「遠坂――」
「あ……」
 照れは隠して真剣な表情で見つめる。
 それに雰囲気を察した遠坂は、俺を見るとこくんと頷いて、
「――いいよ、わたしは準備できてるから……」
 そう言うと、もじもじと体を揺らして俺の方を見た。
「あ、もしかして士郎はまだ出来てない? なら――その、わたしの手とかで……」
 遠坂は俺のそっちの方を見て、何を思ったか妙な提案をしてくる。
「い、いやっ! 俺だってとっくに――」
 不意打ちのようにそんなことを言われ、ちょっと慌てふためきながら俺は何だか情けないことを口走ったような気がする。
「――あ。……そうなんだ、よかった」
 遠坂は俺が興奮してることが分かると、ほっとしたような、ちょっと嬉しそうな笑顔を向けた。


 ――!
 あまりの可愛さに、メチャメチャにしてやりたい衝動に駆られる。
 どうしていつも、遠坂は――!
 下半身に血が信じられないくらい集まってきて、貧血で倒れそうだ。
「じゃあ――来て、士郎」
「ああ……」
 俺は遠坂に導かれて、ぐっと脚の間に体を滑らせた
 その腿を手で抱えて軽く持ち上げ、俺のモノが遠坂の中心を狙うような位置へと合わせる。
 遠坂は今までにないくらい濡れていて、俺もまだ何もしてないのに先端から汁が滲み、早く入れたいと叫んでいる。
「いく――ぞ」
 吸い付くような入り口に亀頭を添えると、ぐっと腰に力を込めた。
「んっ――は、はぁぁぁぁっ……んんんっ……」
 ゆっくりと埋まっていく俺の動きに合わせるように、切ない声が断続的に遠坂の唇から紡がれた。
 すっかり濡れた遠坂の中は潤滑油がたっぷりと含まれていて、きつい中にも滑っていくような感覚があった。
 それが――あまりに気持ちいい。
 まさに媚肉で埋められた洞窟を開いていくような感覚は、遠坂をこうして抱いているという何よりの実感となって俺の全身を痺れさせている。
「と、おさか――っ」
「士郎――んんっ、深い、ょ……」
 ようやく遠坂の一番奥までスムーズに到達すると、俺達は薄目を開けて見つめ合い、お互いの鼓動を、熱を感じる。
 呼吸に合わせて、全体が絡みつくような、今まで他に経験したことがない無い加減で締め付けられると、少しでも油断してしまえば射精してしまいそうになる。
 更に遠坂の中は火傷するくらい熱くて、その熱で俺がドロドロに溶かされているのではないかと錯覚する程に濡れて柔らかい。今までは固さがあった遠坂の中とは違う、いつもよりも何倍もおかしな気持ちよさに頭がどうにかなりそうだ。
 だから俺は下半身に力を込めるべく、体を完全に覆い被さるように動かした瞬間、遠坂の奥を亀頭で付くような格好になってしまっていた。
「んんっ……!」
 その時、遠坂が切なそうな声を上げ、シーツを握りながら瞳をきつく閉じた。
「ん――まだ、痛いか?」
 口を開けばそのまま射精してしまいそうなのを堪えて俺が聞くと、遠坂はいやいやと首を振って、
「違う――気持ちよすぎる、の――」
 そんな自分の反応に戸惑いと恥じらいを感じた様子で答えた。

 ――感じてるんだ。
 俺がいつもより感じてるように、遠坂も今日はいっぱい感じてる。
 今まで、中に出しちゃいけないってストッパーが、俺達に無意識の内に理性のブレーキをかけていたけど、今日それは無くて――
 そう思った瞬間、最初の遠坂の台詞とか姿とか、今の遠坂の様子とか全部重ねたら、我慢できなくなってしまった。

