ネロのDNA理論は酔っぱらいに支えられている!

 

 

 

 

「ん……ん〜」

 俺はハッと目を覚ますと

「あ……れ……?」

 気付けば教室は何もなかった様に元に戻って……

「あ、やっと起きたな、こいつめ〜」

 と、アルクェイドが俺の頬をぷにぷにと突っついていた。

「アルクェイド……俺……」
「ん? さっきから居眠りしてたよ」

 アルクェイドにしれっと言われるが、この胸の痛みは……それに、なんで生徒が俺達くらいしかいないんだよ……

「うむ、少年。今回は大目に見てやろうではないか」

 とネロ教授。足下の床は穴が空きっぱなしだった。

「……」

 とりあえず、悪い夢だとしておこう。

「さぁ次は666の獣たちについてだ。皆のもの、私の混沌見破れるか?」
「おひ……」

 ほとんど聴講生がいないのに授業を進めるな……

「まぁいい……で、お前の体は混沌なのにどうしてそうポンポン獣が出てくる? DNA情報もぐちゃぐちゃになってると、訳分からない生き物はともかく、実在の動物なんて出てこないだろ」

 俺は突っ込んだ。

「うむ……流石に完全なる混沌まで無の境地には達していない。私も666の獣のDNAを1組はこの中に保持している」

 と、コートからちらりと覗く混沌。ある意味気持ち悪い。

「まぁそれは認めるか。でも、どうやって体から出てくる? 体重の件は……おいといて、タンパク質の液体から生物がにゅっと出てくるわけがないぞ?」
「良い着眼点だ。君自身の理論を聞きたい」

 と、興味ありげにネロが俺を見た。

「うーん……666の獣は全てどう猛なんだろ? でも、実は一部DNA情報から生体を構成する事が出来るマッドサイエンティストみたいなのがいる、と考えれば可能か?」
「ほう……」
「でも、そんな都合のいいヤツ……なんだ。いたな、日本にも」

 俺はぽんと拳を打つと、にやりと笑った。

「命名するぜ。『酔っぱらいの宮大工理論』だ」

 一瞬呆れかえったようなアルクェイドを始め残っていた生徒(どこかで見た事あるヤツばっかりだけど)

「酔っぱらいの宮大工理論……」

 ネロも流石にそれには想定外か、言葉を詰まらす。

「そ。腕は確かだけど暴力的、いつも酒瓶片手だけど神社とかの金細工作らせたら世界一、みたいなのいるだろ? お前の体にもそう言うのがまぁ……あのスピードで出てくるなら100体はいるだろ?」

 今までヤツの半分の獣も見ていないから、俺はそれくらいだと見積もってヤマをかけた。自信はないがこれくらい言わないと。

「ふ……」

 ネロが目を閉じて首を振る。流石にアホらしかったか……? が

「正解だ、少年」

 ズズーッ!

 その場にいた全員がこけた。むろん俺も。

「せ、正解って……」
「完璧な理論だ。ここまで見抜くとは素晴らしい才能だと賞賛しよう」

 ずり落ちた眼鏡を直しながら冷や汗が出る。
 まさか当たるとは……

「って事は、お前の体表面ではそいつらがタンパク質やらカルシウムやら合成して動物をセーター編むみたいに作ってるのか?」
「無論」

 そうしてコートの前を開けると、一瞬混沌が歪む。そして犬。
 なるほど、歪んだ一瞬ってのは内側で合成していたのか。

「まぁいい……つか良くそんな生物見つけたな。感心するぜ。というかそんなバカみたいな生き物取り込んで……」
「だぁぁぁぁぁれがバカじゃぁぁぁっ!?」

 ガツン!

「がっ!」

 俺は突然の衝撃に頭を押さえた。
 見るとネロの体からにょきっと伸びた手が俺に向かっていて……その手には一升瓶。

「ヒック。わしはこれでも『獣界のピカソ』と呼ばれてるわ!」

 体が全部現れたのは……謎の生物。確かに人間の筈なのに人間に見えないと言うピカソの絵みたいなヤツだった。キュポっと蓋を開けると、中の酒を一気飲みした。

「いてててて……ピカソならもっと生物のディテールを研究しやがれ。変な生物ばっかじゃねえか」

 俺は流石に姿が確認できれば次は避けられると思って、強気に出た。

「な、小僧言わせておけば……!」

 と、ヤツが空になった酒瓶を振り上げた。俺はナイフを取り出し眼鏡を外す。正当防衛なら酒瓶の点を突いて消しても俺に非はない。
 が、認識が甘かった。自分で100体くらいと言っておきながら……

「「「「「「「「「じゃかぁしいわい!!」」」」」」」」」」

 と、360度から酒瓶で同時に殴られて、俺はばったりと床に伏した。

「ったく、こんなのがいるから伝統は薄れてくんじゃ……」
「ヒック、ワシらも享受の体の中くらいしか仕事が無くなったからのう」
「生物が独立分化したのがいけないんじゃ。さぁ、ワシらは仕事に戻るかのう」

 ぞろぞろとネロの体に戻る数十人の爺さん……もとい酔っぱらい。おまえらいつの時代の生物だよ……

 

 

 

「……んー」

 本日二度目の悪い目覚め。

「志貴、おっはよ〜」

 と、横にはアルクェイド。

「ああ……またか」

 と俺は起きあがろうとして腕を動かすも
 ジャラリ
 鎖に繋がれて身動きがとれなかった。

「な! な!?」

 慌てる俺にアルクェイドが説明した。

「あ、何だかネロが話あるから待ってろって、どうしてもらしいから縛っていったわよ」
「止めろよ!」

 俺の騒ぎを聞いたのか、隣室からネロが姿を現した。

「私の獣たちが無礼を働いたようだが、自業自得だ。少年」

 ネロはいささかも悪く思う様子ではなかった。

「で、どうだ少年。なかなか才能があるようだが、私がこの大学の推薦状を書いてやる。特待生入学で私と研究をしてみないか?」

 と、いきなり訳の分からない事を言った。

「な?」
「もちろん、真祖の姫君も一緒だ。こちらはすぐにでも博士号を与えて貰って共同研究にいそしみたい」
「あら、貰えるなら私はいいよ。志貴と一緒に学校来れるなら幸せだしね〜」

 と俺に抱きつくアルクェイドだった。
 ……ったく、こいつらは……

「いーーーやぁぁだっ!!」

 俺の魂の叫びは、研究棟にむなしく響くばかりであった……。