もう一度顔を近づけて、唇を奪う。
 そのまま、導かれるように舌を朱鷺恵さんの中に滑らせた。

「んっ……あぁ……」

 激しくではない。
 まるで水の中を泳ぐように、緩慢な動きで絡ませる。
 溢れ出る唾液を蜜のように交換し、互いの熱をもう一度刷り込ませるように飲み込む。

 ぴちゃり、ぴちゃりと、静寂に響き渡る水音。
 永遠に触れたい唇を、名残惜しく離す。
 それでも最後まで舌を絡ませ、突くように触れさせて。
 舌先を伝わるふたりの唾液を、ゆっくりと眺めていた。

 何も言わず、俺は朱鷺恵さんの首筋に唇を当てた。
 僅かに上気したその肌は、吸い付くように俺を受け入れた。
 触れさせるだけで、甘い。
 朱鷺恵さんの全身から溢れる香りに、陶酔する。

「志貴君……」

 優しく、か細く、弱々しく朱鷺恵さんの声。
 それを引き出すように、鎖骨からうなじまで這わす。
 左手で、パジャマのブラウスのボタンを、ひとつひとつ外してゆく。
 外しながら、その奥に隠れる素肌をゆっくりと撫でた。

「ああ……っん」

 全てのボタンを外し、開かれた前から臍の部分を始点に、のろのろと這い上がる。
 同時に唇は下降を開始する。
 それぞれが、互いの意志を持って動く中
 同時に、その頂の麓に触れる。

「あっ……」

 何も付けていなかった。
 直接、汗に滲む素肌が俺に触れる。

「んっ……」

 悩ましげなその声が、俺を急かす。
 爆発しそうな感情を抑え付けながら、ゆっくりと動き出す。
 這い上がった腕は、下部を包むようにして膨らみを持ち上げる。
 同時に、唇は頂を登り、頂上を目指す。
 桃色の膨らみがそこにある。

 俺は舌で軽く触れる。

「ああっ……!」

 瞬間、震える。
 たまらない。
 そのまま、口づけをして、吸い出した。

「志貴君……いいよ……」

 胸を吸われ、今度は俺が朱鷺恵さんに抱き抱えられる番になる。
 柔らかい、それでいて張りのあるその胸の感触を味わう。
 片方に飽きず、反対の胸にも。
 ちうちうと、子供が胸を欲しがるように吸い続けると、朱鷺恵さんが頭を撫でてくれた。
 甘える。
 甘えられる。
 膨らみに手を添え、全体を押すようにして揉む。
 形を好きなように変える胸の中で、張りつめる先端。
 そこに優しく触れるだけの愛撫で、朱鷺恵さんに鳥肌を立てさせる。

「あっ……ん……」

 胸が張りを増し、そのピンク色の部分がせり出すようになった。
 感じてくれている。
 喜びはより優しい愛撫で伝える。
 少しだけ音を立てて、乳首を吸った後に歯を立てると

「んんっ……!」

 声にならない喘ぎが、朱鷺恵さんから漏れた。

 やがて、そろそろと腕を下腹部に伝わらせる。
 朱鷺恵さんのズボンを、ゆっくりと脱がして、俺はソファーから下りてその脚の前に座る。
 抜き取られた脚は、染みひとつ無い美しさ。
 そんな脚を、ゆっくりと割った。
 抵抗もなく、素直に従ってくれる朱鷺恵さん。
 恥ずかしさに顔を逸らしながら、それでも俺に委ねてくれていた。

 朱鷺恵さんの下着が、既にしっとりと濡れている。
 開かれたその先には、朱鷺恵さんの女の部分が透けていた。
 愛液に濡れ、その奥を晒すような光景が劣情をそそる。
 ゆっくり、その部分にキスをする。

「や……あっ……」

 朱鷺恵さんは悦びを声に表す。
 気持ちよさを引き出すように、俺は舌を差し出す。
 布の上から、形をなぞるようにして這い回り
 最後にその頂上にある真珠を刺激した。

