空想科学月姫 〜その3〜

「ネロ教授の体を科学する」

 

 

 

 

「志貴ー。ここって志貴の学校より広いねー」
「まぁ……そりゃ、大学だからな」

 俺たちは今、三咲町から最寄りの大学のキャンパスを歩いていた。メインストリートは非常に活気があり、大学の自由な空気が心地よかった。

 今日はオープンキャンパス。日頃あまり出かける機会もないし、折角だからとアルクェイドを誘ってやってきたのだった。

「へー……」

 教室を見渡し、俺は声を上げる。
 教室は言うなればすり鉢を半分に切ったような構造で、中央の教壇から放射状に席が伸びていた。
 こういう教室はもちろん高校にはないから、初めて見るわけで感動した。

「あ、ほらほら志貴、そこが開いてるよ」

 アルクェイドは中段位に2つ空いている席を見つけ、俺の手を引っ張った。

「よっと……うん、いい眺めだなぁ」

 見下ろすという感覚が爽快だ。高低差を感じて不思議な感覚にとらわれる。

「ところで……何の話を聞くの?」

 アルクェイドは俺の方を見て聞いた。

「確か……物理・化学・生物の融合とかそんなタイトルだったような……」

 公開講座として一般に開放される授業。看板にはそう書かれていた。
 高校理科の枠組みは物理・化学・生物・地学に分かれる。その内の主要3つの融合とは、なかなかに興味のある題材だった。

「へー、サイエンスの話なんだー。別に枠組みなんていらないのにねー」

 アルクェイドはあっさりと答える。でもそれが真理であった。

「そういえば……おまえ、科学なんて分かるのか?」

 楽しそうに開始を待つアルクェイドに、俺はふと思った疑問をぶつけてみた。
 すると、アルクェイドはこちらを向き、優しい笑顔を俺に向けた。

「志貴……わたしの空想具現化って、どうやってると思う?」

 その笑みは、とても穏やかだった。

「―――――あ」

 しばらく考えた後、なるほど。
 俺はぽんと手を打った。
 
 空想具現化は、自然に干渉して発揮させる力。
 自然とはそう、科学そのものだ。
 
 そんな力を自由に操れるアルクェイドに、科学で知らぬ事などあろうものか。

「そういうこと。だから分からないことがあったら何でも聞いてね」

 アルクェイドは控えめに言うが、俺はこの時物凄い天才と一緒にいるんだなぁと、改めて実感させられてしまった。

 

 しばらく後、教室のドアが閉まった。
 期待に胸躍らせながら、俺は教授の登場を待った。が……

 ガチャ……

 ドアを開けて入ってきたのは、相変わらず俺の見覚えのあるヤツだった。

「あら」

 横にいたアルクェイドも、見慣れたその姿に普通に反応していた。
 その男は教壇に立つと、辺りを見回した。

「学生達、よく来た。私はネロという」

 なんで……こいつがここに。

「少年、どうした」

 めざとく俺を見つけたネロが話しかけてくる。

「いや、ネロ……教授、ここの人だったんですか」

 頭を抱えながら答えた。

「うむ……丁度研究施設も整っていてな。この間から雇われている」

 死徒が被雇用者ですか……なんだか涙を誘うがネロが満足してるならいいや。

「それでは、講義を始めよう。今回は私の体をテーマにして、様々な科学の切り口を見せようではないか」