「……」 私はドアの前で、放心したままでいました。 「……」 やがて、ずるずるとドアにもたれかかるようにして、私は崩れ落ちました。 「……ああ……」 私は小さく一つ声を出すと、がくりと力を失い、首をうなだれるばかりでした。 私は……いつの間にここへ来たのでしょうか。 私は、何をすればいい? いえ、そんな事が出来るはずがありません。 ここには…… その当然の事実が、私を苦しめます。 どうして……どうして…… 私のこころが、グラグラとおかしくなっていきます。すると…… 「……」 はっと、体が震え上がるような感覚を覚えてしまいました。 「志貴……さん……」 今、確かにドアの向こうから声が聞こえました。それは、志貴さんの声。 「……」 そして、僅かに翡翠ちゃんの…… 「あっ……」 二人の声が、私の心を鞭のように激しく打ちました。 イヤ…… 思わず目を閉じてしまいますが、それは更に私の聴覚を敏感にさせてしまうばかり。 はぁ……はぁ…… 聞こえないはずの二人の荒い息づかいまでもが、私の中でこだましてしまうようでした。 「そん……な……」 分かっていたはずの事実。それは二人が恋人なのだから…… 「ああ……ああ!!」 翡翠ちゃんの声が、切羽詰まったものになり、そして…… 「翡翠!」 志貴様の大きな叫び声が、私の体に稲妻を走らせました。 「……あぁ」 気付けば、私の手の甲にぽろぽろと雫がこぼれおちていました。 なんて……悲しいのでしょうか。 私はそれが何で落ちてきたのか、理解する心を失っていました。ただ、何かが切れてしまったように漏れ出すその雫を、止める事が出来ません。 「ああ……あぁ……」 おかしいです。どうしてこんなにおかしな気分になってしまうのでしょうか。 私は、ただこのお屋敷の使用人だというのに。 「あは……は……」 何故だか、笑ってしまいました。 「ん……」 あれから初めて、部屋の奥から音が聞こえてきました。 私はなんとか立ち上がると、気付かれないようにそこを後にして……自分の部屋に逃げ込むように入っていきました。 バサッと、ベッドに倒れ込むようにします。 でも……先程の記憶が、私の頭から離れる事はありません。 「……んっ……」 気付けば、私は和服の合わせから自分の右腕を滑らせ、その窮屈になっている胸を触りました。 「ああっ……」 僅かに触れただけで、物凄い快感。 「んっ……ああ……」 自分に与えられる、甘い感覚。 「……志貴……さんっ……」 私はその笑顔を、その腕を思い出しながら、強く自分の胸を揉みしだきます。 私のベッドの上。そこで私は志貴さんに抱かれている事を妄想しているのです。 志貴さんの手は私を弄ぶように動き、私の着物をはだけさせます。優しく肩まで露わにして、隠されていた二つの膨らみを空気に晒します。 「ああっ……」 乳首に、そっと指の腹で触れます。その瞬間、甘美な刺激が痛いくらいに私を襲い、ぶるりと震え上がっていました。 「志貴……さん……はぁ……っ!」 少し強く抓るようにすると、志貴さんがわたしに意地悪をしているようで、切なくなってしまいます。 「ん……もう……だめっ……」 私はゆるゆると空いた手を着物の裾に伸ばし、自分の腿に触れさせます。それだけで触れられた事のない部分はわななき、ぴりぴりと痺れるような快感が私を襲います。 トロッ…… 「ああっ……」 そこは既にとろとろに溶け、指を迎え入れる喜びに溢れていました。 にちゅ…… 分泌液でしとどに濡らされたそこが、ねっとりとした音を立てました。 「ああ……」 その音に、自分で興奮を覚えてしまいました。さらにまた私の奥から蜜が溢れ、はさみ付けた指先に触れました。 「志貴さん……んんっ!」 私は、ゆっくりと自分の指を花に飲み込ませました。 どうして……こんな…… 私が七夜として生きる前、私はどんな女だったのでしょうか? でもそれを思い出したくても、どうしても思い出す事が出来ません。 「ああっ! 志貴……さんっ!」 胸を弄り、股間に指を埋めさせ、私は喘ぎ声を上げてしまいます。 志貴さんは、こんな私を軽蔑してしまうに違いない…… そう思っても、志貴様に触れられたい体は言う事を聞いてくれません。 はぁはぁと、たった一人だけの荒い息づかい。そして水音。 「あはぁっ!」 私は、余った親指で包皮に隠されたそこを強く弄りました。瞬間、どうしようもない程強い衝撃が私を襲い、一気に高められていきました。 「ああっ! 来て! 志貴……さん……!!」 私は最後にそう叫ぶと乳首を捻り、指を最深部まで沈めさせ、淫核に強烈な刺激を与えながら達しました。 それは、志貴さまが私の中を一杯に満たしてくれる事を願いながら、強く、激しく。 ぎゅうっと、自分の腕を挟み込むように脚を強く閉じ合わせ、私はその絶頂感に意識をやります。奥の方で、まるでお漏らしをしてしまったかのように愛液が迸り、ぎゅっとした襞の収縮に下半身が融けてしまいそうな感覚でした。 「あああ……」 ひく、ひく、と痙攣するからだ。どうしようもない自分の中の波に、私はただ流されるだけでした。 はぁはぁと息を整えながらぼんやりと窓を眺めます。 心の中とはいえ、志貴さまを使って自慰をしてしまった事。 ……なんて、私は酷い女なのでしょうか。 指を抜き去ると、それは愛液にまみれてぬらりと光っていました。和服の内側は濡れ零した自分の愛液で湿り、微かに腿に冷たさを感じさせてしまいます。 「……お夕食の支度、しなくちゃ……」 はぁと、息をつきます。 |