「んっ……ああっ……!」

 くったりとする朱鷺恵さんの下着に、手を掛ける。
 ハッと気付いた朱鷺恵さんは一瞬身を固くするも、俺が見つめるとコクンと頷いて、腰を浮かしてくれた。
 そのまま引き抜くように、俺は朱鷺恵さんの下着を取り去った。

 美しく咲く華。
 いやらしさではない、美しさを感じさせるそこへ、迷いもなく唇を差し向け、花弁を愛でる。

「志貴君……志貴君……うん……」

 くしゃくしゃに俺の髪を掻くように朱鷺恵さんが嗚咽を漏らす。
 それに応えるように、舌を挿し出し、蕾の内部まで丁寧に愛した。

「志貴君……もうダメ……」

 朱鷺恵さんの口から、哀願が漏れる。
 ダメなのは、俺も同じだった。
 体を起こすと、俺は朱鷺恵さんをソファーに横たわらせ、自分も裸になった。
 そっと、体を重ねる。

「んっ……」

 朱鷺恵さんの上に覆い被さり、絡まる目線に従ってもう一度唇を交わす。
 そのまま、体重を掛けないように優しく体をずらす。
 朱鷺恵さんの脚を割り、その間に自分の腰を滑らせて。
 そのまま体を密着させ、ひとつになった。

「ああっ……ああ……」

 柔らかな暖かいものに包まれていく感触。
 ゆっくりと、優しく一番奥まで到達して、動きを止めた。

「朱鷺恵さん……愛しています」

 初めて言ったのかも知れない。
 今は素直に言えるその言葉が、俺の体を震わせた。

「私も……愛してる」

 涙を一杯に浮かべながら、朱鷺恵さんは告げてくれる。
 ……落涙。
 嬉しさに、頬を熱い雫が伝った。

「もう……絶対に離したりしません」

 ゆっくり、動き出す。
 ずっ……ちゅ……
 絡みつく音が、脳の中で木霊する。
 もっと、繋がりたい。
 体を起こすと、少し窮屈な方の朱鷺恵さんの脚を掴んで、自分の肩に引き寄せ、抱える。
 互いの恥部を擦り合わせるような、より密着するような格好で、俺はもう一度動き出す。

「あっ……ああん……あっ、ああ……志貴君……んっ」

 優しさの中で、ふたりが融け合う。
 動きは、決して早急なものではなく
 しかし駆けめぐる快感は電撃となり、襲いかかる。
 ただ繋がるだけの行為が、こんなにも甘美なものだとは、知らなかった。

 自らの呼吸と俺の動きに上下する朱鷺恵さんの胸が、俺を誘っている。
 ゆっくりと空いた手を伸ばして、動きに合わせるようにこね回した。

「ああっ!……いいよ、気持ちいい……ん……」

 同時の責めに、余裕を失っていく朱鷺恵さん。
 朱鷺恵さんの中は強く収縮を始め、快感を絞り出すように俺に伝えてくれる。
 それに抗うようにして、ゆっくりと一定の遅さで突き続ける。

「いや……くる……きちゃう……」

 朱鷺恵さんが、ソファーの端をぎゅっと掴みながら、ブルブルと震えながら快感の渦に引き込まれてゆく。
 静かに、朱鷺恵さんが達した。
 朱鷺恵さんの中が、一際強い収縮。
 そして、ぐったりと脱力して、荒い息。

「はぁ……はぁ……」

 真っ白になった意識を何とか取り戻そうとする姿に、また欲情する。

「姿勢……変えますよ……」

 了解を得るまでも待てず、朱鷺恵さんの体をゆっくりと動かす。
 抱えていた脚を逆に倒すようにして、最初とは反対の方向へ。

「あっ……こんなの、恥ずかしいよ……」

 朱鷺恵さんは、俺にお尻を向ける格好になる。
 背中からの曲線が、艶めかしい。
 恥ずかしさにソファーに顔を埋めると、綺麗なそれが余計に主張しているとも知らずに。
 そっと汗に濡れ美しい背中から、指先を降ろしていくと

