え?と俺が振り返る間もなく、横の襖がするりと開く。そこには秋葉と衣装が同じ琥珀さんが控えていた。
そして俺は何がなんだか分からないまま秋葉に部屋に引きずり込まれる。南面に面した床の間のある六畳間にすでに二組の布団が敷かれていて、その上に――
「わっ、秋葉!これはどういう……」
「はぁ、志貴さん……志貴さんがアルクェイドさんや翡翠ちゃんばっかりお相手するからいけないんですよー」
琥珀さんはそんなことを溜息混じりに呟きながら、手に持った注射器をアンプルに刺している。
その傍らには薬箱が広げられていて、怪しい薬包や瓶、それに注射器やメスや鉗子などが所狭しと……まずい、これはまずい。
もしかして、俺は填められたのか?
風呂場で琥珀さんに行く先を漏らしたので、こんな風に琥珀さんと秋葉が俺を待ちかまえて罠を張っていたと……それにしては秋葉がなんであんな恰好をしていたのかさっぱりだけど。
とにかく、逃げださないとこのまま俺は薬漬けにされて――
「まっ、待ってくれ、一体何が――」
布団の上で立ち上がろうとした俺の前に、立ちふさがる紅い影。
俺は布団の上に手を突いて見上げると、それは――鬼神のようなオーラを放つ秋葉が俺の前を塞いでいた。後ろは雨戸が下ろされていて逃げ場はない。
秋葉はふわり、と風もないのに髪の裾を舞わせる秋葉を前に、俺は唾を飲み込んだ。
――もしかして秋葉はもう、俺の部屋のことを知ってるんじゃ……
俺がちらりと片目をそらすと、琥珀さんはうっすらと笑っている。
だが俺は秋葉からもどうしても目がそらせない今のこの状況で……
「に、い、さ、ん?」
秋葉は笑った――だが、笑っていない。秋葉の纏う深紅の覇気が笑いなどという生やさしい感情を否定している。
その後ろの琥珀さんも袖元で口を覆って微笑んでいるが、目が笑っていなかった。
何しろこの二人はその、俺が屋敷に於いてお預けを結果として食わせてしまった事になるわけで……
って、もしかしてこれは絶体絶命というやつなのか?
なにか、ネロ・カオスやロアよりも質が悪そうな脅威を憶えるんだけど、この二人には。
技の一号と力の二号というか。
「は、はいなんでしょぉ!」
「兄さんが使用人の制服フェチだということはもう分かっています!」
……きゅう、と俺はうめき声を漏らした。こう、無自覚的に
そ、それは確かに俺は翡翠のメイド服とか好きだけど……秋葉にそれを大上段から振りかぶって言われるのはなんというのか、茫然自失の事態でしかない。
秋葉はふん、と鼻で嘲笑いながら仁王立ちになって俺を見下ろしている。
俺は立ち上がってそんな秋葉の心ない宣言を否定しようかとしたが――
「あれ、あ?」
力が脚に入らず、ころんと布団の上に腰を落としてしまった。おかしい、秋葉に睨まれているだけで身体の自由が利かなくなっている。まるでヘビに睨まれたカエルのように。
トクトクと脈拍が速くなる。まるで、目の前の秋葉の指先に俺の身体の全ての支配権を握られているように。秋葉の指がぴくっと動くと、俺の中の血液の流れが止まりそうな。
秋葉はまんじりともせずに俺を見下ろしていた。その唇が言葉を……
「兄さんが私の恰好を見て、アルクェイドさんにされたように私を押し倒されたら兄さんの日頃の所行を大目に見て上げてもよろしかったのですが」
「……な、な、なにが……」
「兄さんは自らその選択肢を綴じてしまいになられて……それでは仕方ありません」
溜息混じりに言う秋葉。
……そんなこと何も聞いてないぞ、俺は。
動転する俺の前で、秋葉はぱちんと指を鳴らす。
そして進み出てきたのは琥珀さんだった。手に注射器を持って……
ピンチ!絶体絶命!
「琥珀さんっ、その、その注射器はなに!」
「あ、ちょっとちくっとしますけど我慢して下さいね、志貴さん……」
「いや、だから注射器じゃなくって、その中身!」
「往生際が悪いですわ、兄さん」
往生際って、殺されるのか俺は!
