五回戦
 起家:シオン
 並び:シオン、さつき、志貴、アルクェイド

 結局都古は泣き疲れてしまったようで、志貴が代わりに打つ事になった。
 そんなイレギュラーに、願ってもないチャンスが訪れた人物が一人。
 そんな、東一局……

「ポン」

 闘牌が始まってすぐ、その一言がモニターを見ている別室の三人を驚かせた。
「鳴きましたね〜」
「ええ。確かに鳴きました」
 シエルと晶が楽しそうに語る。
 なんてことないポン。
 しかし、鳴いたのはさつきで、対象は志貴だった。
「弓塚さん、案外積極的なのかもしれませんね」
「そうですね。一番麻雀で自分を表現できてる、って感じで……」
 感心する二人の向こうでは、指が偶然牌を渡そうとした志貴のそれと触れ合ってしまった為、明らかに頬を染めているさつきが映し出されていた。
「まったく、遠野君も罪な人です」
「本当です。でも、志貴さんは気付いてなくて、またそれが……」
「あら?」
 ふっと口を衝いて出た言葉へすぐさま反応する晶にシエルは少し驚くが
「あっさり凄い事を言いますね、瀬尾さん。でも、実はわたしもなんですよ」
 やっぱりすぐに、仕方ないですよねといった表情を見せた。
 それは少し困った中にも、柔らかく優しい笑顔。
 それだけで全てが伝わってしまったようで、二人は顔を見合わせると、互いが恋のライバルの筈なのになんだかおかしくなってしまった。
「ふふふ……」
「えへへ……」
 自分達の色恋も含め、そんな素敵な展開ににこにこ笑っている二人は、端から見ると仲の良い姉妹のように見える。
 だが、そんな二人は
「弓塚、さん……」
 嫉妬と、そして僅かに羨ましそうな顔で秋葉がモニターを遠巻きに見ている事には気付いていなかった。

 七順目
 そんな事はつゆ知らず、志貴が二つ目のポンを許す。
「テンパイ、ですね……」
 シオンは聞こえないようにそう呟くと、引いてきた牌は手にしまった。
 河を見る。

 弓塚さんの危険牌はこれとこれですね。その上で、この場で一番出やすいのは

 並列思考が瞬時に計算を行った。
 河に出ている牌から、各人が使用している牌の確率、そして山に残っている確率を弾き出す。
「……」
 無言で二萬を出す。
 そして次巡、四索。

 十一順目
「んー……」
 志貴は悩みに悩んで、三筒を切った。
「ロン」
 すると、その時をまるできっちり見計っていたように、シオンが牌を倒した。

  


「平和……千五百点です」
「い……」
 志貴は振った事に慌てながらも、少ない失点で助かったと胸をなで下ろした。さつきは染め手だから、安くてもそれ以上の点になる。

 が、点を渡す時ふと見ると……
「シオン、それ……」
「どうしました?」
 志貴は驚いた表情で倒れた牌と河を交互に指さした。
「メンピンタンヤオ、三色一盃口まであった手じゃないか……」
 確かに、捨て牌と合わせると親の跳満手であった。
 なのに何故ここまで手を下げたのか、志貴は理解しかねた。

「確率ですよ、志貴」
「え?」
 さも当たり前のように、シオンは志貴の言葉を流す。
「志貴はそういうのを嫌いそうですが、麻雀は結局、確率に支配されたゲームなのです。今も、私の待ち牌は一番の確率を選んで取りました。その為に手が安くなる事は、そうなる宿命だったのです」
「……」
 志貴はその言葉に無言だった。
 確かに見れば、高めを狙っていたら牌は出ない……自分の手には、恐らく高めテンパイ時の四索が対子で存在していた。
「否定は出来ないよ、シオン。でも……いや、次だ」
 言葉をそこで飲み込み、志貴は牌を崩した。

