ちょっとだけ、ぐたりと倒れた。
 翡翠の横に。
 でもまだ繋がったまま。
 その気持ち良さに浸っていた。

 ……。
 起きるか。
 ずっとこうしていたいけど。
 ずりゅっと引き抜いた。
 少し大人しくなった肉棒に引きずられるように、吐き出した白濁液が逆流し
てくる。
 慌てて、サイドテーブルからティッシュの箱を掴んで数枚引き抜いた。
 そっと開いたままの穴にあてがうと、周りの愛液とドロドロの精液ですぐに
びしょびしょの濡れた塊に変わる。
 二度、三度と拭き作業を重ねた。
 別に汚してしまってもいいのだろうけど、翡翠のメイド服がそんなのに塗れ
るのを見るのは少々抵抗があった。

 翡翠は、ぐったりとして下半身の始末をされるに任せていた。
 翡翠も軽い高まりを迎えて、常ならぬ状態なのだろう。
 いつもなら、こうして拭いてやる時は恥ずかしそうにしたり、俺を止めて自
分でしようとするのだけど。
 今は、体をひくひくとさせながら、ティッシュや、充血した小陰唇にあてが
われた指に、反応している。
 新たにトロリと分泌される愛液からも、翡翠が感じているとわかる。
 まだ完全には絶頂に至っていない体は、きっと敏感になったままなのだろう。

 メイド服を着たままで、茫然自失の表情。
 乱れた着衣。
 控えめに開かれた腿は剥き出しで、それどころか下半身全てを晒している。
 二人の交わりの名残が太股の方まで光りぬめらせている。
 その翡翠の姿は非常に猥雑だった。

 従順なメイドさんの体を欲しいままにしているような気分になる。
 従順なメイドさんの体をほしいままにしているのだけど。

 こんな姿を見ていると、また翡翠の体が欲しくなる。
 抱き合い体を重ねれば、すぐにさっきくらい回復しそうだった。
 翡翠も嫌がらず、むしろ喜んでくれるかもしれない。
 翡翠の意識はともかく、翡翠の体はさらなる快楽を求めている

 でも、あえて挿入は止めた。
 また、俺だけが最後まで達して、翡翠は中途半端に終わってしまうのがわか
っていたから。
 まだ一緒に高まって絶頂を迎えるほど翡翠の体は、性行為に慣れていない。
 琥珀さんと一緒にしてはいけない。
 秋葉はあっさりと……、いや秋葉はまあ特別なのだろう。
 翡翠はまだイカせてあげた事が無かったから。
 だから、今度は翡翠を悦ばせて、達するまで気持よくさせてあげたかった。
 
 指を腿に置いた。
 ゆっくりとすべすべの肌を撫で摩る。
 膝から上へ半ば近くの流線。
 何度も柔毛の欠片すら無いような肌を楽しむ。
 そして、さらに上へ。

 そこは一転して感触が変わる。
 普段ならば同じ滑らかな反応を手に返すのだろうけど、今は湿り、ねとりと
指に絡むものがある。
 翡翠の内からとろとろとこぼれ、流れ伝った愛液であり、しっとりとした汗
であり、俺の腺液と、二度にわたる精液の迸りである。
 拭いてもなお残っているもの、そして今なお翡翠が感じている証として分泌
を繰り返すものの入り混じり。
 にちゃ、という軽い抵抗感。

 かまわずそこも何度も手で触れて、おもむろに源泉へと進んだ。
 充血し、何度もほぐされて蕩けるように開いている。
 薄桃色の外の唇だけでなく、その奥に秘められた処までも。
 常より紅く充血し、濡れ光っている翡翠に触れた。

 翡翠の甘露に濡れていた繊細なピンクの襞が、無惨に白濁した粘液に汚され
ている。
 襞のあちこちにある拭き残し。
 そして奥から洩れ出る愛液と混じった名残。

 無惨にも見えるが、中から溢れ出てくるのが己の精液だと思うと、頭が沸騰
しそうなほど興奮する。

 指を、差し入れた。
 ぴちゃと、たちまち指がどろどろの粘液に濡れる。
それは指のみならず手を濡らし、手首までも伝わってくる。
 かまわず指をゆっくりと出し入れし、膣道にある粘度のある塊めいたモノを
掻き出していった。
 翡翠の中を傷つけないよう、爪は立てずに指の腹で優しく。

「はふ……、や、やア……、あ、ふぅ……」

 突然の刺激の再開に、翡翠は嬌声を洩らす。
 その声とぴくぴく動く体の様子を見つつ、手を動かしていく。
 強すぎないように、できるだけ翡翠を悦ばせてあげられるように。
 急に指がきつくなる。
 ぎゅっと締め付けが強くなる。
 さっきまでもっと太い肉棒を全部呑み込んだのが信じられないほど、人差し
指一本の動きが難しくなる。

「志貴さま、ああ、……んんッ」

 指の動きに呼応して、面白いように反応を返す翡翠。
 もっともっと刺激してみたくなるが、自制した。
 苛めちゃいけないから。
 苦しげな表情を深めないように軽く、押し殺した声も洩れない程度にゆっく
りと、指を出し入れしつつ指先を回す。

