「今日はね……中に出しても、いいよ……」
 殆ど聞き取れないような声で、そう――言った。

 

 音が頭を駆け巡った。
 言葉として理解できないそれを、頭はしかし無理矢理意識を揺り動かすようにして理解させようとする。
 遠坂の言葉。
 順なんか追えずに、ただ意味を並べて――!?


「ちょ、ちょちょっと待ったーーーっ!!」
 頭の悪い俺でも、はっきりと理解してしまった。
「!?」
 あまりの俺の叫び声に遠坂は一瞬ビクリと驚き、
「って士郎、声……」
 それを止めようとするのだが、そんなこと出来る訳がなかった。
「と、遠坂……! それ――」
 ぐわんぐわん頭が回転しているのだが、辛うじて繋いだ理性がそれは間違いなくやばいことだと告げている。しかし、
「――だって、今まであれだけ……してたのに、上手くいかないから……この方が、二人とも理性の殻を上手く外せると思うし、精液って強い魔力を持ってるから、それをわたしの中で受ければ、契約の時に確実な媒体になると思うの」
 遠坂が言い聞かせるように、頬を染めながらも真剣な様子で告げる。
「あ、大丈夫。今日は安全な日だから、士郎が色々心配することはないし、それに早く上手く行った方が、セイバーにも負担にならないでしょ?」
 ぱたぱたと手を振って、遠坂は俺の心配事をうち消そうと明るく努めて振る舞う。
 が、遠坂のひとつひとつの言葉、そして仕草が俺を余計に現実から追いやっていった。
 ――だって今までは全部最後は外だったし、しかもいつも失敗して遠坂に『もう、ちゃんとやってよね!』とか言われていたし――うわああああ。
「だ、だからってそれは!」
 いきなり胸にズドンと弾丸を喰らった俺が、必死になって何かを取り繕おうとする。
 だが、やっぱりこういう時は女の子の方が強いらしい。
「……それじゃ士郎、わたしがこんなこと言っているのに、ダメなの?」
 そう訴えてきた。
「っ……!」
 反則だ。
 あまりに反則だと俺は遠坂を責めたかった。
 ……その、少し不機嫌そうだっていうのに恥ずかしそうに頬を染めて、とんでもない提案を俺に受け入れさせようとしている表情。
 そんな――いくら契約だとは言え、こんな可愛い女の子、しかも自分の好きな女の子に『中に出していい』なんて言われたら、頭がどうにかなってしまいそうだ。
 というか、なっている。
 遠坂の言葉は、契約とかの大義名分を全部抜きにしても、あまりにも蠱惑的すぎだ。
「……ね? だから、今日は……」
 一瞬の躊躇。自分の言ってしまったことを今更後悔するような口振りで、遠坂が我慢する様子。
 そんな風に遠坂が俯いたのを見たら、どうにかしない方がおかしかった。
「わ、かった、よ……」
 俺は、すっかり煮え切った頭で、頷くしかなかった。
「!? よかった……」
 遠坂は、俺の言葉を聞いてほっとしたように手を合わせて、嬉しそうに微笑んだ。ああ、遠坂は多分その仕草までもが全部、俺にとっては反則だって気付いてない。
「じゃあ、しよ?」
 そんな俺の気持ちを思い切り無視して、まるでこれから握手をするみたいにさらりと遠坂は告げて、椅子から立ち上がってベッドに移動した。

 

