「翡翠……」

 志貴さまは私に続いて部屋に入ると、後ろ手に部屋の鍵を掛けました。私はそれに気付きましたが、敢えて平静を装って部屋の中央に進みます。

「はい……」

 私は振り返らずに答えます。
 目の前には閉められている窓。
 程良く暖められた部屋。
 窓にはカーテンがかけられ、外からはこの部屋の様子が見えない様になっています。
 それは、私がそうしたのです。

「……」

 その窓を見つめる私の背後から、優しい重みが私に預けられます。

「……」

 私の肩越しに回された腕を、自分の胸の前で抱きかかえるようにします。

 何て、暖かい腕なんでしょうか。
 何て、気持ちのよいこと。
 それだけで、心が溶けてしまいそうになりました。

 どうしてなんでしょう。
 昔は男性に触れられるだけで激しく嫌悪をしていたはずでした。なのに今は、志貴さまに触れられる事が、私の中での最上の喜びとなっているのです。

 志貴さまは私を後ろから優しく抱きしめると、私の髪の香りを楽しんでいるようでした。後ろから志貴さまに包み込まれ、私にも志貴さまの香りが伝わってきます。

「翡翠……いいにおい。暖かいよ……」

 志貴さまがそうする事を、私は決して嫌だとは思いません。それどころか、もっと私を感じて欲しいと思うほどに狂おしく、私を包み込む感情。
 だから、ぎゅっと志貴さまの腕を抱きかかえ、その拳に口づけをしました。

「翡翠……」

 志貴さまが、私をこちらに向かせます。私の腰を抱きかかえるようにして、志貴さまはその空間に私を包み込み、ぎゅっと抱きしめました。

 私は、その与えられた志貴さまの胸に顔を埋めます。布越しに伝わる志貴さまの体温は、私のそれに比べて少し暑いように感じられます。目を閉じると、志貴さまの鼓動が聞こえてくるようです。とくん、とくんと、一定で優しいリズム。それだけで安堵を覚えている私がいます。少し、緊張してらっしゃる? 私はそんな事を覚えてしまいます。でも、私の心臓は先程から早鐘を打ち、志貴さまのこれとは比べ物にならないほどで恥ずかしく思ってしまいます。

 包まれたまま顔だけを上げると、志貴さまの瞳が私だけを見つめています。

 嬉しくて、嬉しくて。
 その穏やかな瞳に吸い込まれるように、私も志貴さまを見つめ続けました。

 どのくらいそうしていましたか、ゆっくりと志貴さまの顔が近付いてきました。私はゆっくりとそれに合わせて瞳を閉じます。そうして……少しだけ敏感になった唇に、志貴さまのそれが触れられました。

 何て柔らかくて、心地よいのでしょうか。
 ただ僅かに触れ合っているだけなのに、そこから伝わる感触は私の体を一瞬で走り抜けます。

「……あ」

 ゆっくりと、離れていく唇。その名残惜しい感触に、僅かに声が漏れてしまいます。
 薄く、開かれた唇。
 志貴さまの柔らかいそれを見つめると、それだけで私の中で熱が生まれてきます。

 もう一度何も言わず、志貴さまは唇を重ねてきました。今度は少し擦るように、私達の唇が触れ合います。その感触は柔らかくて、溶けてしまいそうです。
 触れ合うそこが、少しずつ開かれていきます。志貴さまの舌が、私の唇を軽くノックするように触れました。
 更に一層、暑くて柔らかい感触。私はそれに陶酔し、求められるままに唇を割ります。
 志貴さまの舌が、私の口の中に入ってきました。迎え入れるように、でも積極的すぎぬように私も同じものを差し出し、志貴さまに触れさせました。その瞬間、

 ……

 得も言われぬ感覚が、私を襲いました。
 ああ……なんて……言葉に出来ぬその柔らかさ。熱さ。陶酔する行為。

 くちゅ……ちゅ……

 触れられた志貴さまの舌が、私のそれと混ざり合って口内を蠢いていきます。乗せられた志貴さまの唾液は、何にも代え難い滴りとなって、私の喉を潤していきます。
 ああ、なんておいしい……
 そんな風に思ってしまう私は、いけないでしょうか。そんな事も考えられないほど優しい口づけは、私をだんだんと放蕩させていきます。