「ああっ……ああ!」

 仰け反らせながら、朱鷺恵さんが喘ぐ。

「もっと、声聞かせて……」

 どさりと頭が落ちる朱鷺恵さんの耳元で、囁くようにお願いをした。
 そのまま、後ろから華の中心をなぞり、熱いその中へ指を沈ませる。

「あっ……ああん……いっ……いいよぉ……志貴君。ふああっ!」

 とろりと落ちる蜜を塗りつけるように、花弁から奥まで、優しく愛撫する。
 その度に、解放された素直な気持ちで朱鷺恵さんの嬌声が響く。
 そうして、僅かも衰えていない自分のそれを、ゆっくりともう一度朱鷺恵さんの海に沈ませる。

「ああっ……あん、あっ、っ……奥が……熱いよ……当たってる……」

 朱鷺恵さんの奥に、さっきよりも深く深く沈んでる。
 力を込めて引いては、吸い付けられるようにもう一度前へ。
 動きは単純だけど、気持ちよさはそれ以上。
 気持ちで繋がっているから、心まで一杯になっている。

「志貴君……だめ……また……」

 やがて、一段と大きなうねりが朱鷺恵さんの中で起こる。
 ぐっと堪え、俺はその感覚を味わった。
 反対に、朱鷺恵さんは二度目の絶頂に達し、肩から落ちる。
 肩で息をする度、繋がった部分が新たに擦れて気持ちいい。
 抜けそうになるまで引いて、入り口を責めるようにし続けると

「いやぁぁぁぁ……」

 意識を戻した朱鷺恵さんが、たまらないと言った感じで腰をくねらせた。
 そのまま、もう一度……とも思った。
 が、俺にも限界が近い。
 そして、最後は……

「朱鷺恵さん……顔、見せて」

 俺は繋がったまま朱鷺恵さんを起こし、自分の上にのせる。
 そのまま、朱鷺恵さんの体をずらして、向かい合う格好にする。

「あっ……志貴君」

 朱鷺恵さんの顔は、涙と涎でベトベトに濡れていた。
 そんなくしゃくしゃの顔も愛おしく、俺は舌を這わせた。
 舐めながら、今度は朱鷺恵さんの腰を掴み、ゆっくりと自分のそこにあてがう。
 視線を絡ませ、唇を重ね、舌を絡ませる事で合図をとり、腰を下ろしてゆく。
 痛い程に大きくなって快感を求めているそれを、朱鷺恵さんの中に沈める。

「ああ……凄い……入ってくる……よ……んっ」

 ゆっくり、しかし確実に自重で沈んでいくそれに、朱鷺恵さんは早くも意識を飛ばしそうになる。
 浅い絶頂を繰り返しながら、しかし、俺に唇を貪られる事によって意識を手放せない朱鷺恵さんがいる。

「んっ……んんっ……んはぁっ……ん……ん!」

 塞がれ、呼吸もままならない唇の端から漏れる喘ぎは、俺の中で霧散し、俺だけに届くように。
 腰だけを甘くくねらせ、朱鷺恵さんは自ら快感を求めるように俺と繋がっていた。
 それに応えるように、俺はゆりかごを揺らすように体を動かした。
 くちゅ……くちゅりと定期的に音を立て、蜜を零す結合部。
 擦りつけられ、淫靡に咲いた華が、内部から俺を締め付ける。
 みっちりと茎に密着して、俺を悦ばす襞の動きに、やがて意識が遠くなり始めた。

 ぐっと、朱鷺恵さんの中で動く自分が膨らむ感覚がした。
 朱鷺恵さんは、それを察して俺の腰に脚を絡め付ける。
 離さない、というように密着し、また朱鷺恵さんの中も激しくうねり始める。

「ソファーが汚れちゃうから……中に出して……」

 そんな事は方便だと分かっている。
 だけど、朱鷺恵さんが俺を求めてくれている。
 許してくれている。
 それが分かる一言に、悦びが快感を押し上げた。

「出します……」
「うん……来て」

 視線を絡め、舌を絡め、そして腰を絡め。
 ひとつに密着した体が、最後に大きく揺れる。
 ぱあっと、目の前が白くなる感覚。
 瞬間、腰の奥から溶け出した流れが、大きく脈打った。

