「はぁっ!!」
 翡翠の強烈なナックルを、何とか避けて俺は飛びすさる。
 それを追うようにして翡翠が差を詰め、間髪入れずに蹴撃。
「くっ!」
 その首を刈るような回し蹴りを、しゃがみ込んで避ける。
「……あ、白」
 そのふわりとめくれるスカートの中を見て、俺は素直に呟く。
「……!?」
 真っ赤になりスカートを手で押さえる翡翠。その隙に俺は間合いを離し、次に備えた。

 琥珀さんにああ言ったものの、正直逃げ回るのが精一杯だった。
 さらに(多分)違うとはいえ、翡翠を傷つけるわけにもいかない。
 何かいい手段は……と思いながら、ギリギリの戦闘は続いた。

「……あなたは、愚鈍だと思います。許しません」
 スカートを覗かれた事で頭に血が上ったらしい。翡翠が怒りと非難の目を俺に向けた。
「まずい……か」
 焦りを感じながら、俺は腰を落として構える。
「マスター……」
 琥珀さんもそんな俺達に手を出せず、黙って見ているしかなかった。

 ……と、なにやら翡翠は人差し指を俺に向けてビシッと立てた。
 そして、それをグルグルと……

「あなたを、洗脳です」

 そう言う翡翠に、俺は頭が回り始めた。
 何だ、なんだ、ナンダ……?
 俺は気づいたら、体が勝手に動いていた。
「命令です、姉さんに……しなさい」
 なにやら恥ずかしがって命令するが、俺には分からない。
 でも、とにかく目の前の琥珀さんが……欲しい。

 抱きたい。

 拒まれるなら……犯してでも

 その体を、味わいたい。


 気付けば、俺は琥珀さんを組み伏せ、その割烹着の前をはだけさせていた。

「やっ!……マスター、気を確かにしてください!!」

 琥珀さんは俺から逃げようともがくが、力を込めてそれを封じる。
 そうして、俺はせわしなくチャックを開けると、いつの間にかギンギンにたぎっていたそれを、前戯も無く琥珀さんの中に挿入した。

「ああっ!」
 その瞬間、琥珀さんは目を見開く。いきなりの挿入は内部が濡れていないから、恐らく少し痛むのだろう。
「そんなっ……いきなりなんて!あはぁっ!」
 口では否定するが、琥珀さんの体は正直だ。もう俺を包み込んでにゅくにゅくと蠕動運動をしている。

「琥珀……琥珀!」

 俺はその狂った反応に、いっそう強く腰を打ち付ける。地面に転がされて貫かれている琥珀さんの事など考えずに、自分の欲望を満たす為だけに出し入れする。
「きゃ!……マスター、だめぇ……」
 感じまいとする琥珀。快楽を我慢する姿が逆に艶めかしく、俺の脳は更に沸騰した。
「琥珀!ほら、気持ちいいだろ!?」
 俺は確かめるように一度モノを入り口近くまで引き抜くと、そこから強烈に突き上げた。
「あああっ!!」
 琥珀さんが体をこわばらせる。ガクガクと震えるが、決して嬌声を上げようとはしないで、歯を食いしばって耐えていた。

 俺はそんな琥珀さんをダメにしてしまいたくて、そのまま何度も何度も強く突き上げた。
「ほら!ほら!!」
「あっ!あああっ……!!」
 琥珀さんは必死に体を襲う快楽の渦に耐えていたが、何度目かの突き上げにとうとう堪えられなくなり
「ダメ……いい……マスター!!」
 遂に、琥珀さんは俺を求めてしまっていた。

「琥珀さん……琥珀!」
 俺は体ごと覆い被さり、唇を貪る。そのまま舌を絡めて唾液を飲み込み、すべて解け合うように突き続ける。
「マスター!マスター!!こんなところで……ああん!!」
 俺よりわずかに理性が残る琥珀さんが、必死に訴える。
 しかし間もなく快楽に体をピンク色に染め、膣は俺のペニスを溶かし去ろうとするが如く愛液を溢れ続けさせていた。