ガタガタブルブル震えて動けない俺の腕を琥珀さんは取ると、しゃがみ込んで俺の静脈に注射針を当てる。
秋葉が冷酷な笑みを浮かべて頷くと、琥珀さんはその注射の針を――
針が細かったのかそんなに痛くはなかった。
だが、プランジャーが押されて俺の体内に琥珀さんのお薬がどんどん流れ込んで……
「お、お、おぁぁぁ!」
「志貴さんはお疲れのようですから、その、元気が出るお薬を差し上げましたので」
そう言って琥珀さんは俺の腕から注射針を抜く。抜かれる方が痛く血が出てきたが、俺は我慢して悲鳴を押し殺していた。いや、恐怖のあまり声が出なかった方が正しい。
琥珀さんの元気が出るお薬……昔内服薬で盛られたときでも凄かったのに、それを注射されたら俺は一体どうなって仕舞うのか――
「あら、兄さん。痛いですか?」
秋葉は俺の内腕に、ぷっくりと膨れ上がった血の雫を見つめていたようだった。
そして秋葉は俺の脇に正座すると、俺の腕を取る。
秋葉は唇と俺の腕に寄せて……
「あ……」
秋葉は俺の注射の跡と、浮き出た血を舐める。
注射の跡の血を押さえる為に秋葉自ら舐めてくれているのか……と思ったが。
どうも様子が違う。消毒したり止血する為に吸うのではなく、秋葉は俺の浮き出る血をその舌で拭うように舐めていた。俺の腕を取り、ぴちゃぴちゃと音を立てて……俺の血を舐める。
まるで俺の血を吸いたがるような。そう言えば秋葉は琥珀さんの血を……
そうだった。俺は秋葉に血を飲まれていた。
舐めるだけではなく、プツリ、という痛みと共に秋葉の歯は俺の皮膚を破っていた。
「兄さん……兄さんの血……はぁ」
秋葉はうっとりとしたような眼をして、陶然と呟く。
何か秋葉の様子がおかしい。まるで俺の血を吸って興奮しているように。
秋葉が俺に触れる舌と歯が敏感に感じる。唾液に濡れた皮膚の感覚が鋭敏になって、そこから染み渡るような興奮が俺の中に広がる。
琥珀さんはそんな俺達を眺めて笑っていたが、すっと俺の足元に寄る。
「秋葉さまも始められましたので、私も志貴さまに……」
「始めるって、その、あうー」
琥珀さんは靴下もはいていない、裸足の俺の足に触る。
琥珀さんはかがみ込んで俺の足を手に取ると、そのまま唇を俺の足に接吻するみたいに――
「うぁ!」
俺の足の裏を琥珀さんは、舐めた。
足の裏の皮膚は体重を支えて居るけども、触られることがないのでびっくりするほど敏感だ。くすぐられると悶絶してしまうほど敏感なその皮膚に、琥珀さんの柔らかな舌が……
「ふふふ……こういうのは翡翠ちゃんやアルクェイドさんにされたことはありますか?」
「うっ、そんな、琥珀さん……」
琥珀さんが俺の足を持ち上げて、俺に見せつけるように――その足の指に舌を這わせた。俺の指の股を琥珀さんの柔らかい舌が這うと、それだけでそそけ立つような快感が下半身を襲う。俺の足は綺麗じゃないのに琥珀さんが舐めてくれる……そう思うと、俺は目眩がするような。
足の指を舐められる快感。初めての倒錯した歓び
そうだ、目眩がする。俺の中で何かがおかしくなってきている。布団に腰を掛けている筈なのに寝転がっている様な気がする。秋葉は俺の腕を掴んでいるが、やがて秋葉の舌も俺の下碗に下がっていって、俺の指を……
「あ……秋葉……」
「んっ、んぷっ、ちゅぷり……」
秋葉は俺の指を、琥珀さんに負けずと舐め始める。
使用人の恰好をした秋葉は、目を閉じて俺の指を夢中で舐めている。足を、指を、一緒に舌で愛撫される……未知の体験だった。舌が這い回るたびに、キーンと耳が遠くなって、俺の体の中に何かが流れ出すような感じがする。
まずい、琥珀さんの薬がもう効き出してきているのか。
息が短くはぁはぁと上がってきて、あれほど働いてしんなりしていた俺の股間も熱と血を帯びだしてきて……
秋葉がちゅぷり、と俺の指を口から抜いた。
唾液でべたべたの指をうっとりと眺めると、悪戯そうに俺に笑いを投げかける。
「あら……兄さんの指を汚してしまいましたね」
「う……あは……」
「兄さんも、私の指を――汚していただけません?」
そう言って秋葉は俺の唇に、その指を近づけて……
秋葉は妖しく笑いながら、俺の唇に指を差し込んだ。秋葉のしなやかな指が俺の舌に触れると、おれはその白魚のような指を夢中で……
「ちゅぷり……むちゅ……」
「そう、兄さん……私の指を兄さんの舌で汚して……」
秋葉は着物の袖を押さえながら、俺の顔を見つめている。
そう、俺が秋葉の指を舐めるこの顔の表情を見逃すまいと興奮を覚えているように。
そして、秋葉の指を舐めることに夢中になっていた。
秋葉の奔放に動く指に、俺は丹念に舌を這わせる。