 ゆっくり、体を後ろに横たえます。
 志貴さまに支えられながら、私は自分でメイクした志貴さまのベッドに、一番最初に沈みます。
 ふわっとした感触は、まるで志貴さま自身に包み込まれたかのように。志貴さまの海、その最深部まで沈み込んでいきたい。そんな私の上に、志貴さまは優しく被さってきました。

「……」

 志貴さまに言葉はありません。でも、その瞳から伝わる言葉が、私にはわかります。

「……」

 こくっと頷くと、志貴さまはもう一度優しくキスをしてくださった後、ゆっくりと唇を私の首筋に移動させました。

「ああ……」

 志貴さまが優しく唇をなぞらせた瞬間、思わず声が漏れてしまいました。
 ぞくりとする感触。でもそれは嫌悪ではなくて快感。
 そして触れられた道筋に残る、わたしたちの熱さ。それがゆっくりと私に染み込み、じわりと身体中に広がっていくようです。

 私の腰を抱えるようにして、志貴さまがエプロンをほどきます。志貴さまのされるままにエプロンを外し、そうして服の釦を外されていきます。
 この瞬間は、いつでも慣れないのです。私の殻を外される、そのような気持ちを抱いてしまって、今でも僅かながら緊張してしまうのです。でも、時折志貴さまが私を見つめ、微笑んでくれるだけで、だんだんと緊張がほぐれていくように感じてしまいます。

「……ああ」

 ゆっくりとそこを広げられると、慎ましやかな私のブラに包まれた胸が露わにされてしまいました。
 そこに志貴さまの視線を感じてしまうだけで、熱いため息を漏らしてしまいます。

「綺麗だよ……」

 志貴さまの唇が優しく動き、何度も聞いたその言葉が紡ぎ出されるだけなのに、身体中に走る熱は押さえられません。
 そっと、たくし上げるようにして志貴さまは私のブラを外し、そこに優しく口づけをしました。

 ちゅっ……ちゅっ……

 啄むように志貴さまの唇に挟まれて、私の乳首が吸われました。
 同時に、舌がゆるゆると動き、私の先端を舐めてきます。

 ああ……

 奥の方からこみ上げるこの気持ちを表現する術を、私は知りません。
 ただ優しくて、気持ちよくて、愛おしくて……
 志貴さまの頭を包み込むように両手を添えると

「……はぁ」

 本能が示すままに、私は声を発しました。

 私の胸を吸う志貴さまの手が反対の胸に添えられ、ゆっくりと円をなぞるかのように、私の胸の周縁から中心へと優しく動きます。仰向けになってなだらかな私の胸は、志貴さまの望むように形を歪ませながら、優しくこね回されていきます。志貴さまの優しい掌に触れる乳首がむずがゆい感触を与え、その事実に私は恥ずかしくなっていきます。

 ああ志貴さま……許してください。

 請うような視線を志貴さまに向けると、志貴さまは嬉しそうに私を見つめてにっこりと笑いました。その瞳は喜びに満ちていて、私を嘲笑うようなそれではまったくありません。

 志貴さまに喜ばれている。
 その事実が余計に私を熱くしました。

 スルスルと、志貴さまの腕が私のおへそをなぞった後、スカートに伸びました。そのまま、膝の間に掌を割り入れられ、ゆっくりとスカートが上げられていきます。

 膝頭から始まった志貴さまの感触。
 ゆっくりと、じらすようにして私の脚を上っていきます。膝から腿へ、なぞられるようにして伝わる志貴さまの掌。鳥肌が立つほどの気持ちよさは、普段慣れぬ所への刺激。

