一回戦
 起家:志貴
 並び:志貴、秋葉、翡翠、琥珀
「さぁさぁ、志貴さんが親ですね」
 がちゃりとせり上がってくる牌に感動を覚えながら、志貴はボタンを押して賽子を回した。

 東一局
「通らば、リーチ!」
 志貴はそう叫びながら、熱く牌を打つ。
 しかし

 ――奪――

「ロン」
 秋葉の冷静な声が志貴を貫いた。
 愕然とする志貴の目の前で、パタリと牌が倒れた。


       

 ドラ: 


「タンヤオ、三色同刻、ドラ三。一万二千点です」
「ちえ」
 志貴はしぶしぶ、秋葉に点棒を支払う。
「あーあ、折角いい手だったのになぁ……」
 牌を裏に倒し、せめてもの声を上げるが
「ふふふ、兄さん。全てを、奪い尽くして差し上げますわ」
 秋葉はまるで、早くも獲物を追いつめたオオカミのように不敵に笑った。
「あらあら秋葉さま、早くも炸裂ですか?」
「そうね、そんな予感よ」
 余裕を感じさせる秋葉の言葉の意味を、志貴は理解できなかった。
 それを見て、琥珀さんが助け船を出す。
「秋葉様は決め打ちが得意なんですよ。それも、人に対しての。だから、秋葉様に狙われたら、ハコるまで逃げられないかもしれませんね」
「げ……まんま『略奪』じゃないか」
 志貴は正直ぞっとした。確かに、秋葉ならやりかねない。紅いオーラを感じて、なんとかしなければ……と思った。
「さぁ、こうなったら引きも味方しますね、兄さん」
 と、秋葉が相当の好配牌なのか、余裕綽々で二順目の東を捨てた時だった。

「ポン」

 突然、対面の琥珀が啼いた。
「あら?」
 意外そうな秋葉を対面に見て、琥珀が捨てた牌は……東だった。
「!?」
 志貴は、その琥珀の常軌を逸した行動に目を疑う。
「来たわね……いつもの悪い癖が」
 しかし、秋葉はそんな琥珀を見て、冷静に笑っていた。
「いやですよ秋葉さま、人聞きの悪い。テクニックと仰って下さいな」
 琥珀はいつものようにその秋葉の視線を交わすと、それ以降は好牌を呼び込んでいた。
「ツモ」
 九順目、琥珀はあっさりと満貫をあがった。

     

ドラ:


「混一色、翻牌、ドラ。二千四千ですね」
「流石ね」
「何? 琥珀さんが何かやったの?」
 志貴は点を払いながら、秋葉に訪ねる。

『泥棒猫』

 秋葉は、ぼそっと呟いた。
「琥珀はね、トップ目の人間から啼くと、好牌が寄るんです。まさに他人の運を横取りする、それが泥棒猫って言われる由縁」
「泥棒、ねえ。高々一回啼かれただけで……」
 志貴は酷い言い方だなあ、と思いつつも、琥珀が気にしていないようなのでとりあえずホッとした。麻雀が原因でケンカなんて恥ずかしいものである。
「兄さん。他家から啼くと、以降の自ツモは啼いた家のものになるのはお分かりですか?」
「あ、あー」
 言われて、志貴の頭の中でツモ順と家の関係の四角形がぐるんぐるんと回転し、大分時間が経ってから、ようやく理解した。
「つまり、そのままだったら秋葉がツモして……」
「そういうことです。それこそ兄さんから全てを奪っていましたね」
 と、秋葉はポンと牌を倒した。

 


 そこには索子の清一色の一向聴が待ち受けていた。恐らくテンパイしたら、山越しをしてでも志貴にぶつける気だったのだろう。
「琥珀が啼いてから、秋葉の索子の引きはゼロ。素晴らしい啼きですね」
 モニターを見ていたシオンが、食堂の入り口から琥珀に賞賛の言葉を投げかけた。
「ありがとうございます〜」
 で、志貴が改めて琥珀の和了牌を見ると、琥珀は索子で混一色だった。
「ひえー」
「まぁ、二千で済んだと感謝する事ですね。今回だけは」
 シオンは分かっていた。それでもまだ秋葉が同点トップである事を。
 そして、もう一度琥珀の『泥棒猫』があるという事を。
「あはは、さぁ、次ですよ〜」
 いかにも楽しそうな、頭から猫の耳でも生やしそうな陽気さで、琥珀さんが牌を落としていた。

 結果
 琥珀はもう一度秋葉から啼いて一旦抜け出るものの、南一局、振り込んだ志貴の飛び、秋葉のトップで終了。








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