 ぐちゅり、ぐちゅりと濡れた音をさせ、二人の繋がる部分は妖しく粘液が絡み、その音までもが俺を刺激する。
 力の限り、俺は琥珀を抱く。
 先ほどまで戦っていたなんて事はすっかり頭から消え去って、逆に戦っていてハイになった気分をそのままセックスに持ち込んでいる気分だった。
 その高揚感が、俺を最後の所に連れて行こうとしていた。

「うっ……琥珀さん、イクよ!」

 俺はそう言って、より激しく穿つように琥珀を攻め立てる。

「やっ……ダメ!マスター!」

 それを聞いて今まで恍惚の表情で俺に抱かれていた琥珀さんは、目を開いて驚愕の表情をする。
「どうして?さっきみたいに中に一杯出してあげるから……」
 言葉を吐き出すのも、イキそうな俺には苦行だ。奥歯を噛み言葉をどもらせながら言うが

「中はだめ!ジェイドちゃんの思うつぼに……あああっ!!」

 早く強い俺の打ち付けに、琥珀さんはそこで言葉が中断させられる。
「何言ってんだ、さっきは自分から求めてきたのに……」
 そうして俺の奥底から、ぶるりと身震いがあがった。
「くっ!出すよ!」
「ああっ!ダメ!!」
 俺は最後のスパートに入ろうとした時だった。

「……唱えなさい」
 消え入りそうな声で、翡翠が俺に命令をしている。
 何を……唱えろと?

 しかし、俺はその言葉にあらがえない。それどころか何を言えばいいのかが自然に頭の中に浮かんできた。

「我、セヴンスナイトに於いて命じる……」
 詠唱に我慢が弾け、俺の睾丸から立ち上る射精の感覚。
「マスター!やめて!!」
 琥珀さんの悲鳴のような叫びがまるでイッちゃう時のようで、逆に深く突き込む。
「まじかるアンバーとの契約を……」

 破棄せよ

 そう言って、同時に琥珀さんの膣の奥深く、それこそ子宮口に向けて思い切り射精しようと腰を大きく引いて振りかぶった瞬間だった。
「マスター!やめてって言ってるでしょ〜!!」

 
 ドガァァン!

 俺の顔面を狙いすましたかのようにどこからか飛んできたほうきの柄が、正面から眼鏡に直撃した。

「がぁはあぁっ!!」
 俺は無惨にも、その衝撃で琥珀さんの中からペニスを抜き出されてしまう。
 と同時に、絶頂に達していた。

 ビクン、ビュク!

 後ろ向きに仰け反り倒れる俺に呼応して空を向いていたペニスから、悲しくも中で放出できなかった精液が迸る。
 それは放物線を描き、目の前の琥珀さんの服に浴びせかけられていた。

「ああああんっ!!」

 同時に、琥珀さんも最後のその衝撃で達していた。

 開かれた脚の間、その内股を濡らす股間が大きく波打ち、花弁がいやらしくヒクつき、同時にぷしゃぁと、愛液の泉を湧かせていた。
 浴びせられた精液が割烹着を白く汚す。
「あああ……」
 くたりと琥珀さんが力を失うのを見ながら、俺は後ろに倒れていった。

 ガツン!

 地面に激しく頭を強打し、そこでようやく正気が戻っていた。
「ててて……あ、琥珀さん!」
 俺はモノを仕舞って目の前にまだ倒れる琥珀さんを抱き起こす。

 トクトクと溢れる愛液の雫が地面に落ちて、それを吸い取っている。それを味わいたい衝動に駆られながらも、何とか理性で抑えて前を整えて、体を揺らす。

「あ……」

 薄目を開け、ぼーっとしている琥珀さん。
「ごめん、こんなに汚して……」
 服にかかる俺の精液を、何とかしようとワイシャツの袖でこすろうとする。
「マスター……」
 琥珀さんが弱々しい声で呟く。
「どうしたの、琥珀さん?」
 俺は心配そうに見つめる。