 普段隠されたそこに触れられるのは、志貴さまだけ。
 志貴さまだから、わたしはこうして全てをゆだねられるのです。

 太股の内側を指先で意地悪くなぞられた後、志貴さまの手はわたしの一番中心へ向かってきました。

 一瞬の感覚の消失の後、わたしの中心を覆う布越しに志貴さまの指先。

 その瞬間

「…………ああぁ」

 私は大きく弛緩し、ベッドに沈み込んでいきました。

 志貴さまの指先が、クロッチ部を弄ぶようにゆっくりと往復します。なぞられたその部分が、火の出るように熱い。じわりと染み出してくる私の愛液が、志貴さまの指先を濡らしてしまっているかと思うと、私は恥ずかしさに心が霧散してしまいそうになります。
 でも、志貴さまは構わず私のそこへ優しく触れ続けます。布の上から、すっ、すっ、と滑らせるような動き。まるで私の奥から、気持ちよさを引き出してくるかのような優しい動き。

「ううん……」

 連続的に与えられるその感触に、たまらなくなって私は声を上げてしまいました。
 それを確認すると、志貴さまは唇を私の胸から離し、ゆっくりと体をずらしていきます。
 志貴さまの両の手が、私の脚に触れられました。

「……」

 何も言わず瞳で合図を送る志貴さまに、私は抗う事はしません。
 されるがまま、脚を割り開かせていきます。

 見られている。

 私のもっとも熱い部分を、志貴さまに見られている。それを感じるだけで、私の中のうねりは一段と大きくなり、体を震わせてしまいます。

 ゆっくりと、腰の部分に志貴さまの手が伸びます。
 私はそれに従うように少しだけ腰を浮かし、志貴さまを助けました。

 ゆっくりと、ショーツが脱がされていきます。

 その恥ずかしさに、私は消え入りたい思いです。でも、志貴さまはそれに感動を覚えているかのように、ゆっくり、ゆっくりと下ろしていきます。そうして、私の左足からそれを抜き取ると、くつろげるようにして私の中心を拝みます。

「綺麗だ……」

 志貴さまの言葉にも、緊張が感じられます。
 まるで何かを飲み込むようにそう呟いた志貴さま。

 私は、恥ずかしくも嬉しく思います。
 志貴さまに全てをさらけ出し、こうして囁いて貰えるだけで。

 志貴さまの顔が、ゆっくりと私のスカートの中に消えていきました。
 感覚をつかめない、一瞬の不安感。
 そうして、私の中心に、志貴さまの指が添えられました。

 ああ……

 志貴さまが私をくつろげ、そこを見ていらっしゃる。
 優しく触れられた私の花は、妖しく志貴さまをそこへ導き、強烈に私を快感に導いています。
 奥の方から、泉が沸き出しているのを感じ
 トロッ……
 と、中心から染み出す愛液の雫を、私は隠す事が出来ません。

 それに気付いた志貴さまが、息を感じるほどに私の中心に近付いて……
 そうして、そこに優しく口づけられました。

「……ぁぁぁ……」

 消え入りそうな声で、私は啼きます。

 ちゅ……ぴちゅ……

 志貴さまの舌が、私の花を愛で、そこから流れ出す密を舐め取っています。

「……いや……」

 口からは自然と言葉が溢れていますが、私はそれを嫌だとは思っていないのです。そう口に出てしまう、そんな女の性が許せません。

「翡翠……」

 志貴さまは、味わうように私の花を愛撫します。細くなった舌先が、入り口から膣内に入ってきました。
 瞬間、きゅっと締め付けるような感覚で、私は志貴さまの舌を感じてしまいます。
 狭くなった私の中を、志貴さまの舌がくねくねと動きながら奥に進んできました。

「……っ……!」

 泉の奥から、溢れ出る前の雫を舌に乗せ、絡め取られるような感触。それがあまりに気持ちよすぎて、私は言葉を発する事も出来ません。
 ただ呼吸を乱し、そうやって志貴さまに私自身を伝えるだけです。

