と、来客が帰った後に朱鷺恵さんが不思議そうに俺を見た。 「うん。これでも少し多いかなって思ったけど……」 と、俺は足下を見やる。 来客は宅急便で、俺が昨日送った荷物を届けてきたのだった。自分の荷物に自分が足を引っ張られるとは……残念でならなかった。 「私が旅行行く時でも、こんなにまとまらないのになぁ」 朱鷺恵さんがひとしきり感心しているようだ。 「よっと。じゃぁ、部屋に持ってきます。どこの部屋を使えばいいですか?」 と、それを持ちながら朱鷺恵さんに尋ねた。重さも本が多少入っているだけだから見た目以上に軽い。 「あ、志貴君は和室と洋室、どっちがいい?」 朱鷺恵さんの言葉に、俺は嬉しくなった。 「和室あるんだ。なら迷うことなくそっち」 なんだかんだで、日本人なら畳でしょう。有間の家にいた時は和室だったし、約2年ぶりの畳の部屋生活、ってことになる。 「わかったわ。こっちよ」 朱鷺恵さんは最初からその答えを予想していたらしく、俺をリビングの向こう、2つのドアの1つに案内した。 「畳は私がここに来た時に張り替えたみたいだけど、元々全然使っていない部屋だから。この前志貴君が来るって分かってから掃除もしたし、新築同様よ」 空調の利いてない部屋は少し暑いけど、すぐ朱鷺恵さんがエアコンを付け、換気の為に窓を開けた。 「あ、布団もある」 と、部屋に入った俺は隅に置かれているそれに気が付いた。 「そうよ。今日干したばっかりだからふかふかで、今夜はぐっすり眠れるはずよ」 言いながら窓を閉め、カーテンを引く朱鷺恵さん。柔らかい光が気持ちよく部屋を包む。 「そうだね……慣れない電車だったし、疲れちゃったよ」 俺は座って荷物を置くと、そのまま這って布団に手を置いた。ぽす、という間抜けな音で俺の手が包まれ、柔らかい布団の感触にそのまま倒れ込みそうになった。 「……っと、今寝たら汗が付いちゃって折角の布団が台無しだ」 慌てて体制を整え、ぽんぽんと布団を整えた。 「で、朱鷺恵さんの部屋は?」 一通り見終わった後、俺は朱鷺恵さんにふと尋ねた。 「私は、壁を挟んで隣の部屋よ」 別に問題もなくあっさりと答える朱鷺恵さん。 「見てみたいな〜」 俺は別段何も考えず聞いてみたが 「だ〜め。女の子の部屋はひょいひょい覗いちゃダメよ?」 と、イタズラっぽく返されてしまう。 「ちぇ」 俺はさも残念そうに言うが、それは正論だと思う。まぁ機会があったら……という事にしておこう。 「……それじゃぁ。予備校は明日からだよね? 今日は折角志貴君が来てくれたんだから、外に食べに行こうと思うの」 朱鷺恵さんは、ニコニコしながら扉のそばに立って振り向きながら俺を見ていた。 「賛成。折角だからこの町も案内してくださいよ」 俺はすぐに同意すると、時計を見た。まだ食事にはだいぶ早い、というか日も傾いていない。 「そうね。もう少し涼しくなってから行きましょう……ね?」 朱鷺恵さんはそう言って、扉の前でもじもじと何だか手持ちぶさたにしていた。 朱鷺恵さんは俺を見つめて、続きを待つ。 「そうですね……」 俺は立ち上がった。 「この部屋とリビングとエアコン付けてるのも勿体ないですし、リビングでテレビでも見ますか? ゆっくり話しながら」 久しぶりに昼間からテレビでも意味もなく見てみたい、ぐうたらな俺の抜けきらない一面が覗いていた。 「え……ちょっと志貴君?」 朱鷺恵さんは意外だった様で、ちょっと驚いたが 「もう……バカ」 そう小声で呟くと、押されるままにリビングに向かっていった。
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