「あはっ、外に……出したんですね」
 琥珀さんは体にかかる精液の跡を確認してそう言うと、にっこりと笑った。
「では、まだマスターは私と契約してくれるんですね?」
 本当に嬉しそうな琥珀さんに、ドキッとさせられてしまう。
「……何言ってんだよ、俺達は契約したんだろ?」
 その笑顔を正面から見れず、恥ずかしがり俺は目を反らしながら言うが

「……よかった……本当に……」

 そうして、ホロリとその瞳から涙が溢れていた。
「……琥珀さん?」
 俺は、不思議な思いを隠せずにはいられなかった。

「マスター、ジェイドちゃんに洗脳させられてたんですよ」

 琥珀さんは、こぼれる涙を拭いて笑ってくれた。
「洗脳……?」
 ……あれか。先程の指の動きを思い出す。
「だから、私を襲っちゃったんですよ、いけませんね〜」
 ニコニコ笑いながら、恐ろしいことを言う。
「そんな……」
 自分の欲望を解放されたとはいえ、襲ってしまった自分に悪寒を覚えてしまう。
「だから、私の中に出そうとしたんです……だから最終手段でほうきを……」
 苦笑しながら、琥珀さんはほうきを見る。それは今は主の命令を遂行し、そこにぷかぷかと浮いているだけだった。

「実は、もう一つ契約解除の方法がありまして、それが契約と逆の手段なんです。だから、マスターが私の中で出して、その時に解除呪文を唱えられたら……私……」
 そこまで言って、琥珀さんはまた涙を溢れ出させていた。

 俺はその琥珀さんへの愛おしさと、無理矢理してしまった自分の罪悪感から、琥珀さんの体をぎゅっと抱きしめた。
「琥珀さん……ごめん、ごめんね」
「マスター……いいえ、いいんです。私こそ……あんな事しかできなくて……」

 確かにほうきで顔面を突かれたのは痛かったが、頑丈なあの眼鏡が守ってくれたし、そうしないと俺は……琥珀さんを悲しませていたんだろう。
 そう思うと、中に出すことを阻止したほうきの一撃も、正気を取り戻させてくれた後頭部の痛みも、すべて受け入れられた。

「マスター……」
「琥珀さん……」

 俺達は抱き合い、互いの体温を感じていた。
 そうして、顔を離し、逆に今度は唇を近づけようとしたその時……


「……もう、やめてください……」
 反泣きの声が、背後からあがった。

「……あ」
 俺達は、汗を垂らしながら苦笑いをしてその方向を向いた。

「……あはは〜、ジェイドちゃんゴメンね〜」
「それは〜、その……コホン、元を正せば翡翠が悪いんだからな……」
 俺達は互いにそう言って翡翠を見る。

 翡翠は目の前で繰り広げられた、痴態に始まり愛の抱擁で終わるまでの全てを見せつけられ、恥ずかしさとショックで混乱していた。

「どうして……どうして!!」
 顔を真っ赤にしながら叫ぶ翡翠に言葉を探していた俺達だったが、そこは慣れたものらしく琥珀さんが真っ先に返す。
「あら〜、ジェイドちゃん私たちのセックスずっと見てたの?」
 そう言われると、なんだかこちらも恥ずかしい。
「そ……それは……」
 俺を洗脳して、琥珀さんの中に出させて契約解除させようと仕向けたのだから、たぶん全部とは言わないがほとんどは見ていたのだろう……恥ずかしさに真っ赤になりながら。

「どう?私達のセックス、興奮した〜?」

 そう言って、抱きしめたままの俺の体を、ぎゅーっと自分に押しつけてくる。

「……」

 翡翠はうつむいてしまう。その瞳は見えないが恐らく困惑と羞恥と……その辺の入り交じった色をしているだろう。
 そうしてここからも見える顔色は真っ赤になっていて……さらに肩が震えていた。

