結局、そのまま意味もなくドラマの再放送を横目に、つもる話をしたり、予備校の場所の下調べをしたり、これからどんなお店に行こうか相談したりして、夕方になっていた。 「お先にどうぞ、お客様」 と冗談半分に言われて、お風呂にゆっくりと浸かった。 「志貴君、もうおやすみ?」 と、そのパジャマ姿にドキッとした。その姿から立ち上る色気がたまらなく俺を刺激した。 「ええ。今日は流石に疲れましたから。で、ど、どうしました?」 語尾が裏返ってる、と気付いたのは直後だった。少し焦る。 「ふふっ、明日、何時頃起こせばいいのかなって」 そんな俺に気付いているのか、笑いながら朱鷺恵さんが尋ねてきた。 「8時くらい……といっても、多分普通に起こされても起きないと思いますから、自分で起きますよ」 俺は自分の眠りの深さに苦笑しつつも、一応の時間を示した。 「うん。翡翠ちゃんに聞いてるよ。志貴君、30分揺すっても起きない事とかあるって。それに、寝顔がすっごくきれいなのも。私は2〜3回しか見た事無いけどね。いいなあ翡翠ちゃんは、志貴君の寝顔を毎日見られるんだもんね。あ、これからは私も見られるのかあ」 朱鷺恵さんがちっとも気にしないようでそんな事を言う。が俺には結構なダメージとなっていた。 「あ……」 俺はちょっとどころか大分恥ずかしがりながらそれに答える術がなかった。 「という事で、明日からは私が毎日起こしてあげるね。大丈夫、イタズラなんてしないから、ね?」 と、朱鷺恵さんはウィンクなどして俺をからかうようにした。 「あら」 まだまだガキだなあ、俺も。 「……そう。じゃぁおやすみ、志貴君」 朱鷺恵さんは少し驚いたように、それから小さな声で呼びかけてくれた。 ……なのに、なかなか戸を閉めようとしない。 そして、朱鷺恵さんの声が聞こえたのはすぐ後だった。 「……志貴君」 ちょっとだけ、寂しそうな声。 朱鷺恵さんは俺が起きているのを承知で話しかけているようだったが、俺はそのままでいた。 「昼間、ここで志貴君を見てたでしょ。私ね……」 ゆっくりと、慈しむように語る朱鷺恵さん。 「私ね、あの時、さっきの続きがしたい、って思ってたんだよ、朴念仁の志貴君」 最後の方は、またいつものからかうような口調に戻っていた。 「おやすみ。また明日ね!」 と、最後は恐らく笑顔で言ったに違いない。声が笑っていた。 ……バカ! 俺のバカ! しばらくして、俺は暗闇の中自分の頭をポカポカ叩いていた。
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