……歩き回っていたからか、それとも心が疲弊していたからか ああ、この秒針の音を数えるうちに 気怠さに動く力もなく、また後悔を始めていた矢先。 カチャ……カチン 鍵を回す音が、聞こえた。 プツン テレビの電源を切る音が聞こえ 「朱……鷺恵さん……?」 信じられなかった。 「ど……うして……?」 ワカラナイ。 「うん、帰って来ちゃった」 朱鷺恵さんは、舌を出しながら答えた。 「今日ね……学校のゼミの実験だったの。生体化学は、実験が長期化するから、泊まり込みなんて良くあるんだけど……ね……」 そう言って、朱鷺恵さんは笑う。 「ねぼすけさんが、予備校に行ってないか心配だったのよ」 からかうようにして、俺を見つめた。 「……私、もう志貴君がいないとダメみたい……」 すると、朱鷺恵さんは初めてそこで涙を拭った。 「志貴君……ゴメンね……」 朱鷺恵さんは、嗚咽しながら俺の眠ったままの首筋に腕を絡めて、顔を埋めてきた。 「いなくなったら……志貴君がいなくなったら、私、どうしたらいいかわからない……」 こんなに儚い朱鷺恵さんを見たのは、初めてだった。 「わかってた……志貴君が苦しんでるの……でもね、私、不器用だから、どうやって助けたらいいかわからなかった……」 それで……あんな事を…… 「志貴君の気持ちが離れて行っちゃう、そう思ったら……思ったら……」 言葉が続かない朱鷺恵さんを、俺は力一杯抱き締めていた。 「……ごめんなさい、朱鷺恵さん」 悲しませてしまって。 朱鷺恵さんの嗚咽が収まるまで、俺はじっと抱き締めて 「……また、先に告白されちゃいましたね」 優しく涙の後を撫でてあげながら、俺は呟く。 「俺も……同じ気持ちです」 朱鷺恵さんの瞳は、驚きに見開かれていた。 「朱鷺恵さん……あなたを離したくないです……」 真正面を見つめ、朱鷺恵さんの心に語りかけるようにして俺は告白した。 想いは、通じて欲しかった。 「こんな俺でも、付いてきてくれますか……?」 微笑んで、朱鷺恵さんを見つめると 「……はいっ!」 朱鷺恵さんは、本当に嬉しそうに、また涙を流して頷いていた。 そっと唇を離した時、俺は静かに朱鷺恵さんに話しかけていた。 「朱鷺恵さんの部屋で……」
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