「ほら、襲われちゃったのは不覚だったけど、セックスはこんなに気持ちいいんだよ。ジェイドちゃん……自分と同じ顔をした人が目の前で淫らに喘いでいて、自分の様だと思ったでしょ?」

 ここぞとばかりに、機関銃の如く琥珀さんがまくし立てる。
 ぐっと腕を握りしめる翡翠。恐らく何かに耐えているのだろう。

「だから……無駄な争いはやめてジェイドちゃんもマスターに……」
「姉さん!!」
 琥珀さんがそこまで言ったところで、翡翠が制止するように珍しく声を荒げた。
 翡翠は下を向きながらプルプルと震え、己の葛藤と戦っている……かのように思えた。
「悩まない悩まない、マスターはきっと優しくしてくれるよ〜。ねえ、マスター?」
「あはは……」
 琥珀さんに屈託のない笑顔で同意を求められるが、その意味を解した俺は苦笑するしかなかった。

 つまり……「翡翠は俺に抱かれろ」って事でしょ、琥珀さん?
 そんな簡単に言わないでくださいよ……でも、それはそれでおいしいか?姉妹丼だし……
 俺がそんな不埒な考えを巡らせているときだった。

 ふらりと、翡翠がこちらに顔を上げた。
「姉さん……そして協力者……」
 翡翠は、決心したようなはっきりした語調で語る。
「決めたみたいね、ジェイドちゃん」
 琥珀さんは安心したように笑う。
 俺は……姉妹丼が決定して心の中では飛び跳ねたいが、雰囲気を察してそれを押しとどめた。

 ……が、次に出た言葉は俺達の考えとは全く逆だった。
「あなた達を、死刑です!!」

「「……え?」」
 俺達はあっけにとられて翡翠を見る。
 が、翡翠は怒りのオーラを全開に滾らせて、構えていた。
「私をここまで辱めて……たとえ血の繋がった姉妹といえど、その行動を万死に値します!!」
 そこまで言うと、翡翠の背後に浮かぶ怒りのオーラが爆発する。

「……あはは〜、逆効果だったみたいですね〜」
 琥珀さんが苦笑するが、俺は冷や汗を垂らすしかなかった。

「覚悟です!!」
 翡翠がそう叫んだと同時に、オーラが衝撃波となって俺達を襲った。
「きゃぁ!」
「うわぁ!!」
 そろって吹き飛ばされ、その遙か後方に転がった。

「マスター、大丈夫?」
 琥珀さんに呼びかけられ、立とうとするが
「!?」
 どうやら右足を捻挫したらしく、立ち上がることができなかった。
「しっかりしてください、マスター!」
 琥珀さんが肩を貸そうとしたが、それより早く、風のようにその姿が近づいた。


「翡翠……」
 俺を見る冷酷な瞳に、
 殺される
 と思った。

「もう……その呼び名も慣れましたが……これが最後です」
 翡翠が先程と同じように洗脳しようと指を掲げる。
「姉さんを殺し、自分も死んでください!」
 情を失った瞳でそう言い放った。

 ……ああ、翡翠に殺されるなら本望かもな
 でも、もうちょっと生きていたい。

「マスター!」
 ぎゅっと、俺の体に抱きつく強い感触。
 気づけば琥珀さんが、離れればいいのに俺にしがみついていた。

 ……ああ、琥珀さんゴメンよ。何もしてやれなくて……

 いや、ダメだ。
 俺は、彼女と契約したんだ。
 守らなくて、何がセヴンスナイトだ。

 そう思ったら早かった。
  そして冷静だった。
 一瞬のうちにポケットから七夜の短刀を取り出し、刃を出す。

 そしてそれを……

「!!」
 刃の腹の部分……年代物に関わらず刃こぼれ一つ無い、磨かれたその面は……鏡のように光を反射していた。
 それを自分と翡翠の間にかざし、逆に指の動きを翡翠に見せつけたのだった。

「あああ……」
 自分の回す指に、自分で洗脳される翡翠。
 そうして、翡翠は力を失い、ぺたりと地面に座り込んでしまった。