「あはっ、きっと、アキラちゃんの姿に自分を重ねて、また志貴君に抱かれようとしてるのかもね……」

 一瞬のその声に、私が引き戻される。

 

 朱鷺恵さんは、物凄く寂しそう。
 きっと、志貴さんのことをずっと愛していて。
 あれから他の人は愛せないの?
 そんな、ひどい。
 それは、朱鷺恵さんが、志貴さんが、そして……私が。

 

「ふふっ、だからアキラちゃんをいじめちゃうの」
 また、いつもみたいな穏やかな声。

 

 嘘。
 そんなの、嘘です。
 朱鷺恵さんは、本当の心を隠し続けてる。
 絶対、私以上に……
 愛している。
 あの人を。

 

「ほら……何も考えなくさせてあげる」
 一瞬反応の鈍った私に気付いたか、朱鷺恵さんがもう一本指を加えて激しく私を貫いた。

「あはぁん!!」
 私は、あまりに強烈なそれに思考を捨ててしまう。
「イヤ……イヤ……」
 私は声が出ない程強い刺激に、意識が白み始めた。
「んっ、もう、いっちゃう?」
 朱鷺恵さんが聞いてくるのにも応える余裕もなく、私は突き抜くような快感に膣を収縮させようとしていた。

「あっ……くる……!」
 私はせっぱ詰まった声で、ぎゅうと右手でシーツを握りしめる。力を戻したその腕は私に拠り所を与えてくれて、大きな波に抗う繋ぎ紐の役割を与えた。
 波がもっと広範に広がってくようで、ふうと一瞬安堵する心が私を油断させていた。

「ふふっ……我慢しちゃだーめ」
 その波が収まるタイミングより早く、油断を見据えたように朱鷺恵さんが私の最も敏感なそれを少し強めに噛んだ。

「う……ああああああ!!」

 今度の波は、もう私の限界を余裕で超えていた。

「ああん……ああっ!」

 ぷしゃぁっと愛液の飛沫を飛ばしながら、頭が真っ白になっていった……

 

 

「……アキラちゃん」
 私はその呼びかけにようやく気付くと、目を覚ました。
 こんな時瞳に写るのは、いつも志貴さんの嬉しそうな顔だけど、今日は違った。

「あ……朱鷺恵さん……」
 私は目の前で微笑む女性を見て、顔が真っ赤になっていた。

「ふふっ、気持ちよかった?」
 朱鷺恵さんが嬉しそうに言う。
「……」
 ぼっ、と顔が赤くなってしまった。
「……はい」
 が、朱鷺恵さんだからか、俯いて正直に応えてしまう。

「よかった……私だってあんな事したこと無いからどうかなって思ったけど、志貴君にされたこと思い出してみたの」
 服を着る私のそばにいながら、いたずらっぽ朱鷺恵さんが笑ってみせる。

 

 その笑顔が、私には悲しかった。

 この人には、もっと幸せな笑顔があるんじゃないか、って。

 

「朱鷺恵さんっ……!」
 私は、意を決するように言葉を発するが

「だーめ」
 それを制するが如く、朱鷺恵さんの指が私の唇に触れた。
「あっ……」
 私の動きが止まる。
 そのまま、目の前の朱鷺恵さんの瞳に吸い込まれてしまった。

 


「志貴君は、あなただけの志貴君よ」

 


 誠実な、そして真剣な目でそう言われてしまい
 涙が、溢れていた。

「……ほおら、女の子は好きな人の前以外じゃ泣いちゃダメ」
 朱鷺恵さんが優しく、その涙をぬぐってくれた。
「私はいいのよ。この心の中に志貴君の温もりがずっと生き続けてるもの……」
 そう言って、凄く幸せそうに目をつぶって胸に手を合わせる朱鷺恵さん。
 凄く美しい光景であると同時に、ひどく悲しい光景でもあった。

「朱鷺恵さん……」
 言葉が出ない。

 

 そんな思い出だけで、いいんですか?
 私を突き放して、出し抜いて、志貴さんを奪ってしまおうとか、思ってくれないんですか?