 くちゅ……くちゅ……

 舌で私の中をかき混ぜる音が、私をおかしくしていきます。時折啜る志貴さまの音に、私は惚けて意識をだんだんと遠くしていくばかりです。
 私がもうすぐでどこかに行ってしまいそうになった時、優しく前後されていた志貴さまの舌がわたしの中から抜き取られ、次に、合わせ目で未だひっそり息づいていたクリトリスを掬いました。

「あっ……っ」

 瞬間、びりっと強烈に電気が走る様に感覚が私を貫きました。
 それはあまりに気持ちよくて、渦を巻いて私を襲います。

「んっ……ん……」

 ひくり、ひくりと、私の花はいやらしく痙攣を起こしてしまい、私の中から、粘度を増した液体が大量にどろりと零れてしまいます。
 志貴さまの舌は、そこを触れるか触れないかの優しさで愛撫し続けます。
 その儚さに、強く自分を志貴さまに擦りつけてしまいたい衝動に駆られてしまいます。
 ですが、そのようなはしたない事……そう思うだけでも、さらに大きな快感が私の内部から溢れ、狂わされていきます。

 志貴さまが、今度は同時に指を花に埋没させます。
 人差し指が入り口に触れたと思うと、私の花はいやらしくひくつき、志貴さまの指を吸い込もうと動きます。

 ああ……
 恥ずかしい。

 そう思うことでより一層の快感を導き、私は立てられた膝も崩れそうになってしまいます。

 くちゅ……

 指が沈むと、蜜を称えた泉はしめった音を響かせながら志貴さまの指を締め付けました。
 入れられているという熱が、下半身から全身に伝播します。往復される動きに合わせて、私の腰と花が、二重の動きを自然に奏でだしてしまいます。

「翡翠……もう……」

 志貴さまは、自分も切なそうに私を見ました。
 もう、耐えられないのでしょうか。
 私は、既に耐えられません。

「はい……」

 わたしは一言だけそう言うと、後は全てを志貴さまにゆだねました。

 ベルトを外す金属音。
 やがて、私の脚を割り開き、志貴さまの体が間に入ってきました。

「いくよ……」

 志貴さまの声と共に、熱く湿った入り口に更に熱いものが触れられました。

「あ……」

 ぶるっと身震いし、私はその温度に体を紅潮させます。
 志貴さまは、私の腰に手を添えると、一つ呼吸をしてから

 ず……ず……ず……

 ゆっくりと、私の中に入ってきました。

「あ……あ……あああ……」

 少しずつ、少しずつ入っていくたびに、私は息を吐き出していきます。
 まるで、自分の中を全て志貴さまで埋めてしまうように。

 何度も志貴さまが愛してくれて、私の中から志貴さまを排してしまう痛みと恐怖を取り去ってくれました。今では、こうして志貴さまの全てを受け入れる事の出来る快感と悦びを覚え、繋がる事への想いを私の中でも大きくしていました。

 一番奥、強く志貴さまが全てを感じられる場所まで到達されると

「はぁ……」

 志貴さまが、わたしが、熱い息を漏らしました。
 そうして、志貴さまは私を優しく見つめ、キスをしてくれます。

「動くよ……」

 志貴さまが甘く囁くと、ゆっくりと私の中の志貴さまが動き出します。

 少し引かれては、また沈み込み、軽く奥を感じられては、掻き回すように上下させる。

「ああ……志貴さま……」

 その優しい気遣いに、私は涙を流しそうなほど悦びながら声を漏らします。
 激しく私を突くような野性的な動きを、志貴さまは控えてくれています。それが、私を喜ばせられないと思ってしまっているからなのでしょうか。

 私は……志貴さまの全てを受け入れます。

 今もこうして繋がっている部分を私は愛おしく思い、脚を志貴さまの腰に絡めます。
 そのまま、私はゆっくりと揺れ、志貴さまの動きに同調するように動きました。

「翡翠……?」

 志貴さまは、その内部の変化に気付いて私を見ました。私はにっこりと微笑んで志貴さまを見つめ

「志貴さま……お好きなように……私を抱いてください」

 嬉しく、そう告白しました。

 志貴さまは一瞬、ためらうような表情を見せました。
 不安にさせている。
 そう思った私は、初めて積極的に志貴さまに口づけし、舌を絡ませ、唾液を吸いました。
 目の前で見開かれた目が、だんだんといつもの優しい志貴さまの目に戻ります。