 正面に立つのはおかしいと思って、俺は遠坂が座る横へ腰を下ろした。
 遠坂はリボンをほどいて、普段は二つにまとめられた髪がすらりと綺麗に流れている。
 そんな横顔をじっと見つめていたら、遠坂が少し不安がって俺を見つめ返してきた。
「士郎……」
 自分からは踏み出せないでいる、そんな色が瞳に見えた気がして、俺は男として勇気を奮い立たせた。
 肩をそっと抱き、自分の方に寄せる。遠坂の体温がぐっと近づいて、改めてこれからすることを強く意識した。その肩でさえ、自分のそれとは比べ物にならないくらい柔らかい。
「あのね、今日は……何でもしていいから」
 確認するように言われて、どこまで……という無粋な疑問を一瞬抱いたが、そんなことは聞けないし聞かない。
 とにかく委ねられているという意識が俺にじわじわ沸いてきて、こうなったらダメと言われるまでやるしかないと、不安を無理矢理抑え込むことにした。
 ごくり、と遠坂には聞こえないようにして唾液を飲み込むと、唇をそっと近づける。
「……」
 それを待っていたように、遠坂はすうっと瞳を閉じた。
 その可憐な顔。
 普段あんなに強気で怒りっぽく、ちっともそんな素振りもないのに、女の子ってどうしてこんな時には信じられないくらいに可愛くなるんだ!?
 女の子は全部が男を困らせるように出来ている、そんな風に思いながらも、俺は遠坂にそんな気持ちを悟られないように、躊躇わずにキスをした。


 自分の唇に触れる、信じられないくらいに柔らかい遠坂の唇。
 何度もこうして触れているのに、この瞬間、この感触、この衝撃だけはいくらも衰えることなく俺を震え上がらせる。
「ん……」
 少しだけ強く押しつけて、その柔らかさを堪能しようとする。実はまだそこまで余裕はないけど、力加減だけはここ数回の経験で掴めているつもりだ。
 強弱を繰り返して、ちゅ、ちゅっと何度も触れ合わせる。
「んっ……、ん、んん……」
 微かに遠坂が何とも言えない声を漏らして、応じてくれている。
 僅かに濡れた唇はとてつもなく甘い感情を引き出して、じわりじわりと遠坂の何かが自分へ伝搬していくよう。


「あ……」
 そこで一旦唇を離すと、遠坂は薄く目を開いて俺を見上げ、それから微笑む。
「えへへ……」
 こういう時に見せる、いつもの仕草がとにかく可愛くて、可愛くてたまらない。
 ぎゅーっとしてやりたい衝動をこらえて、遠坂を両手で出来る限り優しく抱きしめる。
「!?」
 と、一瞬遠坂が驚いたようにしたから、俺はすぐに力を緩めた。
「あ、ごめん……」
 力加減が出来てなかった、そう思ってすぐに謝るが、遠坂は首を振る。
「ううん、ちょっと驚いただけ」
 そうして俺の体に軽くもたれかかると、はぁ、と軽く深呼吸をした。
「いいよ……」
 言われて、俺は今度こそゆっくりと遠坂を抱きしめた。
 柔らかくて暖かい存在が、俺の胸の中に埋まってしまう。遠坂は普段もっとしっかり見えるのに、こうやって包み込めてしまうのだから不思議でしょうがない。
 じーっとその感触を味わってから、改めて遠坂を見る。なんだかこの距離で見つめ合うのはおかしな感じで、お互いににっこりと笑いあってしまい、なんか少し力が抜けた気がした。
「もう一回、いい?」
 俺が確認すると、遠坂はそれが何のことかすぐ理解してくれたみたいで、
「うん」
 頷き、ちょっとだけ上を向いてくれる。
 俺はその唇を塞ぐと、軽く啄むように感触を味わった。
「ん……」
 遠坂の鼻にかかる声が後頭部を痺れさせて、おかしな気分にさせてくれる。
 そんな気持ちに後押しされるように、俺は先程の遠坂の言葉を噛みしめながら、行動に出た。唇を僅かに緩ませ、包み込むようにして遠坂に触れる。
「……」
 唇を震わせて漏れ出る声を塞いで飲み込んでしまいながら、もっと先へ進んでいいんだ、と自分に言い聞かせる。
 だから、俺の口の中で緊張していた舌先を僅かに動かし、出来る限りそっと遠坂の唇へ合図した。
「……ん!?」
 瞬間、遠坂は今度こそ驚いて唇を離すと俺を見つめるが、
「……」
 その口から非難の声が出ることはなかった。

 