「あっ! い、やっ、し、ろうっ――!!」
 俺はさっきまでの気遣いなんか吹っ飛んで、体重をかけたまま遠坂の中を突いた。
 何度も何度も奥に当たる感覚が亀頭にぶつかり、幹にまとわりつく襞の感覚は愛液にまみれてどうしようもないくらい気持ちいい。
 ぎちぎちと穿つように突きつけるたびに、遠坂の中から溢れてくる愛液が絡みついて溢れてシーツを汚す。
 汗をぽたっと一滴遠坂の顔に垂らしながら、腰の動きだけは一定に続けて止めようなんて思わない。
「あぁっ――! や、めて――! よ……ばか、ばかばかばかばか――ふあっ!!」
 そんな俺の体を押し除けて逃れようとするも、遠坂の手には全然力が入っていない。
 こればかりは男と女の差が出てしまってる気がするが、今はそれを俺は感謝するばかりだ。
「ずるいよ――ああっ! こん、な時、ばっかり……無理矢理なんて――しろぉ――っ!」
 頼りない力は、余計遠坂を女の子と意識してしまうんだ。そのかわいい反応が、俺をダメにしている。
「遠坂、が……悪いんだ、あんな、俺に言うから……っ!」
 責任を押しつけるようにしながら、俺は歯を食いしばって遠坂の中を何度も突いた。
「あっ、んっ、んんっ……! ひどいよ、士郎――はぁっ!」
 泣きながら遠坂は俺を罵倒するが、その体は全然そんな反応をしてない。ぎゅーっと最初から俺のモノを締め付けていて、ざわざわと蠢いている襞がすぐにでも俺に射精を促そうとしてる。
 今まではまだスムーズさに欠けていた動きだというのに、今日は信じられないくらいリズミカルに俺をおかしくさせていて、こっちだって止められないんだ。
 ペニスを引く時にはまるで行かないでと言うばかりに襞が絡みついて俺を引き戻そうとするし、突き進もうとする時にはみっちりと絡みついて迎え入れてくる。
 ぶつかり合ってる腰の部分は粘つく液体でぐちゃぐちゃに濡れていて、打ち付け合うたびに卑猥な音を立てて、亀頭に掻き出された蜜が接合部から溢れてだらだらと幹を伝い落ちていく。
 そんなの、俺だけが悪いんじゃない――遠坂だって、誘って、離さないのが悪いんだから、な――!
 頭の中が無茶苦茶な回路を組み立てて遠坂を責めている。
 その勢いに任せて、俺は完全に遠坂の上に覆い被さると、激しく腰を叩き付けた。

「あっ! あ、あ、あっ!! 士郎! 士郎、っ……!!」
 シーツを掴んでいた手が、そこから俺の背中に回されてギチリ、と爪で引っかかれた。
「くっ――!」
 その痛みは、むしろ快感だ。
 遠坂が感じまくっているんだと俺に教えてるなら、手加減なんかしてやらない――!
「や! いやっ! 士郎のバカ、ばか、ばか……っ!! あ、あ、あっ、ああん!!」
 いやいやと首を振り次々と叩き付けられる快感を制御できないような反応で、遠坂はぎゅうと俺の体を強く抱きしめる。
 上半身はぴったりとくっついたまま、しかし下半身はぐちゅぐちゅと音を立てて何度も欲望をぶつけ合い暴れる。
「だ、め! し、ろう! そ、んなにされたら――!!」
 一度のインターバルも許さず遠坂と繋がって、どこで呼吸をすればいいかも忘れている。
 とにかくガンガンと叩き付け、摩擦で火が出てしまいそうな程に膣を貫いて壊してしまいそうだ。
 ぎり、と食いしばった歯が軋みをあげて、欠けてもいいと思う程また噛みしめて暴れる。
 とにかく、気持ちよくさせる――その建前で自分が気持ちよくなるように何度も何度も襞を擦り上げて、その奥にある入り口までも俺のモノで衝撃を与え続けた。
「やっ! 士郎、後で――あっ! 許さないん、だからあっ!!」
 遠坂の言葉が途切れ途切れになってきているが、悦びに喘いでるのか呼吸が出来なくて苦しんでるのかなんて分からない。
 今まで契約が出来なかったのなら、今まで通りにやってたらダメなんだから、手加減なんて意味無いんだっ!
 意地とかそういうのとか、段々なんだかわけが分からなくなってきているけど、とにかく俺は力の限り快感を遠坂にぶつけていった。

「ふぁ……! あ、あん! あんっ!! あ、あ、あ……!」
 もはや遠坂に言葉がなく、俺の脳髄を揺さぶる喘ぎ声だけが何度も何度もその口から溢れてくる。
 その声をもっと聞きたくて、とにかく腰を暴れさせ責めて責めて責めまくる。
 技術とかなんてある訳がない、とにかく叩き付けていったら――
「もう、っ! いや――!! 士郎、イっちゃ、う――っ!!」
 許しを請うような悲痛な叫びが、遂に遠坂の口から零れた。
 言葉と共により密着した遠坂の胸が、俺の胸板で潰れてひしゃげ、柔らかい感触が俺の快感を高めていく。
 そんなのがなくても、こっちだって何も言ってないけどもうとっくにおかしなことになってる。遠坂がそうだってのと一緒で、俺だっていつも以上に感じまくって、今すぐだって射精したい――!
「士郎! 中に、中に――!!」
 目も開けるのも辛そうなのに遠坂は俺のことを視界に求めると、懇願するような瞳でそう叫んでいた。
 言葉と共に、離さないと膣がきつく俺を締め付ける。
「と、おさか――!」
「ああっ、あっ、あああああ!!」
 その願いに答えるために、俺は後の力を振り絞って、今までより何倍も強く叩き付けていく。
「し、士郎――!! い、いっしょに、き、て――!!」
 その言葉を浴びせられて、俺は全体重を遠坂の体に押しつけながら腰を今までで一番深く沈めた。