「……」

 私が唇を離すと、志貴さまとわたしの唾液が糸となり、重力に従って私の唇に触れました。私はそれを僅かばかり出した舌で舐めました。

 ああ……甘い。

 志貴さまの唾液の味に陶酔し、私は志貴さまに見せるように舌を唇の間から先だけ出し、志貴さまの唇も舐めます。優しく触れられるその感触は、されるがままに柔らかく私を包み込みました。

 そうして、にっこりと笑う私を見て、志貴さまが心を決めて下さったようです。

「……ゆっくり、するよ」

 少しだけ大きく、志貴さまが私の中で動きます。

「あっ……あっ……」

 じゅ……っちゅ……

 私の中で、内部が擦れて粘膜が波打ち蠢いて、更に志貴さまを締め付けます。
 きゅうっと、志貴さまを包み込むような自分の動きに、神秘を感じてしまいます。

「翡翠……翡翠……」

 志貴さまは優しく語りかけながら、リズムよく私を味わっています。
 掻き回されるように私の中を楽しみ、時折今までと違う強さで私の奥を突いてくれました。

「あああっ……」

 いつもよりずっと早く、私の心は言う事を聞かなくなっていきます。まだ志貴さまが僅かも喜んでくれていないのに、私だけが意識が白くなっていきます。

「志貴……さま……ぁぁ……」

 志貴さまの肩をぎゅっと抱き、目を瞑って私は体を仰け反らせました。
 ふっと、浮き上がるようなこころ。
 私は志貴さまに導かれ、高みに昇っていきました。

「……」

 目を開けると、志貴さまが私の髪を撫でながら、とても嬉しそうに私を見ていらっしゃいます。
 きっと、私の姿に悦びを感じていたのでしょう。
 それは、私にとっては恥ずかしい事でありましたが、同時にとても嬉しい事でもありました。

 志貴さまが、私を見て喜んで下さっている。
 愛する者として、愛される者としてこれほどに愛しい事はありません。

 私は志貴さまに抱きつくと、自然にまだ中にある志貴さまを、優しく締め付けていました。

「翡翠……」

 志貴さまが確認するように私を見つめると、私は頷きました。

「今度は、志貴さまが……」

 私は、愛する志貴さまに気持ちよくなって貰いたい。
 だから、私は志貴さまとひとつになっている。

 そう心で伝えると、志貴さまは腰に手を置き直し、私の中のそれを揺すり始めました。

「ああ……ん……志貴……さま……」

 時に優しく、少しだけ強く。私の中を動き回るそれはとても熱く、私の中から溢れる蜜を絡ませながら、いやらしい水音を立てて私の中に包まれます。
 志貴さまが腰に力を込め、少しだけ突き上げてきました。