 今まで、戻れなくなりそうだと俺達はキスも触れるだけにしていた。
 お互いの柔らかさは感じるけれど、何かを交歓するまではいかない、そんな暗黙の了解。
 ――だけど、心の中で微妙に燻る感じは、きっとお互い感じている筈だ。
 だから、俺はもっと深いキスをしたいと、初めてディープなそれを真似てみようとした。
 もうあんな事言われたなら、戻れなくたって構わない。
 理由は後から付いてくる、そんなつもりで動いた結果だった。

 

「士郎……」
 遠坂は、俺の突然の――覚悟していたかも知れないが――行動にはっきりと俺を困ったように見た。
 しかし、まるで先の言葉を飲み込むように逡巡すると、ふっとしおらしい顔になる。
「やっぱり……ちゃんと、したいよね」
 軽く俯き、何かに納得したような仕草。
 そして、笑顔に戻った遠坂の唇が――不意打ちの如く、そっと俺へと触れていた。
「――」
 こっちが少しだけ驚いても、その反応は唇を塞がれているから声にならない。
 今日初めて、向こうからのキス。そして、今の何かに期待したような言葉。
 それはつまり――いい、って事だよ……な?
 遠坂の行動の意味を自分の中で推測して、そこから考えられるひとつの結果を導き出した。それが間違っているとは思えないけど、何だか妙に不安なのは、緊張してしまったからか。
 しかし、そういうことだとお互い理解したからには――


