ネロの体は重すぎる!

 

 

 

 

「まずは、私の体のつくりからだ。私は666の獣を体に内包している。現に……」

 と、ネロは体から犬を飛び出させた。
 一同、おおーと拍手を送る。

「こんなモノは序の口だ。他にも様々な獣がいるぞ」

 体に犬をしまい込みながら、ネロは機嫌良く続けたが

「しかし皆、こんな事が可能だと思えるか?」

 上手く学生の注目を集めたところで、質問を繰り出す。お、こいつ元々魔術師だけあって話術に長けてるな。

「教授、重さとかは問題にならないのですか?」

 と、目を向けると……ロア助。
 おまえら、組打ちじゃないだろうなぁ。

「うむ、いい質問だ。まずはそこから答えよう」

 ネロがスライドに明かりを付け、そこに資料が映し出された。

「見ての通り、私の体には獣が入っている。しかもそのいずれもどう猛で、666もの数がだ。その場合、私の体重はどうなるだろうか」

 そう言って現れたのは、現にあいつの中にいるだろう生物。
 そのラインアップは超大型犬・鹿・ジャガー・虎・ワニ・サメ・ゾウ・サイ……いずれも巨大で、確かにどう猛そうだ。
 ……他にも一部訳の分からぬ生物もいたが、この際現実にいない動物は忘れよう。

「それぞれの体長や体重を調べてある。それがこれだ」

 スライドのボタンをピッと押すと、重なるようにして動物の体重が現れた。

「超大型犬60キロ、鹿は3m超で800キロ、ジャガーは2mで50キロ、虎はアムール虎が3mで300キロ、ワニならば5mで500キロ。サメはどう猛なホオジロザメならば5m・1tはくだらない。そしてサイは4m・2.5t、ゾウに至っては7.5tもあるのだ」

 ほう、と一同感心する。動物の体重などあまり考えたこと無かっただけに、勉強になった。

「このような生物が私の中に多数存在する。ここでは平均を低く取り、100キロだとしてみよう。すると私の体重は66600キロだ」
「ふ〜ん……っておい!」

 俺は危うく聞き流すところだったが、思い出したように叫び声を上げた。

「重すぎだろ!」

 俺は叫んでいた。だってグラムじゃなくてキロなんだから……66.6t!?

「いかにも」

 至極当たり前のようににネロが答えた。

「いかにも……って」

 俺は絶句した。人間の体重じゃないぞそれ……

「アルクェイド……」

 と、横で普通に聞いていたアルクェイドに話しかけた。

「ん? まぁそれくらいなんじゃない?」
「……」

 しまった。こいつもあっち側の人間……いや、真祖だったっけ。

「だってあの体に66tって、密度がありすぎないか?」
「そうだね。大体普通だったらネロは体重80キロ位かしら? なら容積は80000立方センチだね。じゃぁ密度は?」

 なんだか、今度はアルクェイドとネロの組打ちに思えてきた。

「えっと……66600000gを80000で割って……832.5グラム毎立法センチメートル、か」
「うむ、その通りだ」

 ネロが頷くが、俺にはいまいちそれがどういう数字なのか分からない。

「アルクェイド、これって密度が大きいのか?」

 アルクェイドに尋ねると、何故かニヤニヤしている。

「志貴〜。一番密度の大きい物質ってイリジウムとオスミウムって言うんだけど、密度は22.5だよ」
「え……それの37倍近く……? って事はこの世にあり得ない密度……?」

