言いながら翡翠が身を起こす。
 翡翠の手が近づく。

「えっ」

 翡翠がズボンのチャックに手を伸ばすのを、息を呑んで見つめた。
 自分の意志で俺のを脱がそうとしている。
 こんな事させた事はないし、されたのだって初めてだ。
 琥珀さんは着せ替え人形みたいに俺の事を脱がすのが好きだし、遊び半分に
四つん這いで口だけでファスナーを下ろす、いうのを試して、二人で笑ってし
まった事だってあるけど、翡翠からこんな真似をされるなんて。
 黙っているうちに、膝まで下ろされ、今度はパンツに手を掛ける。
 でも前に、勃起したペニスがあるのを戸惑って見ている。
 どうやっていいのかわからないようだ。

 困り顔の翡翠に、くすと笑いをかみ殺した。
 そしてはみ出そうなペニスを手で直接抑えて、翡翠を手助けした。
 引っ張ればバンツが脱がせられるように。

「いいよ、下ろして、翡翠」
「はい」

 翡翠の手によって下半身が剥き出しになる。
 手を放すと、翡翠の目の前でばね仕掛けのようにペニスが根本から弾んだ。

「きゃっ」

 翡翠が飛び退く。
 ちょっとその慌てぶりにも、笑みを誘われつつ、パンツもズボンも完全に脱
ぎ捨てた。

「翡翠」

 ただ名前を呼ぶ。
 でも翡翠は俺が何をするのか、何を望んでいるのか、理解した。
 改めて翡翠はベッドに横たわる。
 翡翠としては精いっぱいに脚は開かれている。
 手でちょっと力を加えればその倍はあっさりと開くけれど、翡翠としての羞
恥心の限界。

 翡翠に俺をあてがう。
 ペニスの先端で、翡翠のぴらぴらとした花弁を突付く。
 先触れの腺液と、翡翠の愛液がぴちゅっと混ざり合う。
 亀頭が濡れ光る。

「いくよ、翡翠。力を抜いて……」

 角度を合わせ、腰に力を入れる。
 かなりの抵抗を伴って亀頭がめり込む。
 ずんと突いた。
 きついとは言っても何度も入った馴染みの処。
 翡翠も緊張はしているが、初めての頃のような、全身を硬くするほどの恐怖
は抱いていない。
 入った。
 まだ竿の部分に残しがあるとは言え、大部分が翡翠の狭道にある。
 
 不思議だ。
 初めての頃の入れるだけでも苦労していた時よりも、今の方がずっと狭くき
つく感じる。
 翡翠のみならず俺も、緊張のあまりペニスが受け取る感覚情報を完全には頭
で理解できていなかったのかもしれない。

 ずっずっと隘路に進入する。
 なんとも言えない締め付けをする襞が、入る傍からペニスを包み込む。
 
「うん……、全部入った。翡翠、痛くないよね」
「大丈夫です。いっぱいで苦しいくらいですけど、志貴さまだから、平気です」

 健気に翡翠は答える。
 可愛い。

「動くよ。とりあえず一回出さないとどうにもならない」

 出し入れを開始する。
 根本から先端までをしっかりと握って放そうとしない襞に抵抗して、腰を引
き、そして突き入れる。
 何度もその単調さにそぐわずとてつもない快感をもたらす前後運動に酔った。
 翡翠はと見ると、体を火照らせて声を押し殺している。
 小さく吐息を洩らして、唇を噛む様が何とも言えず可愛い。

 ずっとこうしていたい。
 しかし、そう長い時間は続かず、あっさりと引き返し不能地点に達する。
 琥珀さん相手であれば、最悪抜いてでも快感の高波をやりすごすのだが、翡
翠の場合は抗わず、そのまま深く深く挿入を続ける。