 俺は改めて舌を唾液で湿らすと、つつっと口の中から伸ばして遠坂の唇に触れた。
 今度も遠坂は一瞬唇をこわばらせて引っ込めようとした。しかし、今度は恐れよりも勝ったものがあってくれたらしく、力はすぐに弱まる。
 舌先に当たる、何より柔らかい感触が熱く脳を刺激する。
 瞳を閉じていても浮かんでくる遠坂の唇の明確なビジョンを捉えながら、なぞっていく舌だけに自らの神経を集中させて味わった。
 甘い。
 舌先はそう感じている筈がないのに、しかし頭ははっきりと遠坂の唇にそれを覚えている。
 もっとそれを味わいたい。
 俺は唇の上で這い回るように、遠坂の唇を舌で濡らしていく。
「ふ、ぁ……」
 くぐもった声。
 曖昧に伝えられる遠坂の反応に、自らの欲望がぐっと持ち上げられる。
「あ……」
 唇を離す。
 二人してまっすぐに見つめ合うと、俺にはもう契約とかそんな言葉が見えなくなっていた。
「遠坂。舌、出して……」
 お願い。それを聞いてくれなきゃイヤだとばかり、ねだるようにして囁き、口を閉ざしてじっと答えを待った。
「……」
 遠坂の瞳が、惑いからやがて光を帯びたものに変わり――俺は遠坂の答えを見たような気がした。それを示すように、遠坂のぷるっとした唇、俺の自らの唾液で濡れた蠱惑的な唇が微かに開き、遠坂の可愛い舌が微かに見える。
 心臓が、飛び出しそうになる。もう一度舌を伸ばそうと口を開けば、そのまま口からどこかへと吸い込まれていきそうだ。
 喉の奥にこみ上げる何か。それを必死で押さえ込みながら、俺は唇を近づける。
 見えなくなって仕舞わぬように、ちゃんと瞳で遠坂の舌先の位置を確認しながら俺はゆっくりと自らの舌を伸ばし――唇が重なるとほぼ同時に、舌を触れ合わせた。
 瞬間――ああ、なんて信じられないんだと思った。
 ぎこちなく触れただけだったのに、あまりに想像の上を行く心の快感。暖かく、そして遠坂の唾液でぬめった舌が俺に触れているなんて。形だけの交わりを続けていた今までだったら、こんな事僅かも考えもしなかったのに。
 どうか、していた。
 ぷっつりと、何かが切れる感じ。興奮なのか分からない――とにかく何かが勝って、俺は遠坂とより深いキスをしようと密着を強めた。
 意志を持つ濡れた舌が触れ合って、そこからとろけそうになっていく。
 ぴちゅ、ちゅ……
 ぬるりと滑ってしまう感触がそのまま信じられない気持ちよさに繋がり、
「ふ、ぁ……」
 さっきも聞こえた微かな声が、今度は繋がった口腔内で大きくこだまして、俺に震えを与えさせる。
 だ、めだ、こんなの、おかしすぎる。
 思うが、本能はそれを素直に悦びとして受け止めている。
 遠坂の唾液が舌先に触れ、膜のように包まれた暖かさを感じる。誰かの唾液を舌に触れさせるなんて考えを持っていなかった俺を、状況は楽しむようにして次々に現実を与えさせる。
 信じられない暖かさ、そして熱い遠坂の舌と唾液と。
 どこまでも想像を凌駕させる体験は目の中にバチバチと火花を散らせた。
 舌先に意志を通し、遠坂の舌をねぶる。もはや少しも躊躇わずに、止めてと言っても止められない腹づもりで触れていた。
 というのに、遠坂は嫌がってない。俺がしてしまうままそれを受け入れてくれて、絡みつく舌から唾液をこそげ取ろうとする俺を、むしろ暖かく迎え入れてくれている。
 ちゅ――ちゅうっ。
 響く淫靡な音を脳に次々と叩き付けながら、いつの間にか舌を絡め合うことだけに熱中していた。
「ふぁ、ぁ……」
 舌を弄ばれて上手く発音の出来ない遠坂さえも愛しく思う。今俺は遠坂の――そこまで考えるだけで焼き切れそうで、どうしようもなくディープなキスを繰り返す。
 そんな俺の口の中には、開いてから行き場を失いっぱなしの唾液が溢れてきていた。
 一旦舌を引く。
 しかし、すぐに絡まった暖かさから自ら遠のける愚かさに気付いている。俺は自分の唾液を舌に乗せると、すぐに元来た道を引き返して遠坂を求めた。
「ふぁ……」
 健気に引いた時と全く同じ場所で、遠坂は健気に俺を迎えてくれていた。その実はどうしたらいいのか分からなかったからかも知れないが、そんなこと考える余裕もなく、もう一度遠坂の舌の感触に酔いしれていく。
 そして舌に乗せた唾液を、遠坂に送るようにして流した。
 とろっと、自らの上を流れてゆく感覚が映っていくところを想像しただけで興奮した。
 遠坂がそれを受け取って……どうしたらいいか分からないと口の中で留まらせているのを感じたら、もうどうしようもない。
「――!」
 きゅっと少しだけ抱きしめた腕の力を強めて体をぐっと傾け、上から流し込むように俺の残りの唾液を遠坂に送り込んだ。
 もちろん、その間も舌を触れさせることはやめない。
「ん――んんっ」
 突然の事に驚きつつも遠坂はそれを受け入れてくれて、しかも絡む舌は優しく俺を愛撫し続けていて……
「ふ――あっ……」
 ある程度を流し込んだ後、俺は舌を引っ込めた。
「ん……」
 離れていく遠坂に、俺はよく分からないままに、
「飲んで……」
 言ってしまった。
 一瞬肩を震わせて、遠坂が俺を見る。弱々しく、怯えた子犬を思わせる小さな瞳。
 しかし、遠坂の唇が少しだけきゅっと力を帯びると……次の瞬間、
「――」
 ――こくん。
 喉が、鳴っていた。
 興奮した。
 飲ませてしまった。
 そのあまりにリアルな響きが言葉じゃ表せない滅茶苦茶な感覚を生み出して、全身を震え上がらせた。
 もっとさせたい――興奮は次なる欲望を生み出す。
 もう一度舌を伸ばす俺に、しかし遠坂は避けるように唇を離すと、瞳を開いてこちらを見つめた。
「……」
 何も言わないけど、潤んだ瞳が恍惚を訴えている。
 なのに、遠坂はその表情に素直な行動を自らに許していない。
「……」
 何故、一瞬の思考は、しかし俺の油断だった。
 ふっと、遠坂が笑う。
 そこにある彼女のかわいらしささだとか、優しさとだとか、恥ずかしさだとか恨み言だとか意地悪さだとか気付く訳もなく――
「――!」
 突然に、遠坂に唇を塞がれた。
 そして――
 とろりと、俺の口腔内へ進入してくる舌に、暖かい唾液の溜まりを乗せられていた。
 それは、遠坂の――
 考えるまでもなく流し込まれる。
 唇を押しつけて、俺をぎゅっと離さないようにしながらさっきやったことをそのまま返されて――
「――」
 最後にちゅうっ――と強く唇を吸われ、遠坂は離れていった。
 こくり、と俺はその衝撃に無意識に唾液を嚥下してしまって――しかし、興奮にうち震えた。
 遠坂の唾液が通った場所から自分が支配されていくみたいに、目の前の女の子の体液を媒体にした魔術をかけられたようだった。
 遠坂を見つめた。
 見つめ返す瞳は、弱々しい物ではなくていつもの気の勝った瞳。
 それを見ると状況は不釣り合いの筈なのに、思考はすこしだけいつもに戻っていく。
 これでおあいこ――ね?
 遠坂の目はそんな風に言っていて、ああ、やっぱり敵わないと俺は観念した。