「気持ちいい、翡翠。もっと強くした方がいい?」
 
 手はそのままに翡翠に寄り添い、耳元で囁く。
 小さい耳が声を受けて震える。

「志貴さま、気持ちいいです。わたし、わたしおかしくなっちゃう」
「いいよ、翡翠もっと気持ち良くなってよ。強くは、しない方がいいね」

 翡翠の女の子への刺激は、強めず時折ポイントをずらす程度にする。
 その代わりに、舌での動きを加える。
 空いた手でさらに胸元をくつろげる。
 一気に翡翠の可愛い胸を露わにしたかったが、今日は我慢する。
 ほっそりとした鎖骨の線を舌で舐めてあげる。
 翡翠の好きな所。

「ああ、志貴さま」
「左の次は、右もね。……どう?」

 声にならない。
 仰け反るように白い喉を見せている。
 ではと、その喉に唇を移動。
 さっきのキスの痕が残る白い肌を

「あああッッッ、志貴さま。何か、変です。こんな……、んんッッッ」

 泣くように翡翠が声をあげる。
 自分で自分の体が頼りなくなっているのだろうか。
 手がひっしと俺にしがみつく。
 ちょっとやりにくい体勢ながら、翡翠に忍ばせた手は休ませない。

 人差し指と中指でじゅぷじゅぷと翡翠の狭道を何度も往復する。
 締め付け、まとわりつく柔肉の襞に、こちらからもお返しをする。
 親指で、花弁の上、触れた粘膜に触れたり、さらに上、包皮に守られた翡翠
の敏感な肉芽をそっと撫ぜてあげたりする。

「もう、ダメです。何、これ、ああッッ、あああッッッ」
 
 こんなに乱れている翡翠は初めてだった。
 今度こそイクのかな。
 このまま高まって最後の最後にまで。

 さらに動きを増した。
 ただ激しく強くするのではない。
 むしろ動きはゆっくりとさせながら、より優しく、より滑らかに、ただ翡翠
の気に入るようにと指の動きに神経を集中させた。

 耳の裏を舌で舐めて、そのまま耳たぶを軽く甘噛み。
 膣道の指をくの字に曲げて、天井に相当する部分を軽く、本当に軽く、指の
腹で引っ掻く。
 けして平坦でなく起伏に富んだ襞の壁を刺激する。
 その間も手自体は止まっておらず、ゆっくりと指は奥へ進み、そしてさらに
ゆっくりと膣口まで戻る。その往復を繰り返す。

「志貴さま、志貴さま、志貴さまあ……」

 うわ言のように翡翠は名前を呼ぶ。
 しがみついた手が痛いほど握り締める。
 
 そんなに俺のことにすがっているのかと思うと、翡翠への愛おしさが心を満
たす。
 唇を合わせた。
 愛撫と言うよりも、翡翠とそこでもつながりたくて。

 いつか、指でなくて、翡翠と一つになった状態で、一緒に絶頂を迎えようと
決意した。
 今は、とにかく翡翠にも俺がさっき翡翠に貰った喜びの果てを……。

 体を震わせて、ぴくぴくと弾む。
 もうすぐ、もうすぐだな。
 技巧的な指の動きを、単純なものにかえる。
 中指と人差し指を広げるようにしながら、細い翡翠の中をかき回すように動
かす。
 時折、親指でクリトリスの包皮をずらすように動かして間接的に擦りながら。

「あああッッ、やめて、志貴さま、怖い、や……だぁ……」

 びくっと体が跳ねて、止まる。
 声もふっと消えて、呼吸すら一瞬止まっていた。

「大丈夫、翡翠。傍にいるから」

 上半身を片手で抱く。
 最後に親指で突起を弾いてから、差し入れた指に力を加えた。
 濡れた二本の指をじゅぷと翡翠の奥へと。
 凄い襞の抵抗に構わず、根本まで挿入し、さらに力を加えた。

「あッ、ああああぁぁぁッッッッッ!!!」

 翡翠が声を上げる。
 苦しそうな、泣きそうな、でも快楽の色を湛えた表情。
 見ているだけで、こちらも引きずられて暴発してしまいそうな翡翠の姿。
 絶頂の衝撃に身心の自由を奪われ、ただただ未知の感覚に翻弄されている様。

 なんていう喜び。
 肉体的な喜びとはまったく異なった喜び。
 これだけで射精してしまいそうなくらいの。
 いや、本当に翡翠と一緒に達したかった。
 二度に渡って大量に迸らせていなければ……。

 でも、翡翠を絶頂に導いた嬉しさの前にそんな小さな悔いは消失していく。
 初めてだ。
 そう初めて翡翠と本当の意味で結ばれたような気がする。
 今までのわだかまりも何も消えていく。

 感動していた。
 涙が出そうなほど。
 独り善がりかもしれないけど、心の底まで歓喜に満ちていた。

 この手が、この指が翡翠を……。
 ダメ押しのように、軽く手を動かした。
 数回、ゆっくりと出し入れする。

「え、うんん、ひゃ……」

 声にならない声を上げる。
 絶頂を迎えてなお与えられる快楽。
 嬉しくてさらに動かす。
 翡翠への尽きせぬ想いを込めて。


 でも、少し、強すぎただろうか。
 異性の手を借りての、初めてを迎えたばかりだった翡翠には。

「ふぁぁ、ッッッ……」

 びくんと体がまた動いた。
 そして……。

 まだ翡翠と繋がっていた手が、別種の感触を与えられた。
 流れる。降り注ぐ。弾ける。こぼれる。
 濡れる。濡れている。暖かい。

「え?」