 初めて、その数字の意味に驚いた。

「だって、人間の体は密度1だよ。たとえばこれ消しゴムの欠片だけど、大体5グラム? ネロの体はこれくらいで4.2キロはあるってことになるわね」
「……」

 だめだ、何だか俺は悪い夢を見ているようだ。

「しかし、ネロは動きは人並みだったぞ、その力をどこから……」
「さぁ? それは本人に聞けば?」

 そう言って視線がネロに戻る。

「うむ」

 と、気付けばネロの体が浮いていた。

「ええっ!?」
「語るより見せるが早い。少年、こういう事だ」

 と、何故か周りからは拍手。しかしどう考えたってマジックじゃない。どう見たってワイヤーなんか体に付いていない。

「は、反重力?」
「いや、そこまで私の研究は成果を見せていない。これは代わりに地面に重力波を発しているのだ」

 と、ふわっとネロの体が地面に付いた。

「今は自重を越える力で浮いていたが、そうすると骨が弱るから体が支えられぬ。通常は100キロの体重を維持するように力をコントロールしている」
「と……いうことは、ネロが常に発し続けている力は……」

 ネロの体重から100キロを引いた66.5tを常に地面にめり込まないようにする為には、重力加速度9.8と1秒での沈降距離4.9mをかけたエネルギーを出し続けなければならない筈だから……おかしい。

「秒間300万ジュール以上……あ、ありえねえ」

 俺は言葉を失った。
 ダイナマイト1キロで100万ジュールって言うから、アイツの体からは常にダイナマイト3キロ分のエネルギーが消費されている訳だろ……

「そうだ。だからこうすると……」

 と、何故かネロが呼吸をひとつ。

「志貴、伏せてっ!」

 と、突然アルクェイドに体を机の下に押し込められた。

「むぐぅ!」

 と、反論の声を上げるまでもなく。

 ビシャァン!ドガァアン!

 物凄い衝撃音が響いて体が揺れた。

「な、なんだ……」

 と、俺が音が収まってようやく顔を上げると……
 廃墟が。

「む、床が崩れてしまったか、仕方ない」

 と、脚をぼこっと床から抜き出すネロ。

「重力はなかなか厄介だな」

 と、ヤツ中心で10メートルくらいが完全破壊されていた。

「あ、あいつ1秒力を解放したわね」

 と、普通にアルクェイドが述べるが、俺達の周りの皆は殆どがぶっ倒れて……そりゃぁダイナマイト3発、この狭い空間で爆発させたら大変な事になる訳だし。エネルギーは通常球状に広がるから、放射状のこの教室では理想的なエネルギーの伝搬が行われちゃったらしい。
 常に出しているエネルギーで床が壊れないか? と思うが、どうやらそこは都合良く作者が誤魔化しているらしい。1秒解放しただけでネロは自身の身長くらいは床にめり込んでもおかしくないはずなのにな。

「ふっ、人の話の途中に床に伏せるなど、失礼極まりないな。そういう生徒には仕置きだ」

 と、ネロが背後にあった黒板らしき所からチョークを取った。

「へっ、そんなの投げつけられても痛くないぞ」

 と、俺はからかったが

「とりあえず逃げたら?」

 とアルクェイドは笑って言う。

「言われなくても……」

 こんなヒビだらけの部屋、もう少ししたら崩落しそうで危ない。
 とりあえずこの際気にしないで机に脚を乗せて立ち上がった時だった。

「ふ。先程のエネルギー、このチョークに集約させて投げてやろうではないか」

 不適な笑みのネロ。

「な……? だって300万ジュールだよな……えと、それは5グラムくらいだから……初速マッハ330!?」

 机の上に立って暗算する俺も俺だ。それに気付いた時には遅かった。

「ふっ……」

 バシイ!

「ぐはぁあああああ!」

 俺は全てのエネルギーを貰い、初速316メートルで吹っ飛ばされていた。辛うじて常温の音速を下回ったから、こうして鈍い低い音が聞こえたんだな……って思いながら、壁に激突して意識を失っていた。

「あーあ、初速マッハ330って秒速112キロよ、第二宇宙速度の丁度10倍。そのまま避ければチョークが銀河に飛び立ったのに〜」

 最後のアルクェイドの声、そりゃ無理だって……10メートルを0.00009秒で来るんだぜ、人間の反応速度なんてお話にもならないよ……