 そこでふっと正気に戻ると、いつもみたいな軽いキスをしながら、遠坂の柔らかい胸をタッチした。
「服、脱がすよ……」
「うん……」
 着ている服まで柔らかく感じてしまう程に遠坂の胸の感触が心地よい。それを充分に味わってから、そっと服を脱がしてあげる。
 そのままベッドに遠坂を横たわらせると、呼吸により微かに上下するその胸を優しく包んで、すぐに舌を這わせ始めた。
「あっ、ん……」
 ふるふると胸が震えると同時に、遠坂は可愛い声を上げる。舌先に感じるピンク色の先端の感触は程良く、その突起を転がすようにして先で舐め、つつき、舌の真ん中に押しつけるように戯れる。
「気持ちいい?」
「んっ、ばかっ……!」
 尋ねるまでもない事を言って、遠坂の軽い非難を受けることの楽しみ。そんなことを話したら怒られそうだけど、まだ余裕がある時だからそうしたくなる。
 普段言われてばっかで押されてばっかだから、こんな時くらいこっそりお返しさせてくれたっていいだろ?
「ふ、ぁぁん……、し、ろう――士郎……」
 それにそんな反応を返す遠坂がたまらなく可愛くて、今もピクッ、ピクッって震えるその肩が、胸が、おへそが――全身が俺の興奮を高めてくれるのだから。
 胸から肩、そして胸、通り過ぎておへそに。
 舌を悪戯に這わせて、その度に遠坂は震え、
「ふ、あっ……! そっちはダメだって……んんんっ!」
 俺をしかりながらも気持ちよさそうに声をあげている。そのギャップがまた――俺の心に余裕を無くしていくのだけれど。
 やがてつつっと俺の指は、流れるように薄桃色の頂から離れ、丘を降り、なだらかな丘陵とそのくぼみを越え、スカートに到達する。
 脱がすよと尋ねる前に遠坂は俺の方を見つめると、今度はそんな恥ずかしい事を聞かれたくないのか、自ら軽く腰を浮かせてくれた。
 指をかけ、まずスカートを脱がす。
 ちょっとだけ普段より緊張しているのは――さっきの遠坂の反応の方が、男としてはよっぽど遠坂をエッチに感じてしまうからだが。
 抜き取ったスカートをぽいっとベッドの脇に放って、最後に残されたショーツにも手をかける。が、
「――」
 むー、と遠坂が俺をちょっとだけ睨め付けている。
 ……そっか、俺はまだ服着てるし、不公平だよな。
 言いたいことを合点して、俺はシャツとズボンを取り払い、そこで一瞬考える。
 ――ここまで来たら、勢いかな。
 先に遠坂をどうにかしたいという気持ちもあったけど、俺は自分のトランクスに手をかけて、先に全てを取り去った。
 そうして居直ると、遠坂は俺の股間に視線を送り、そこをじっと眺めている。
 これは仕方ないことなんだけど……いつだってじっと大きくなったモノを、しかもそうまじまじと見られるのは恥ずかしい。
 でも目が離せないんだろうな、自分には付いてないし、こんなのが、その……遠坂の中に入っちゃうんだから。
 考えると、見られているにもかかわらずピクッと不意に反応させてしまった。
「あ」
 動いた、とまでは辛うじて口にしなかったが、そう言いたげな遠坂は人のモノを面白そうに相変わらず眺めながら、
「――」
 しかし遂に何も言わないまま、声を押し殺してくすくすと笑い出しやがった。
 なんかそうしていると、余計こっぱずかしくなって、萎縮はしないけど何か仕返ししてやりたくなる。
 俺は遠坂に覆い被さると、腰の辺りに手を伸ばしてそっとショーツを引っかけた。
「――」
 遠坂は一瞬驚いたが、矢張り何も言わずに従ってくれる。
 するり――片膝を立て、腰を浮かせて、ショーツは遠坂の体から離れた。
 改めて生まれたままの姿になったのを実感すると、俺は遠坂の体を見た。
 どこを見ても柔らそうな、そして実際柔らかくきめ細かい肌。
 しかしそんな中、脚をぴったり閉じて自分だけそこを隠そうとしているのが、さっきのこともありちょっとだけ許せない。
 それに、何でもしていいんだから――まだそこにこだわる自分をおかしく思いながら、絶好のチャンスだ。
「遠坂も、見せてよ」
 お臍に舌を這わせながら、脚の間に手を滑り込ませてさする。
「うぁ……イ、ヤ――っ」
 快感に喘ぐイヤなのか、それとも拒否のイヤなのか微妙な声で遠坂が答えるから、
「なんだよ、自分ばっかり俺の見て」
「んっ――」
 俺はちょっとだけ拗ねるように言うと、遠坂の体が一瞬こわばる。
 するすると腿と膝の辺りまで手を往復させて、そうさせてくれとアピールを繰り返す。子供のワガママみたいな行動で、我ながら大人げないと思うけど、
「ずるいぞー、遠坂〜?」
 そんな風におどけて言う。
 今までだって、恥ずかしいから遠坂はしっかりと見せてくれなかった訳で、まあ、ダメならダメで向こうが許してくれるまで――とか思ってる。
 だから俺はまた可愛く反論されるかと思ったのに、次の瞬間、
「……」
 すうっと、遠坂の腿と膝から力が抜けていくのには流石に驚いた。