「うッッ」

 腰から力が抜ける。
 ペニスだけでなく、脚もお尻も下腹も、圧倒的なむず痒さが走った。
 こみ上げる。

「翡翠ッッ」

 どくん、どくん……。

 出た。
 翡翠のお腹の中にいっぱい出た。
 
 気持ちいい。
 なんて気持ちよさ。
 
 脱力。
 余韻。
 翡翠に体重をかけないように肘で体を支えながらも、動きを止める。

 脚、お腹、胸。
 翡翠と接した処の体温が混ざり合う。
 まだ、翡翠の中にいる。
 あれだけ放出していながら、ほとんど大きさに変化は無い。
 多分抜いてみれば、さっきまでの痛い程の反り返りはないだろうけど、それ
でもかなりの興奮状態にあるのは見て取れる筈。

 依然と圧迫感は続いている。
 そして何もしていないのにやわやわと揉まれている様な翡翠の膣内のうねり。
 たとえ小さく縮んでいたとしても、こんな甘い攻撃を受けていたらあっとい
う間に回復してしまうだろう。
 まして、ほとんど臨戦態勢を解除していないのであれば、なおさらに。

「志貴さま……?」
「また、動く。今度はもっとスムーズになるから」

 少しだけ体位を変える。
 翡翠の左腿に手を回す。
 持ち上げて翡翠の体を捻らせる。
 そして、出し入れを開始した。
 体の捻りは当然膣内にも影響し、さっきとは感触が少し変化する。

「はぅ……、ふ……ぅん……」

 ゆっくりと出し入れを始めると、さっきの余波に火がついてたのか、翡翠が
吐息の中に、脳髄を刺激する声を潜ませ始めた。
 嬌声とまではいかないが、体が受けた快感を示す控えめな甘い悲鳴。
 もっと聴きたい。
 もっと翡翠を気持よくさせてあげたい。

 射精からあまり間が空いていなくて、少し敏感すぎるペニスをゆっくりと翡
翠の官能を引き出すべく、動かす。
 さっきより動きやすい。
 翡翠が少し馴染んだのと、さっき放出した精液が潤滑油がわりになっている
から。
 それに一度絶頂を迎えて、こちらのはやる気持ちが少し消え去ったから。
 どうしても最初は自分本位になってしまって知らず翡翠に無理をかけてしま
うけど、今はもっと落ち着いていられる。

 徐々にリズムを変えていく。
 ゆっくりとした同じ調子での出し入れに変化をつけていく。
 抜く時はよりゆるゆると、挿れる時は勢いを増して。
 あるいはその逆。
 浅く何回か出し入れをして、そして深く強く。
 ただ前後に腰を動かすのではなく、円を描くように接合部を軸に動かしてみ
たり。
 
 次第に翡翠は反応を強くしていく。
 それが嬉しくて、あれこれと翡翠の官能を引き出そうと動く。
 何度もキスをして、メイド服を皺くちゃにさせて。
 強すぎないように、激しすぎないように。
 そう思いながらも、ともすれば疾走しそうになる心を抑えて。

「んん……、しき、さ…、まぁ……」

 潤んだ目が俺を見ている。
 甘い声。
 今にも泣きそうな、でも快楽の中にあるのがわかる表情。
 小さく開けた口から舌が見える。
 
 あ、こんなの見せられると。
 体が受ける快感は何とか堪えられるけど、これはダイレクトに効く。
 目が合い、翡翠の訴えかける目に縛られる。

「し……、きさ、まぁ」

 何を求められているのか。
 その瞬間、不意打ちのようにきゅっと翡翠が締め付けた。
 
「あああッッッ」

 限界。
 翡翠の奥深くに、どくどくと堪えてきた迸りを注ぎ込む。
 慌てても止まらず、流れに身を任せた。

 翡翠の中にありったけを。
 どくん、どくん、どくん……。
 
 翡翠が見ている。
 ごめんね。
 翡翠ももう少しだったろうに。

 翡翠が見ている。
 陶酔の目。
 そして唇が動く。

「志貴さま、かわ、いい……、んん、ンああッ」
 
 びくんと体を震わせ、ぎゅっぎゅっと膣が収縮する。
 駄目押しの凄まじいまでの快感。
 根こそぎ翡翠に吸われた。

 翡翠?
 ああ、遅れて軽くイッてくれたみたいだな。
 よかった。
 そんな満足感を心に抱いた……。