼ねて、この子に見せつけてあげたんですよ〜」

 と、今度は女の子の方へ。

「ね、セブンちゃん? 凄かったでしょう? ずーっと凝視していたものね、私たちのセックス」
「あわわわわわわわ……」

 泡を吹く勢いで、セブンと呼ばれた女の子がガクガクブルブルと震えていた。こりゃ失禁するぞ、とも思える程の琥珀さんのある意味の凄味は、先程身をもって体験したから痛いほど分かった。

「ごごごごごごごごごごご、ごめんなさーーーーーーーーーーい!!」

 必死に許しを請うセブンだったが、琥珀さんはにこにこと笑って逆にそれが怖い。

「そんなセブンちゃんには、やっぱりお仕置きが必要ですね〜」

 と、突然琥珀さんの上空、何もない空間から紐が一本垂れ下がってきた。

「?」

 どこかで見たこと有るような、無いような……俺が小さい頃見たアニメやコントを必死に思い出そうとした時だった。

「あはっ、地獄に堕ちちゃえ。アンバープリズン!!」

 と、琥珀さんは楽しそうにクイッと紐を引っ張った。すると

 パカッ

 いつの間に仕掛けたのか、というかこれも魔法なのか、突然セブンの足下の床が開いて、その穴にセブンは真っ逆さまに落ちていった。

「あああああぁぁぁぁぁぁれえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

 凄い、凄すぎる。
 俺は気付いてその穴の前に来たが、下を覗くと漆黒の闇が待ち受けていた。

「あははっ、お一人様ご案内〜」

 と、琥珀さんはさも嬉しそうにけらけらと笑っていた。

「こ、これは?」

 俺がおそるおそる訪ねると、琥珀さんはポーズをびしっと決めて

「これぞまじかるアンバー必殺、アンバープリズン(Amber prison/琥珀の牢)です。私が紐を引けば奈落の底へ真っ逆さま。マスターも逆らったら、こうなりますからね〜」

 琥珀さんの自慢げな姿に、俺は逆に恐怖を覚えた。これじゃ死んじゃうよ……
 と

「さぁマスター、私たちも行きましょう!」

 琥珀さんが俺の手を引っ張った。

「行くって、何処へ? ……まさか」
「もちろんです、この中ですよ」

 俺は必死にブルブルと首を振った。

「冗談じゃない! こんなそこの見えない穴に落ちたら死んじゃうよ!」
「大丈夫ですよ〜、ちゃんと底は別の場所に繋がってますから」

 いくら何でも屋敷の中で謎の穴に転落死だなんて勘弁願いたい。俺は必死にそれを拒んだが、琥珀さんはどこからか取り出したるほうきで、俺の尻をばんと叩いた。

「さぁ、行きましょう〜!」

 と、滑り台を滑るように琥珀さんが俺を引っ張りながら飛び降りた。

「うわぁぁぁぁぁ……!」

 俺は少しだけ薄れゆく意識の中思った。
 せめて、ズボンは穿かせて欲しかったと……

「……ここは?」

 気が付くと、俺は見知らぬ床に倒れ込んでいた。

「はい、ここはお屋敷の地下室ですよ〜。穴の出口はここに繋げておいたので」

 といつの間にか側にいた琥珀さんが説明してくれていた。……って、俺も知らないような地下室を、何故最近来たばかりの琥珀さんが知っている!? しかし、そのようなものは今においては愚問だった。

「あわわわわ……」

 見ると、目の前の診察台のような場所に、セブンが寝かされていた。

「セブンちゃん、お目覚めのようね」

 と、うっすらと氷のような笑みを浮かべ、琥珀さんが歩み寄った。

「ひいいいっ!!!」

 首だけを動かしセブンは恐れおののくが、どうしたのか体は全く動かない。

「無駄ですよ。このアンバープリズン、私が魔力を解放しない限りにはあなたは起きあがることも出来ない、それくらい知っているでしょ?」
「ゴ、ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……!」

 動けない体でガタガタ震えるセブンはかなり痛々しいけど、同情は出来なかった。なにせ一歩間違えば俺もこうなるのだから……

「さぁて……セブンちゃん」
「ははいいいっ!」

 蛇に睨まれた蛙、というより現実に檻の中の馬。

「シエルさんに偵察にかり出されたのかもしれませんけど、相手が悪かったですねえ〜」
「そんなぁ……聞いてませんよぉ、相手がアンバーさんなんて……」

 顔を真っ青にしたセブンは、そのままがっくりとうなだれていた。

「ということで、人のエッチを覗いちゃうなんていけない人にはお仕置きです。マスター?」
「は、はいっ!? なんでしょう?」

 琥珀さんの謎の妖気に圧されて、こちらまで丁寧語になってしまった。

「私たちだけあんな姿見られて、不公平ですよねえ」
「ま……た、確かに」

 ずっと見られてたかと思うと、こっちは気恥ずかしい。

「ですから……」

 不適な笑みを浮かべると、琥珀さんはセブンの方を向き直った。

「セブンちゃんも、一緒に参加して貰いましょう」

 と、手をにぎにぎさせながら、嬉しそうな表情でセブンの服を脱がしにかかった。

「えええええっ!」
「えええええっ!」

 俺とセブンは同時に声を上げた。
 そりゃ、理論としては正し……くない、やっぱり。

「ほらほら、セブンちゃんはシエルさんに虐げられてるんですから、男の人なんて知らないでしょう? ここに素晴らしいマスターがいるから、パーッと貰われちゃいましょう?」
「ひ、いやぁぁぁあぁぁあぁあああぁ……」

 琥珀さんはとても嬉しそうに、そしてちょっぴり怖かった。

「ほらほら、男と女の営みの素晴らしさを教えてあげますからね〜」