「遠、坂?」
「――いいよ」
 その言葉は、すとんを腑に落ちなかった。
 意味を熟考して……ようやく、そんなこと考える余裕もない一言だと理解した。
 ごくり、と唾を飲み込んで。
 俺が、今度は緊張していた。
「あ、ああ――じゃあ……」
「う、うん……」
 どうにかしてる。
 遠坂はあまりにもずるい。
 俺は震える手で、ゆっくりと遠坂の脚を割り開いていった。
 ――
 開かれた向こうから、遠坂が不安そうに俺を見つめている。
 しかし、そんなのを気にする余裕もなく、俺は初めてちゃんと見た女性のそこに見とれていた。
 花、とは誰かがよく言うが、その表現じゃ足りないくらいに――言葉にならない。
 微かな繁みとまだ閉じたままの入り口、その自分にはないモノへと、心まで奪われていった。
「――綺麗だよ」
 口に出してあまりにも陳腐すぎる言葉に、何も思いつかない自分が恨めしい。
「ばか、ばかばかっ……恥ずかしい……」
 弱々しい叱責は遠坂の心をあまりによく表現していて、俺はごくりともう一度息をのんでそこを見てしまう。
 ここに――してるんだ。そんな想像はとてつもなく蠱惑的で、一体どうしたらいいのかすっかり分からなくなってしまっている。
 とにかく、なにか――たどたどしく顔を近づけると、まずは頂点へ軽く挨拶をした。
 ちゅっ、と小さく膨らんだつぼみにキスをすると、遠坂が恥ずかしそうに俺の頭を押さえる。
「やっ……だめ、士郎――っ」
 あまりにか弱い声で俺を何とかしようとする遠坂がヤバイくらいに可愛く感じる。
 それに、止められる訳がない。ここまで来てしまったら。
 俺は舌先で軽くつぼみの先端を探り当てると、優しくつついた。
「ふあっ――!」
 遠坂は俺の頭をぎゅっと掴んで快感に震える。続けざまに舌でいじって、包まれたそれを露わにしようと何度も触れていくと、
「いや――っ、そ……こ、感じ過ぎちゃう――っ!」
 手をあてがっていた腿を何度もピクピクとさせ、たまらない反応を次々と返してくれていた。
 感じてくれている、その実感が遠坂の反応から分かってとにかく嬉しくなる。それと共にどんどんとしたいことが増えていって、俺は指を優しくつぼみの下へ這わせると、遠坂の中心を軽くなぞった。
「あっ――!?」
 今までよりも強く、びくっと遠坂は体をこわばらせて俺の指を拒もうとする。
 しかし、それはすぐに収まって、まるで観念したかのように次第に腿から力が抜けていった。
 それを同意の合図と決めた俺は、じっくりと遠坂の形を確かめるように花びらに触れていった。
 微かな凹凸は指の腹に刺激を送り、脳髄にダイレクトな信号を送る。
 滑るようになめらかな遠坂の肌の中で、唯一とも思えるその複雑な形を感じてしまうと、もっとそれを確かめたいと指に入る力も増えた。
「んっ――はあっ、士郎、ダメぇ……」
 二カ所の愛撫に、遠坂の口から小さく漏れ続ける嬌声。
 もう、遠坂の声は拒否なんて含んでいない。俺が舌で、指で触れるままに気持ちよさそうな透き通った声で啼いてくれている。
 たまらなく興奮する。
 それでも遠坂を傷付けないように形を確かめていくと――じわりと、指先に濡れるモノを感じていた。
 中心から花びらにまで広がってきた愛液の湿りが指を濡らしている。
 そのことは、俺のほんの僅かな自信と、大きい喜びになる。
「ふ、ぁっ……」
 しかしそんな俺の反応に気付いていないらしく、遠坂はただ声を震わせているのみ。
 普段より、もっと感じてくれている――?
 その疑問はほぼ確信に近く、自分もいつもより何倍も興奮していることに気付いている。
 あまりの興奮で、こうやって自分がまだ暴れ出さないのが信じられないくらい。