「ああっ、あああああーーーーっ!!」
 瞬間、遠坂の切り裂くような叫びと共に、俺を締め付けていた膣が今までで一番収縮した。
「く――あっ!」
 その搾り取るような動きに合わせて、今まで必死に抑えていた腰から溶けていくような感覚が我慢の限界を超えた。
 視界の周りから真っ白になる感覚に、一旦ペニスをぎゅうと収縮させてから――ビクン! と溜まりに貯まっていた精液が爆ぜた。
 先端から吹き出た精液の塊が遠坂の中に溢れると、更にペニスを突きつけて奥まで押し込んでいって、それが引けるとまた次の精液が弾のように打ち出される。
「あああ――っ! ああんっ……!! あっ……」
 それを受け止めるたび、遠坂が声を絞り出されているみたいに意識とは恐らく無関係な微かな喘ぎ声を上げ続け、合わせて膣がより強く収縮していって、その恍惚な夢幻螺旋に取り込まれながら、俺は何度も何度も射精を繰り返していた。
 そして……十回はそうしただろうか――今までで出したこともない量を全部遠坂の中に射精して、体を蹂躙していた快感の波からようやく正気を取り戻した。

「くっ……」
 俺が呼吸を求めて深く息をすると、全身は酸素を得てようやくへろへろと脱力する。
「は――あっ……」
 今までに感じたことのない快感と達成感。
 中に出してしまったという罪悪感は少しあったが、それを補って有り余る程の他の快感に、俺はこれほどまで気持ちよかったと感動したことは無かった。
 これなら、遠坂も――
 と、そこでようやく自分が遠坂の上に乗りかかりっぱなしだった事に気付き、慌てて体を起こす。
「んっ……!」
 刹那、体の下の遠坂から辛そうな声が漏れていた。
「あ――」
 存在が急に自分の中で大きくなると、その繋がった部分に意識が集中していた。
 まだ中にいるモノがどこかに当たって、どうやら責めてしまったらしい。
 俺はそれを理解すると、ゆっくりと体を起こし、遠坂に負担にならないように離れていくと、
「――」
 微かに未練があったが、遠坂の膣内からずずっ、とモノを引き抜く。
 快感の限りの射精を終えたそれは、僅かに大きさを保ったまま遠坂を串刺しにしていた膣から離れていった。
 そして、完全に抜け落ちた瞬間、抜けたばかりで僅かに口を開けたままの膣口が、遠坂の苦しげに呼吸する動きに合わせて、

 コポ……コポッ

 と入り口からドロドロに濁った精液を溢れさせるのを見て――俺は頭が灼き切れそうな程の興奮を覚えた。
 シーツに滴り落ちる白濁がシミを作り、遠坂の股間から広がっている。そんな淫靡な光景を見て、どうしようもなく下半身にもう一度血が集まるのを感じてしまう。
 が、遠坂は目をきつく閉じたまま荒く呼吸を繰り返していて、俺よりもずっと遠くに行ってしまっている様な気がした。
「と、おさか――」
 意識が――飛んでる?
 少しだけ不安になり、頬を叩こうと思い……後の仕返しが怖いからためらって、代わりに撫でるだけにしてやっていると、
「は、ぁぁぁっ……」
 長い呼吸を吐き出して、ようやく遠坂の意識が戻ってきた。
「遠坂……」
「あ、し、ろう――」
 ぼうっと、視点の定まらない瞳で遠坂が俺を見つめてくれている。涙で一杯滲んで、顔中が汗で濡れて髪の毛までくっついて、さっきまでの激しさの跡がはっきりと分かる。
 その乱れた顔までも綺麗だと思いながら、俺はそっと遠坂の顔を綺麗にしてあげる。
 指で涙をぬぐい、髪の毛を手のひらで掻き上げると綺麗な額を露わにさせて、ああ綺麗だな――と素直に思う。
「……」
 自分にされていることを気付いてないのか、まだ遠くにいる遠坂はされるがままにしばらくそうしていたが、やがてはっきりと分かる程に頬を染め、
「や……士郎……」
 恥ずかしがって俺の手をどけようとしたが、その様子がやっぱり可愛くて、俺は意地悪くずっとおでこを撫でてあげた。
「う、うー……」
 観念したらしい遠坂がしばらくそうさせてくれたので、俺は十分に遠坂の額を愛でて、にっこりと微笑んだ。
「……」
 そんなの、士郎には似合わないんだから――そんな瞳を向ける遠坂に、俺はちょっとだけはにかみながら見つめ返す。