そうだ、俺のペニスに琥珀やアルクェイドが舐める様に丹念に。まるで俺は秋葉の架空の男根を口の中に差し込まれ、娼婦のようにそれをしゃぶっている……
それだけで、世界が歪んで回りだしそうなほどの快感がある。
秋葉が指を引き抜くと、俺は……名残惜しそうに舌で追うことすらした。
淫らがましい。でもそうせずに入られない……
秋葉は俺の唾液でべっとりと濡れた指を、美味しそうに口元に含んで――
そんな光景を見せつけられると、視神経が焼き付いてしまいそうな。
「志貴さま、ご用意はよろしいですか?」
「琥珀さん?その……あ……」
琥珀さんは俺の腰元に上がっていて、寝間着のズボンを掴んでいた。
俺が堪えるまでもなく、琥珀さんはパンツごと俺のズボンを下ろして……
俺の固くなった股間が空気に触れるのが分かる。ガチガチに固くなった肉棒を琥珀さんはその指で押さえると……
「うぁ!」
琥珀さんがぺろり、と俺の亀頭を舐めた。
俺がその鮮烈な感触に思わず仰け反ると、背中が布団に当たる。
俺は布団の上に仰向けに転がっていて、股間には琥珀さんが被さってフェラチオを始めている。そして秋葉がそんな俺の身体の上に、立ち上がって……
「兄さん。気持ちよさそうな顔をしていますわ……」
「あきは、んぁ……おおお!」
じゅぷりと琥珀さんの唾液をたっぷり含んだ口腔に飲み込まれる感触。俺の睾丸も琥珀さんの手に握られていて、ころころと転がされながらその巧みすぎる絶技と共に俺を責め上げる。
琥珀さんの舌の動きはすごくて、まるで未知の生物のぬるぬるとした穴に飲み込まれて責め上げられてるような、それだけで吹き出して仕舞いそうなほどの。
秋葉は着物の裾を割り、俺の上に跨る。
俺は呻きながら秋葉の着物を見上げる。エプロンは外されていて、顔の横にある足袋、そして白い脛がむき出しになっていて、秋葉がその裾を上げていくと、太股から上も……
「あ……」
「ふふふ、和服の着物って良い物ですね、兄さん。こう言うときには便利で」
秋葉は、着物の下に下着を着けていなかった。
俺の上方には、秋葉のむき出しの足の付け根が見えていた。それは柔らかい恥毛に覆われていて、下から見ると秋葉のタテスジの中身が顔を見せていて。
俺の前に秘裂を露わにしても、秋葉はうっすらと冷たく笑う。
「これは、不甲斐ない兄さんへのお仕置きです」
「ん、んん!」
そう言いながら秋葉は、その秘裂を俺の口の方に向かって下ろしてきて……秋葉は俺の顔の上に、しゃがみ込んできた。
俺の口の上を塞ぐように秋葉の秘裂が当たる。それはむわっとした雌の匂いを漂わせて、微かに濡れていて……唇に当たった秋葉の秘密の唇に、俺は接吻した。
そして、俺は秋葉の秘所を舐めた。さっきの指に劣らず情熱的に。
股間を責め上げる琥珀さんの手も容赦がない。がっちんがっちんに薬と興奮で固くなった俺自身は今にも射精して果ててしまいそうだったけども、琥珀さんはその辺を心得ていて暴発させてくれない。
俺はまるでブレーキの壊れたクルマのように、無闇に加速していく。
熱い。体の中になにか別の機械を埋め込まれたみたいに。
暑さは俺の身体にイヤしがたい乾きの傷跡を印す。
俺はその乾きを癒すために、腰を両手で押さえ込んで、秋葉の淫汁をすすった。
「兄さんっ、はぁっ、すごい……ふぅ、はぁぁぁん!」
秋葉はそんな悦楽の悲鳴を上げる。そしてそのままぐりぐりとより強く俺の顔に股間を押しつけてくる。俺は舐め、しゃぶり、差し込み、噛み、そして食らうように秋葉の粘膜を貪った。
琥珀さんは俺を、俺は秋葉を奉仕する。注ぎ込まれた興奮の燃料がギアを繰り上がって快感の回転数を上げていく。
「ちゅぷん……あは、志貴さんのもう、出ちゃいそうでビクビクしてますね」
「ああっ、兄さん……いいの、いいのぉ!」
ダメだ、このままだと狂ってしまいそうだ。
狂う?それが何か悪いのだろうか?こんな快感の中で我を見失うことが悪いというのか?
わからない、わからないわからない。
ただ、俺はさらに快感を得たかった。
その為に、俺は俺の身体の限界を押し越えて……
俺も、秋葉も上り詰めようとしていた。
「出る!出るよ!琥珀さん!」
「兄さんっ、私も……はぁぁぁ!」
秋葉が、俺が腰を震わせた。
俺が股間を爆発させるように、とうとう堪りに堪った精を放出した。琥珀さんの口に、顔に、まだこんな精が俺の中にあったのか、と思うほど沢山ドクドクと……
俺の顔の上で、秋葉は腰を震わせた。
秋葉もオルガイズムに達したのか、と陰核を甘噛みする俺に――
秋葉の尿道口が俺の舌の上で弾けた。
秋葉の足に挟み込まれ、逃げ場のない俺の顔に、俺の口に秋葉は――放尿した。
|