心地よい朝日がカーテンから漏れて、俺はうっすらと目を覚ました。
 慣れない部屋の天井を見て、一瞬考えるが……すぐに状況を思い出す。
「たいがいだよな……」
 意味もなく一人ごちて、ふっとあきれ気味に笑ってしまった。

 

 あの後、遠坂の言うとおりちゃんと契約できるように――と、それこそ頭を悩ませながら頑張った。
 気持ちよくなるんだけど、遠坂の最後の理性だけは残す――そんな無茶を承知で挑んだある意味戦いだったが――
 結果は、完敗。

 

「もうっ! ちゃんと契約の事考えてよねっ!」
 やっぱり本気で二人とも感じてしまって遠坂に怒られたり。
「ばか、しっかり感じてよね……」
 遠坂ばかり先にイかせてしまったり。
「ええっ? ――士郎……」
 ……こっちだけ先走っちゃったり。

 

 結局、そんな都合のいい結果は生じなかった訳で、
「……」
 ふと、隣を起こさないように気遣いながら見る。そこには……
「……」
 微かな寝息を立てて、とびきりの美少女が眠っていた。
 つまり、精も根も尽き果てた俺達は、こうして部屋に戻ることもしないで同衾してしまった、というわけだ。
 汚れたシーツも変えないで、服も着ないで、とりあえず寒いからと布団だけ羽織って……それだけでも充分お互いの体温で暖かかった為に、疲労からすぐに睡魔は訪れて……気付いたら、本当に朝になっていたと。
「……」
 そんなことを思いながら、もう一度遠坂の寝顔を見つめる。
 ――!
 こんなにも間近で見ると、本当ドキッとする。
 さっきまで……あれこれしてたんだと思うと、朝である事も手伝って、腰が充血していくのが分かった。
「あ……」
 ヤバイヤバイ、もしこんな所遠坂に見られたら『ケダモノ、変態、役立たず!』と罵倒されるに違いない。
 そんな思いで必死で自らを律するが、
「……」
 遠坂はすうすうと気持ちよさそうに、それこそ起きる気配も見せない。
 朝が弱いんだから当たり前と言えば当たり前だ。それに……昨日はあれだけ頑張ったから。
 そんな幸せそうな寝顔を見ていたら、普段思うこともないのに何故か惰眠を貪りたい気分になってきていた。
「そう、だよな……」
 たまにはちょっとだけ寝坊したって、遠坂は人のこと言えないんだから……遠坂の悪いところが移ったか?
 すっかり一人納得し、くっくと笑った俺は、何もかもほっぽり出して今はもう一度眠ることに決めていた。

 

 ……その一瞬の判断ミスが、全ての運の尽きだった。
 どうやら、朝が弱くなる所だけじゃなく、大事なところで大ポカをかますという最大の欠点までも、俺は遠坂に移されてしまったらしい。


 コンコンと、ノックの音。
「凛……あの、シロウを見ませんでしたか?」
 起きたら俺がいなくて、でもお腹がペコペコだからと言わんばかりの顔で、セイバーが部屋に入って来た。
「……!?」
「!?」
 そのセイバーと視線が合ってしまった瞬間――時が、凍り付いていた。
「……」
 お互い突然の状況に、言葉を失って呆然としている。
 特に、立ちつくしたセイバーは、一番いけないものを見てしまったと顔を真っ赤にしながら、無言で俯いていた。
「あ、あ、あ、あ……セ、セセセイバー……!?」
 現場を押さえられてしまった側の俺は、しどろもどろになりながら何かを言おうと必死になっている。が、こんな時になんて言ったらいいか知る訳もなく、布団から上半身を起こすだけだった。
「……ん、なぁに……?」
 と、その衝撃で隣に寝ていた眠り姫が不機嫌そうに目を覚ます。
「ちょっと士郎……もう少し寝かせ……!?」
 そこまで言って、俺の視線の先を見てしまったらしい。

 

 ――ああ、契約も上手くいかなかったし、こんな事になってしまったし――
 一体、どうすればいいのだろう――か。
「あは、はは……」
 心地よい朝を切り裂いた衝撃的な展開は、俺の心をも千々なまでに引き裂いて……おかしいくらいに、乾いた笑いを生み出していた。


 

 








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