 東一局、二本場
「ロン」
 またも、シオンは志貴からあがった。これで三連続だ。
「リーチ、平和、ドラ一……五千八百は、六千四百ですね」
 またも手を下げている。わざわざドラの九索を対子で落として、多面待ちに変えたのだ。
「ああ、やっぱりね。ほら」
 志貴は案外さばさばと仕方ない、といった風に点を渡す。
「それは効率がいいね。それだけあればいつかは出てくる」
 待ち牌は合わせて七牌。山にも寝ているだろうし、他家の捨て牌から出てくる可能性も高い。
「確率です。全ての計算から導き出された答えは、役よりもこちらを選ぶ方が正しいという結果でした」
「うん、いくら何でも流石にこっちが甘かった、と言う訳か」
「そう言う事です。分かったようですね、志貴」
 そう言いながら、シオンは百点棒を追加する。
「……ああ、俺には分かったよ」
「三本場です」
 志貴の言葉など気にせず、起きあがってくる牌を見てシオンは冷静に告げた。

 東一局、三本場
 配牌。

 ↓


 親のダブリー……ですか、なかなかにあり得ない確率ですね。
 シオンはここへ来ても運を信じなかった。
 そして、もう一つ信じていない事があった。

 カンチャン待ちは出てこない、しかも五索なら尚の事だ。
 当たり牌が倍も違うのだから、ここは両面に。ですが、シャンテン数を下げるのは確率的に悪い、なら……
 そうやって、テンパイだけは取り、牌を出して手変わりを待つ事にした。
「ふうん……」
 しかし……志貴はツモを掴み、そんなシオンを見て不適に笑ったかと思うと……

 タン!

 

「!?」

 迷いもなく、五索を出していた。
「クッ……!」
 上がれない。リーチのみ手だから、今の自分は役無しのフリ聴だ。
 確率を読んでリーチをかけなかった自分に、まさか裏目が発生するとは思わなかった。
 狼狽えるな、あくまで低確率の事象が偶発しただけ……
 落ち着こうとするシオン。
 しかし、それを見ていたアルクェイドがにこりと笑うと、何を思ったか
「じゃぁ、志貴を真似満〜」

 


 と言って、同じ牌を出していた。
「!?」
 同順、二枚目……!
 シオンは戦慄を覚えた。
 そんな簡単に出てくる牌だったのですか、これは……?
「偶然です。偶然ですよ……」
 何とか自分にそう言い聞かせながら、次巡、シオンは自分のツモを見つめて言葉を失った。

 

 五索……
「……ツモ。五本オールは、八百……」
 シオンは震えながらも、耐えきれずに牌を倒した。
「こんなことが、こんなこと……」
 上がったというのに、シオンの顔には一片の笑みもない。
「あらら……」
「やっぱり」
 志貴とアルクェイドは、その様子を見てそれぞれに声を漏らした。
「……何が可笑しいのですか、あなた方は?」
「ん?」
「だって、なぁ……?」
 二人は、きっと睨まれたシオンに身じろぎもせずお互いの目を見た。
 どちらが言うべきか……という目の会話は、志貴で決着が付いたようだった。
「『流れ』、だよ」
「……流れ?」
 その言葉に、シオンは眉をひそめた。
「志貴、真祖の姫君……あなた達、まだそんな非科学的な事を……」
「シオン、あなたは確かに正しい。でも、間違ってるわ」
 アルクェイドはやれやれとシオンの和了形を確認してから、裏ドラを開いた。

 

「!?」
「ほらね。ダブリー、一発なら親跳。あなたは自分に来ているその『流れ』を否定したのよ」
 アルクェイドの手の中には、暗刻になってる八筒のドラ表示牌……七筒があった。
「まぁ、何となくそれを感じたから、俺はリーチがない時点でこれを出したんだけどな」
「やっぱり、志貴はそうだと思った。よく分かってるな、わたし。やっぱり志貴の……」
「やめろよ、恥ずかしい」
「えへへ〜」
 それだけやりとりした後、さつきの視線も感じたか、二人は真剣な顔になる。
「確かに確率で語る事も出来る。しかし、麻雀には時として俺達にも分からない力が働く時がある。それが『運』と『流れ』だ」
「それを否定していたら、フリー打ちでは勝てるかもしれないけど、本当の猛者には勝てないわ、シオン」
「……」
 言葉がなかった。
 ただ俯くだけで、膝に乗せた手が感情で震えるのを見つめる。
「悪いなシオン、この四局で十分見させて貰った」
「ええ。流れを失ったあなたは、もう丸裸よ」
 その言葉に、強い光をまだ宿したままシオンは目を上げた。
「……あなた達は、自分がその大局を読めるから強いと思ってるんですか?」
「そうよ」
「まあ、アルクェイド程自信はないけど、読んでいるつもりさ」
 二人は笑ってそう言う。
 不適な宣戦布告、そうシオンは感じていた。
「……分かりました、アトラスの名にかけて受けて立ちましょう」
 今更、流儀など変えられない。
 シオンの言葉に、二人は驚きつつも、とても満足そうな目で頷いた。

