「ううー……士郎の変態」
 遠坂は相変わらず俺の事を睨め付けながら、何度も痴態をさらけ出してしまったことに怒っていた。
「あんなコトして――こんな事提案するんじゃなかったわ……何だかんだで、契約もすっかり忘れてたし……」
 まるで後悔しているみたいに、はあ……と長い溜息をつく遠坂。
「でも――」
 と、そこでセイバーが言葉を挟む。
「凄く――気持ちよかったですよね?」
 それは自分へ、そして遠坂へ向けられた言葉。
「……うん」
 こくっと顔を真っ赤にしながら遠坂が頷くと、恥ずかしさ隠しとばかりに俺に話を振った。
「士郎も気持ちよかった?」
「――ああ、もちろん」
 これで気持ちよくなかったって言ったら大嘘だ、それこそ地獄に堕ちる。
「だけど――疲れた〜」
 俺は正直な感想を述べると、深く息を吐いてぐったりと弛緩した。
 二人を同時に相手にして、しかも一人一人にする回数よりもかなり頑張った気がするし、体力もそれだけ消耗した。
「ふふふ……でも、わたし達はおかげさまで元気よ、ね?」
「はい。士郎、ありがとうございます。こんなわがままを聞いてくれて」
「いや、まあ……」
 ――思えば聞いたと言うより引き込まれたと言った方が正しいのだが、この際そんなことは気にしていない。最後は俺も状況を利用して楽しんでしまった訳だから。
「あら、衛宮君はイヤなの?」
 と、遠坂はそんな俺をからかうようにきししと笑う。まったく、さっきまでの可憐さはどこへやら――まあそんなところが可愛いのだけれど。
「あ、いや……」
「ふふふ……なら、いいでしょ?」
 俺がそんな仕草に言葉を言い淀んでいる内に、遠坂はバッと俺に抱きついて身体をすり寄せると、
「んー、暖かい〜」
 そう言いながら人の胸の上で頬をスリスリとさせ始めた。丁度髪の毛がこすれてむず痒いそれに、俺はちょっとだけ気持ちよくなっていると、
「あ、凛ずるいです、わたしも……」
 とセイバーまで追随したからたまらない。すっかり俺の胸板は転がるための遊具となってしまった。
「あ……シロウがドキドキしてますよ」
「ふふふ……衛宮君ったら、ウブなんだから」
「……うるせえ」
 二人してからかうから、思わずぶっきらぼうに応えて、
「なあ……」
 とそこで、ようやく俺が大事なことを呟く。
「……お前達、自分の部屋で寝ないのか?」
「えー?」
「?」
 そう、あれからも続いた情事の果て、俺達はひとつの布団の上でこうやって寝っ転がっていたのだ。
 で、一枚の布団では流石に狭い。今だって多分遠坂やセイバーは身体を仰向けにしたら布団からはみ出してしまうだろう。春は近いといえど、流石にかけるものがなきゃ寒いだろう――が、
「いーの、こうしてれば暖かいでしょ?」
「――まあ、そうだな」
 そんな遠坂の言葉に、あっさりと頷いてしまう俺がいた。
 事実三人分の温もりはとても心地よく、疲れからすぐにでも眠れてしまいそうだ。
「し〜ろうっ!」
 思わずうとうとしかけた俺に、突然遠坂が元気よく話しかけてきた。
「な、なんだよ……」
 ちょっとだけ眠りを妨げられて不機嫌な顔をする俺に、しかし遠坂はセイバーと顔を合わせ、それからこの上なくにっこりと笑うと……
「これからも、わたし達をよろしくねっ?」
 ――それは、今までで一番反則だと思った。
 セイバーも満面の笑顔を浮かべて、俺のことを見つめていて――ああ、例え神様が俺達を許さなくても、ねじ曲げてやる――男心にそんなコトを誓いたくなった。
「ふふっ……士郎、大好きっ」
「ああ」
 抱きついてくる遠坂の髪を撫で、
「シロウ、わたしも大好きです」
「もちろん、セイバーだって」
 同じようにセイバーも。
 本当に少し前に感じていた不安は、綺麗さっぱりと消えて無くなっていて。とにかく、幸せだった。
「おやすみ――」
 だから俺はゆっくりと瞳を閉じ、今夜は今までで最高の夢が見られるだろう、そう思った――


〜Web掲載にあたっての後書き〜

同人誌では「fin」と書きました。
書きましたが……後2本分、コレに連なるネタを思いついてしまいました。
どうしよう……
そんな形で、お楽しみ頂けたようでしたら作者冥利です。

それでは、幕間の2作品「絆」「会話」がまだの方は、そちらもお読み下さい。








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