「ああっ……!」

 私はその新たな刺激に僅か大きな声を上げて、恥ずかしさに紅潮してしまいました。

「……いいよ、もっと、素直に……」

 志貴さまはそんな私を見ながら甘く囁き、そうして同じようにもう一度奥を突きました。

「んっ!」

 志貴さまの一言で、私の中のモラルは一瞬で姿を変えました。
 志貴さまが喜ぶならば……
 その想いが私をより大きく啼かせ、私は志貴さまに捧げます。

 ずぷっ……じゅぷっ……

 少しだけ大きくなった粘膜を擦る音が、私の中でこだまします。

「志貴さま……志貴さま……あうんっ……!」

 腰を抱えられ、より奥に繋がった瞬間、私は詰まるような声を上げてしまいました。そうして、またあの感覚が近付いてくるのを、感じてしまいました。

「志貴……さま……!」

 私は切なそうに志貴さまを見つめます。

 わたしばかり……

 しかし、志貴さまも少し苦笑しながら私を見ました。

「大丈夫……俺ももう……」

 ああ、よかった。
 志貴さまも、もうすぐなんだ。

 そう思うと、私の中の鍵が外れたかのように、新たな波が迫ってきました。

「ああ! 志貴さま……!」

 脚を強く絡め、私はその名前を呼んで肩にぐっと爪を立てました。

「翡……翠……!」

 志貴さまは初めて抑えが効かなくなったように、強く私に腰を打ち付けてきました。

「ああ! ああっ!!」

 その衝撃に、まだほんのさざ波だったはずの津波が、一気に私を襲う様に寄せてきました。

 ぐちゅ、ぐちゅ……

 大きく乱れた摩擦音が、ふたりの繋がる場所から流れ続けました。

「ああ……ああ!!」

 たまらなくなり、私は意識を失いそうに激しく快感を受け止めながら、背中を力一杯反らしました。

「翡翠!」

 同時に、志貴さまは遂に大きく吠えるように叫ぶと、大きく引いた腰をずんと私の腰に叩きつけ、それからぶるりと強く震えました。

「ああ……!」

 志貴さまの叫びに合わせるように、私も自分でも信じられぬほどの大きな声を上げたその時

 びゅくびゅく……

 私の最奥で大きくはじけるようなそれが、激しく中に注がれました。
 信じられないほど熱いそれは、私を全て満たそうと次々に流れ込んできています。

 ああ、出ている。
 志貴さまの精液が、私の中に。
 志貴さまが沢山、私の中に出して下さっています。

 びく、びくと打ち出されるそれに合わせて、志貴さまがより奥に注ごうと腰を打ち付けました。

「ああ! ああ……っ」

 その注がれる悦びと打ち付ける強烈な感触に、私は果てない大きな叫び声と共に遂に一番遠いところに昇っていきました。


「ああああ……」

 何も、考えられない。
 意識が遠い。
 浮遊感、そんな言葉では言い表せ得ない快感が、私の体と心とで暴れ回ります。

 その間は全く覚えていないほど、私は気をやっていました。


 そして、すうっと意識が少しずつ戻ってくるころ、私は崩れるようにして志貴さまのベッドに沈み込みました。

「ああ……」

 びく、びく、と志貴さまのがまだ私の中で大きく動いています。

「ああ……」

 私の中で、志貴さまの精液が感じられます。
 私の中で、たくさん、たくさん。
 溢れるほどに、注いでくれたのですね。

 ふたりの隙間という隙間は全て、志貴さまの注いで下さった精液が満たされていました。

「はぁ……っ」

 どさりと、志貴さまが私の横に仰向けに倒れてきました。
 まるでここに来たばかりの頃見せた、貧血になった時のように倒れますが、私は少しもそれに不安を感じませんでした。

 なぜなら、志貴さまは私が支えているから。
 こうして注がれる事で、私は志貴さまに力を与えているのだから。

 今はそんな事を全く考える事もなく、志貴さまは純粋に私を愛してくれています。私の能力は、最初の一回を除いては、もはやほんの付加価値に過ぎません。
 でも、「共感者」の私は、今の志貴さまがどうして倒れてきたか分かっている。志貴さまは今の行為に疲れながらも、体を巡る力に悦びを感じながら、一時の気怠さを味わいたいと。

 だから、そんな志貴さまの姿に嬉しく思えてしまいます。
 仰向けながらも私の方を見つめるその瞳は、生気に満ちあふれています。

「……」

 私は目を合わせると、無言で志貴さまに微笑みました。
 未だ繋がった腰の部分を中心にする重さまでもが志貴さまのものだと思うと、わたしはそれさえも嬉しく思ってしまいます。

「……ふふふっ」

 志貴さまはそんな私の笑顔ににっこりと笑って答えると、私の頬に手を寄せ、そうして優しく口づけをして下さいました。

「……んっ……」

 私は、そんな甘い志貴さまの感触を、とても幸せに感じていました。

 ゆっくりと進む穏やかな時。

 私は、この瞬間を志貴さまと共にゆっくりと味わいたいと思いました。