 東三局。
「リーチ」
 志貴がリーチをした。
 シオンは一発を警戒しながら、まず志貴の河を見る。
 自風のダブ東が、対子で落ちていた。平和手か、と察する。
 同じように一九牌も多く落ちているから、タンヤオもあるだろう。
 他家の捨て牌は……アルクェイドが、自風を手出しで落としていた。
 恐らく、ここまで対子で持っていたのでしょう。見事な一発回避です。
 そこまで来て、シオンは手牌を見た。
 ならば、これは安全……
 真祖の姫君に続くのは、打ち方を真似たようで好きではないが、仕方ない。
 そう言って、シオンは対子だった自風を落とした。
 これで平和手になれば、待ちも広がる。その確率を信じ、次に備えた瞬間だった。

「シオン、ロンだ」
「なっ!?」

 志貴が不敵に笑い、牌を倒した。

 


「リーチ一発のみ。裏はなし。三千九百だ」
 見れば、待ち牌は……
「西と、北?」
 オタ風のシャンポン待ち。
 西は自分が二枚抱えている、すなわち純カラだ。北も場に一枚出ていて、残り一枚。
「何故、そんな確率の低い待ちに……」
 シオンには、その志貴の行動が理解できなかった。
「これが……君の否定している『流れ』だ、シオン。例え確率が低くても、手に抱えられていると思っても、出るものは出る」
 そう言って、志貴は一発目のツモ牌を開いた。
「……北!?」
 そこには残り一つの当たり牌が眠っていた。
「そう言う事だ、シオン。流れが来たと思ったら、例え確率が低くても勝負する。そして、後はその流れの読みが正しいのか、自分の運に賭けるのさ」
 志貴は百点棒を置きながら、シオンに講義をした。
「ありえない、です。そんな戦い……」
 シオンの小声の呟きに、志貴は気付いた様子はなかった。

 東三局、一本場。
 十二順目。
「……」
 シオンは一シャンテンになった。受けは六種十二牌、何処を引いてもいい。
 シオンは、対面の志貴を見る。表情がすぐ顔に出る志貴は、ダマで待っている気配はなかった。
 さつきが二索を捨て、志貴のツモ。
「……リーチ」
「!?」
 ツモ切りでリーチが出た。
「あらら……オリよ」
 アルクェイドはそれを警戒し、安牌の三索を切る。
 シオンのツモ。
 ……テンパイ。
 矢張りいつもと同じように、河を見る。
 一索、三索、四索と切っていて、さっき二索も出た。これで残りは……おそらくこの一枚のみ。
 自らのテンパイに丁度不要な牌である上、ほぼ間違いなく安全である。しかも自分は、志貴の捨て牌を含む三面待ちだ。
 シオンは確率を計算する。どちらの牌の方が、先に出てくるか。
 恐らくドラ筋待ちなのだろう、と結果が告げていた。
 それは、出てくる訳がない。
 ならば……
「悪いですが、こちらもリーチです」
 シオンは二索を手に持ち、横へ倒して置いた。
 しかし、そのまま立直棒を出そうとするシオンを、志貴の手が止めた。
「立直棒はいらないよ、シオン」
「えっ……?」
 ぱたんと、志貴の牌が倒れた。
「また一発ロンだ。ピンフドラ一は、一万千九百」
「なっ……!?」
 シオンは言葉を失い、待ちを見て更に驚いた。

 

ドラ:

「単騎……!?」
 二索単騎。
 しかも、捨て牌と併せるとタンヤオ一盃口もあり待ちも広い跳満手を、志貴は待ちの薄い単騎に変えたようなものだった。
「なぜ……弓塚さんの二索を見逃し、更に待ちが広い方を選んでないのですか、あなたは?」
「ん……ちょっとしたひっかけさ」
 志貴は至って平然としながら答えた。
「これだけ出していれば、二索は安全だと見ただろう? そこなんだよ。親だから満貫なら賭けに出るには十分な手だったし、何よりシオンから出れば……ほら、点差は僅かだ」
「!?」
 気付けば二人ともほぼ原点。取った分をそのまま取られていた。
「狭いところは、自分で押し広げればいい。さぁ、これで仕切直しだ……アルクェイド、寝ていないで起きろよ」
「へへ、ばれた?」
 志貴はアルクェイドを見てそう言うと、アルクェイドは舌を出して笑い返した。
「お前、こうなるのを待ってただろ? そんな落とし方だろうが……」
 そう言って、志貴はアルクェイドの牌を勝手に倒した。
「!?」
 アルクェイドは、捨て牌と手牌で四暗刻単騎をテンパイ……いや、あのオリ牌で上がっていたのだった。
「ったく、お前の事だから麻雀でもタダじゃすまないと思ったが……こりゃ本格的に手強いな」
「ふふふ、起きろって言ったのは志貴なんだからね。責任、取ってもらうから」
 アルクェイドはその言葉を言うと、志貴が紅潮した。
「ばか……それをここで言うな」
「?」
 さつきが不思議に思うやりとりも、シオンには聞こえていなかった。
「何故……何故なんですか」
 二番が、五番がショートしていくような感覚を覚え、停止させる。

 続く二本場はさつきが志貴から鳴きの混一色であがった。
 それからは、シオンにも本来の落ち着きが戻り、さつきにも手が入ったか、アルクェイド以外の全員が一つずつ上がる麻雀が続いた。

 そして……南三局。
 点は志貴とアルクェイドがそれぞれ一万五千前後、そしてさつきとシオンがほぼ一緒だった。

 配牌。

 ……悪くない、ツモってこれなら七順目にはテンパイを取れる。
 そして、志貴は……

「う〜ん……」
 シオンは、対面で頭を掻いている志貴を見た。
 恐らく相当手が悪いのだろう、親だというのにまだ捨てていなかった。
「志貴、どうしました? まず捨てるなら、浮いてる字牌辺りじゃないのですか?」
「……ああ、そうなんだけどな……普通は……」
「?」
「これ、か……?」
 志貴は一つの牌を掴み、場に出そうとした。が
「……やめた。やな予感がするから流す」
「え……?」
 諦めた、と言う表情の志貴の手によってぱたんと倒れた牌。そこには信じられない光景が待っていた。


「九種九牌……実際には、十一種十二牌だけどな……」
「!?」
 シオンは言葉を失っていた。

 国士無双に……一シャンテン。なのに、志貴はそれを目指そうとしていなかった?

「何故……!? それは私でも、狙いに行くというのに……」
「う〜ん、やな予感がしたんだよ、何となく」
「何となく……って、どう考えても……」
 足りないのは東と九萬。東はこの場では志貴しか必要としないし、九萬はドラとは無関係だ。だというのに……
「あら志貴、流しちゃうんだ〜」
 その時突然、シオンの左の方から声が挙がった。アルクェイドだ。
「でも好判断。志貴ったら私の手牌でも読めるのかしら?」
 そう言って、何気なしにアルクェイドは牌を倒す。

 


「……危ねえ」
「!!」
 そこには東が槓子……しかも、南までもが暗刻でチャンタ手……、ドラを増やす為の槓はほぼ見えていた。
「狙ってたら一順目でアウトか……」
「志貴君、実はわたしも……」
 と、さつきが同じく牌を倒す。

「うわ……」
 そこには萬子が十一枚。しかも九萬は槓子だった。
「順子があるから槓しないけど、待ちは相当広かったと思う。多分無理打ちする志貴君から出てたと思う……」
「ということは、最初から上がりは無かったのか……」
 心の底から自分の運の良さ、もしくは悪さに感謝する志貴であった。

 あり得ない事象。
 志貴が配牌であれほど国士牌を引く事も、足りない牌がそれぞれ上下家に槓子で入っている事も。
 頭の中の回路が、悲鳴を上げる時だった。
「こんな事が、あっていいんですか……?」
 シオンは不条理を無理矢理忘れたいとばかりに呟く。
「さあね、目に見えない力は、誰も見る事が出来ないのさ」
 が、志貴は余裕たっぷりでそう語りながら牌を落とし、賽子を回した。