 でも少しずつ、欲望が俺の中で起きあがってきて―― 
 遠坂の中心に指をあてがうと、つぷ、と指し込んでみた。
「ふ、あっ!」
 異物の感覚に、まだ不慣れに違いない遠坂はちょっと緊張した声を上げた。
 第一関節しか入っていないのに、中はしっとりと濡れていて、なのにそれだけで信じられないくらいきついのが分かった。
 少しずつ、無理させないように沈ませていくと、熱い蜜飴に指を入れる時はこうなるのかと思う程の沢山のぬめりと、指に絡む遠坂の中が俺の指を迎え入れてくれた。
「ん、んんっ――士郎、入れてるの……? ばかっ――」
 ようやく分かったのか、遠坂は俺の頭をぽかぽか叩いて俺の行為を変態だと怒る。
 なのにその仕草が逆に可愛すぎて、止めるどころか逆に続けたくなるに決まっている。俺の本能はすっかり昂揚していて、そんなものを受け入れる程甘くはなかった。
 指はまだ奥まで進んでいく。一体どこまで進むのか分からなくて、少しだけ俺は怖くなって指を引く。
「ふぁぁっ…――ん、動かしちゃいや……っ」
 つぼみの頂点への愛撫から離れた顔で、その指の動きをつぶさに眺める。
 遠坂の割れ目から見えてきた指は、とろとろの蜜に濡れて出てきていた。透明なそれがピンク色の遠坂の中心を光らせて綺麗で、俺の指なんかを濡らしているのがあまりに不釣り合いな感じがする。
「んんっ……や、抜けてく……」
 指を締め付ける襞が遠坂にそれを伝えているのか、ゆっくり引き抜いていく動きに呼応するように遠坂が声を上げ、それに呼応して吸い付くように襞が指をより締める。そして無意識なのか遠坂の腰は僅かに持ち上がり、指をまるで引き留めようとするかの様に揺れていた。
「ふぁっ――んんっ……」
 てらてらと光る指を見つめて、そして遠坂の声を聞いて、どうにかしない方がおかしい。
 俺は一度引いていた指をもう一度沈ませると、一番奥までくちゅっと突き刺した。
「ひ、ぁっ!」
 遠坂が背筋を反らせて俺の愛撫に反応した。
 俺はすっかり興奮した頭で、遠坂が悦ぶようにと指を前後させる。
 くちゅくちゅと、湿った泡立つ音を立てて遠坂の中と俺の指が摩擦する。
「ふぁ――あ、ふぁっ! ん、んんんっ……!!」
 まっすぐ入れた指はスムーズに出し入れされて、遠坂の中の感触を伝えてきてくれる。
 しかし、それだけでは足りなくなった。
 俺はほんの少しだけ指の先を曲げると、遠坂の中を擦ってみようと試みた。
「やっ……! し、ろう――だ、めっ! あっ、ああっ――!!」
 くちゅりと、襞の凹凸に逆らうようにして指を触れさせた瞬間、遠坂が今までより違う声で啼いた。
 そして、指が入り口まで戻ってくると、とろり……と、蜜壺の奥で溜まっていた遠坂の雫を、花びらから溢れさせていた。
 指はべっとりと濡れて、手のひらにまで遠坂の蜜が零れてきている。
「ふあっ! いや、いやっ――!!」
「す――」
 すごい、なんて嫌がりそうな言葉が漏れ出そうなのを何とか飲み込んで、その光景に目を奪われる。
 遠坂は感じにくい、なんて思っていた自分をからかうのかと思うくらいに大量の蜜は、俺が掻き出しても掻き出しても尽きることはなく、それどころかどんどん溢れて自然に零れてくる程になる。
「士郎のばかっ、や、めて――!」
 遠坂の切なそうな声。ふるふると首を振って、必死に快感から逃れようとしているように。
「だめ、だめっ……、感じ過ぎちゃう――!!」
 その仕草、あまりに可愛すぎる。
 だから止めることなんてしないで、もっと気持ちよくしてやろうと思う。
 しかし、
「このまま、じゃ――あっ! わ、たし……ひとりで――んっ! イ、っちゃう――!!」
 遠坂がそう言って、俺の手を押さえた瞬間、僅かに冷静になった。