 やがて、ゆっくりと瞳にいつもの色が戻ってくる頃、
「……ばか」
 何度目かのいわれのない非難を俺は浴びていた。
「ん?」
 遠坂は顔を真っ赤にして、俺のことを恨めしそうに見つめ返すと、
「……ばかばかばか、ばかっ……」
 そう言って、可愛らしく顔を背けた。
「ばか……士郎」
 消えてしまいそうな小さな声で呟き続ける遠坂が、なんとか意地を張っているように見えたが、
「……わたし、本当にイっちゃったじゃない……」
 その一言は、俺を喜ばせるのに充分だった。
 なのに、遠坂は笑顔の俺をしっかりと睨め付けると
「もうっ! ……士郎とパスを通そうと思ったのに、出来なかったじゃない」
 気丈に振る舞いつつ、そんな恨み言を言った。
「え……?」
 言葉の意味が本当に分からず、俺がきょとんとしていると、
「だから……気持ちよすぎて、考えてる余裕なんかなくて……」
 遠坂がそれを説明するように呟いて、すぐに恥ずかしそうに目をそらした。
「あ……」
 そこでようやく、しまった――と気が付いた。

 ――やりすぎちゃった、のか、俺。
 いくら二人が一緒に気持ちよくなって理性の殻を外せたからと言って、繋げ方を知らない俺が遠坂をそこまでイかせてしまったら、契約なんて結べる訳もない。

「ばか、ばかばか、士郎のばかっ……!」
 遠坂の幾度とない叱責に、大きく反省する。
「――ごめん、遠坂」
 あまりにも気持ちよかった――だけど気持ちよすぎて、目的を達せられなかった。
 この心地よい雰囲気をぶちこわしだったが、それは遠坂に非を向けるものではない。
 俺の体はすごく満足して達成感で一杯だったのに、心だけはすまない気持ちで一杯になっていた。
「あの、とおさ……」
 だから、見苦しいかも知れないけど何とか言い訳を並べようとした俺を、
「士郎……」
「?」
 遠坂の言葉が遮る。
 遠坂は恥ずかしそうに俺と目を合わせないでいたが、やがて意を決したように俺を正面に見る。
「もう一度、して」
「え?」
 それは、俺には予想だにしなかった一言だった。
「……だから、ちゃんと契約出来るように、考えながら――でも、ちゃんと繋がれるように、中に出してくれなきゃ、ダメだからね……」
 そう言って、遠坂は自分のお腹に手を当てて、
「お腹の中、熱い……こんなに、一杯出されてる……」
 少し嬉しそうに、微笑んでいる。
「士郎の魔力……こんなにわたしの中に流れ込んできてるよ……勿体ない、なぁ。これだけあれば、ちゃんと契約出来たと思うのに……」
 独り言のように呟く声は、俺を完璧に打ちのめしていく。
 そんな、男がどうしようもないくらいクラクラする事を、なんでそんなあっさりと――
「士郎?」
 しかも次は上手く調整して気持ちよくさせて、でも中に出して――なんて矛盾孕みまくりのお願いときている。
 そんな、ビルのてっぺんから地上の角砂糖を打ち抜け、みたいな無茶な願い、そうそう出来る分けないだろ――!
 だけど、遠坂の言葉はあまりにも強烈すぎて、一度沸騰した頭がまたおかしくなるのを感じてしまっていた。

「士郎が無理なら、あたしも手伝うから……その、手とか……きゃあっ!?」
 何か遠坂が言った様な気がしたが、俺はそんなのを無視してもう一度遠坂を組み伏せてしまっていた。
 そのギラギラと光っているだろう目を見て、遠坂は一瞬驚いていたが、
「――もうっ……でも、いいよ」
 こっちの気持ちを悟ってくれたらしく、すぐに優しい瞳を向けてくれていた。

 








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