 びゅくり、びゅくり……

 気持ちよさに、感じた甘さ全てを混ぜて、送り出す。
 そんな感覚に包まれながら、俺は朱鷺恵さんの中に発射した。

「ああっ……ああああ……」

 最初の射精に、朱鷺恵さんの体がぴくっと震え、それから朱鷺恵さんも融けてゆくように達していた。
 ぎゅうっと、締め付ける膣の動きが快感を更に呼び起こす。
 奥へ、奥へ。
 下からゆっくりと流し込むように、精液が朱鷺恵さんの中を遡る。
 解放された悦びは、朱鷺恵さんの中の締め付けによって吸い込まれてゆく。
 朱鷺恵さんの中に、いっぱい。
 あの時から想い続けていた全てを、朱鷺恵さんの中に染み込ませていくようにして、精液を吐き続ける。
 まだ止まらないかと思う程、放出は終わる事を知らない。
 合わせるように、何度も何度も朱鷺恵さんが絶頂を迎えている。
 互いが互いを登り詰めさせているように、ぎゅっと体を抱き合わせながら、永遠とも思える最後を繰り返した。

 やがて、俺の放出は終わりを迎え、最後の一滴とも思えるまで朱鷺恵さんの中に注いでいた。
 同時に、ふたりの体が弛緩する。

「はあっ……」

 俺が深いため息をひとつ

「……」

 朱鷺恵さんは、快感に気をやってしまったのか、目をつぶって眠ったように。
 規則正しい呼吸から、安心を得る。

「もう……どこにも行きません。俺は、ここにいます」

 ぎゅっと改めて抱き締め、その愛しい人の体温を感じ取って。
 ずっと、そうしていた。

 

「……ん」

 目を覚ます。
 あの後、会えなかった月日、愛せなかった月日を埋めるように、何度も愛し合った。
 そのまま、ふたりしてここで眠る事となって、俺は部屋からタオルケットを持ち出していた。
 朱鷺恵さんにかぶせ、自分もくるまって。
 ソファーに座りながら、ひとつになって眠ったのだった。

 だから……

「……」

 だから、目を覚ましたすぐ横には、肩を触れ合わせて眠り姫がいた。
 初めて、この人の寝顔を見る。
 見せて貰えた。
 穏やかに、そして幸せそうに眠る姿に、何にも変えられない愛おしさが溢れてくる。
 今までずっと眠りこけていた自分が、情けなかった。
 この人の寝顔の為なら、自然に起きられるような勇気が湧く。
 見つめると、あまりに愛おしくて、その頬に優しくキスをした。
 と

「……ん」

 眠り姫は、目を覚ましてしまった。
 しまった、王子様はもっと後にしておくべきだったと。
 もっと寝顔を堪能したかったのに、残念だった。

「志……貴君?」

 虚ろな目で、俺の事を見つめてくれる。
 寝ぼけ眼が、いつもよりもっと子供みたいで、親近感を覚える。
 ああ。悔しかったけど、でもこんな可愛い姿が見られたなら。
 俺は微笑みで返すと、朱鷺恵さんは段々と頬に朱をさしてきて

「やだっ……恥ずかしい……」

 今更何を、とも思えるが、その反応が嬉しかった。
 全てを見せてくれる、そんな朱鷺恵さんが可愛くて。

「おはよう、ねぼすけの朱鷺恵さん」

 おでこに優しくキスをして、お目覚めの挨拶にしてあげた。

「うん……おはよう……志貴君」

 タオルケットにくるまりながら、顔を包むようにして隠している姿は、微笑ましく可愛らしいものであった。

「……ね、今日はずっと一緒だよ」

 俺が微笑むと、朱鷺恵さんは満面の笑みで

「うんっ」

 頷いてくれた。


 









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