「あ――」
 その一言で、本来の目的を思い出した。
 一緒に気持ちよくならないと、ダメなんだよな。
 あくまでこれは俺と遠坂が繋がるための――と、ちょっとだけ残念なことを思い出すと、俺は指の動きを止めていた。
「はぁ――ぁっ……」
 遠坂はようやく飛びかけた快感から逃れ、荒い息をしている。こんなに濡れているのだからそれは当然なのかも知れないが、俺は初めて見た衝撃と欲望とですっかり気が付かなかった。
「……士郎、ひどいよ――」
 顔を上げ、遠坂は俺をぼんやりした瞳で見つめながら非を浴びせかける。
「ご、めん――ちょっと」
 遠坂がイク姿も見たかった、というのは嘘ではない欲望であって、ちょっと残念だと思うところがあった。
「――でも、そんなに感じちゃうなんて思ってなかったから」
 俺が素直な感想を述べると、遠坂は図星だったのか、
「……! ばかばかばかばかっ!!」
 ただでさえ上気していた顔を首まで真っ赤にさせながら叫んだ。その姿は睨まれているのにどことなく可愛さがあって、なんだか怒られている気がしないで、むしろ男としては嬉しく思う。
「……」
 つんと横を向き、知らないという様にする遠坂に、俺は心を改めて覆い被さった。








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