 やり直しの南三局。
 伏せて置いてある配牌を起こした瞬間、志貴は驚く様子もなく、当たり前だというような顔をした。
 そして対面を見つめ……シオンが志貴の打牌が遅いと顔を上げた瞬間、待っていたかの如く唇と手を動かした。
「さっきの続きだ、シオン」
 普段論戦では勝てないからと、ここぞとばかりに志貴は楽しそうに語り出す。
「配牌、これだって誰もいじれない。だけど『流れ』は確実にある」
「……」
 シオンは無言だ。ただ志貴をきっと見つめているだけ。

 言い返せないのだと感じた志貴は、決めるとばかりに牌を掴むと、わざと高く掲げ
「それを……俺は感じ取っているつもりさ」
 すうっと弧を描いてその手を卓に振り下ろし
「リーチ!」

 


 牌を横に倒してテンパイの合図を示した。
「! ダブリー!?」
 驚きに震えたシオンの叫びにニヤリと笑い、志貴は自信たっぷりに点棒を放り投げる。
「そうだ。さっきの一シャンテンを諦めたら、今度はテンパイ……これが今の俺の『流れ』だ」
「そ……んな」
 愕然とし、想定外の事象にシオンは言葉を失った。
 が……そんな姿をすっかり楽しむはずの志貴が
「ただ……ここにはそんなのも関係なさそうなヤツがいるんだけどな」
 そこで突然、視線を横に流して苦笑した。
「?」
 つられるようにシオンが視線をそちらへ向けると、そこには牌を手に取ったアルクェイドがいた。
 二人の瞳を向けられたアルクェイドは、すこしむすっとなって志貴を睨め付ける。どうやら自分が理由も分からず笑いの種にされているのが、無邪気なお姫様には少々気に入らなかったらしい。だから
「ん? そんな事言うの志貴? なら、教えてあげる……」
 最後は美しい声で囁くように言うと、アルクェイドは一瞬、真面目な顔を見せた。
「!?」

 それは……真祖の月姫。

 畏怖。
 あまりの美しさと背筋が凍るよな感覚に、全員から言葉が消えていた。
 そんな中、アルクェイドは

 すうっと、一呼吸
「麻雀には……逆らえない力、働く時がある……」
 牌をゆっくりと盲牌して
「本人にさえも。……それが、『千年城の力』――」
 満面の笑みで、微笑んだ

「ツモよ!」

 パタンと、手牌を倒す。

 ↓

「!?」
 地和……!
「せっかく見逃してあげたのに……殺してあげる、志貴」
 アルクェイドはからかうようにウインクしながらそう言って、手にしていた牌を置いた。

 


 それは、志貴の捨て牌だった。
「八千、一万六千!」
 嬉しそうに叫ぶアルクェイドに、流石の志貴も降参だった。
「うわ、親被りでトビだ……それなら人和にしてくれた方がよかったのに……」
 自分の行動を恨めしがる姿に
「ふーんだ。せっかく私が見逃してあげたのに、志貴がツモった後にあんなひどい事言うからだもん」
 アルクェイドはえっへんと胸を張って答えた。

 まさに空想具現化が起こったような、あまりにも美しい幕切れ。
「あり得ない。そんな十万分の一にも満たない事象だなんて……」
 シオンは、完全に自分の考えがうち砕かれるのを見て絶句した。
 人和に、地和まで同時に起こるなんて、そんな……
 殆どの回路が、停止した。
「シオン……こういうもんなのさ、麻雀って」
「そう。どんなに低い確率でも、起こる時は起こる、逆にいくら国士十三面で三十九牌の待ちでも、来ないものは来ない、そんなものよ」
 ふたりはそう言いながら、シオンを見つめた。
「……あなた達は、いつも私の計算を狂わせます」
 そう言って、シオンは微笑んだ。
「面白いですね。あなた方にはいつも驚かされる。完敗です」
 その言葉を聞くと、二人もにっこりと微笑んだ。
「まぁ、本当に負けたのは志貴だけどね〜」
「くそっ、次は負けないぞ、この〜」
 そうやってやりとりする志貴達を見て、シオンとさつきは二人して苦笑した。
「やっぱり敵いませんね、あの二人……」
「そうだね……お似合いのカップル、だなぁ……」

 結果
 アルクェイド、豪勝。志貴はあおりを喰らってビリへ。








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