 

 私は、志貴さんを愛する人は誰でも幸せになって貰いたい。
 なのに、私のせいでこの人は幸せになれないのか。
 そう思うと、自分の存在がひどく恨めしく思えていた。

 

 しかし、そんな私に苦笑すると
「う〜ん、困ったわね〜」
 朱鷺恵さんは、笑いながら首を傾げた。

「うん、じゃぁこうするね。アキラちゃんに隙があったら、私も志貴君のこと「また」狙っちゃう、どう?」

 朱鷺恵さんが、私に指を向け、ふふっと微笑みながら宣戦布告してきた。

 その笑顔が、本当に嬉しそうで。

「はいっ!!」
 私も心からの笑顔で、大きな声で返事をしていた。

 

 

「いてててて……」
 志貴さんは、体中が固くなってしまったようにぎくしゃくとした動きで朱鷺恵さんの部屋に入ってきた。
「あら、どうしたの?」
 朱鷺恵さんはころころと笑いながら、志貴さんに尋ねる。
「どうしたもこうしたも……ありゃ、整体と言わず拷問だったよ……いてててて!」
 首をこきっと鳴らした瞬間、志貴さんが跳ねるようにして痛がった。

「ふふっ、父さんもかなりやったみたいね〜」
「そうですね。志貴さん、通院怠けてるからですよ〜」

 私と朱鷺恵さんは、そう言ってお互いを見て笑う。

「あれ……すっごく仲良いんだね」
 志貴さんは、人見知りの自分の基準では意外な程意気投合している私達に、ちょっと驚いているようだった。

「そうよ、同じ人を愛する者同士、心が通じ合ったのよ」

 そうからかって、朱鷺恵さんが私と志貴さんを交互に見た。

「えっ……」
「あっ……」
 私達は、揃って赤面して俯いてしまった。
 どうしてこうあっさりと、この人は凄いことを言ってくれちゃうのだろうか。ちょっと敵わない。

「ふふっ、本当お似合いのカップルね」
 朱鷺恵さんが嬉しそうに言って
「でもね志貴君……私達、ライバルなんだよ。ね?」
 同意を求めるように、私を見つめてきた。

 

 その瞳は、いつもの優しい瞳。
 だけどこの人の心を知っている私には、それがからかっているだけには見えない。
 けど、私だって負けない。
 志貴さんを想う気持ちは今は負けてるかも知れないけど、いつか必ず……

 

「そうですよね、朱鷺恵さん」
「ふふっ……」
「えへへ……」

 二人だけの秘密を思い、私達は笑った。
 こんなお姉さんが、いてくれたらいいなぁ。
 そんなふわりとやさしい純粋な、綿花のようなこの人を思った。

「……?」
 一人蚊帳の外の志貴さんは、何だか気まずそうにしていてそれがおかしかった。

「そうだ、ふたりとも」
 朱鷺恵さんがポンと手を合わせると、私達を見た。
「……?」
 私達はその仕草に注目し、朱鷺恵さんを見る。

 

「今度……3人でしてみちゃうってのも、いいんじゃないかな?」

 

 その言葉は、あまりに強烈だった。

「ええええっ!?」
 私はその瞬間、顔だけでなく全身が熱くなるのを感じてしまっていた。

 

 そんな、3人でって……私と志貴さんと朱鷺恵さんが……?
 それって、それって……きゃぁ!

 

 私はそんな朱鷺恵さんの顔が見れずに、下を向いてしまった。

 ……でも、朱鷺恵さんの綺麗な体も見てみたいなぁとか、この人が志貴さんの前でどんなになってしまうのか見てみたい、とかも思わずにはいられなかった。

「……ととととととと、朱鷺恵さん!?」
 遅れてようやく志貴さんもその言葉の意味を理解してしまったのだろう、思い切り後ずさると、おろおろと物凄い表情で狼狽する志貴さんがおかしかった。

「ふふっ、冗談よ〜」
 朱鷺恵さんは志貴さんに向かって笑う。

「もう……悪い冗談はやめてくださいよ……」
 安堵する志貴さんをよそに、朱鷺恵さんが私を見ていた。

「あっ……」

 

 早くも、一歩リードされちゃったかも知れない。
 朱鷺恵さんの表情に、大人の、更に追う者の余裕を感じそうになってしまい、一瞬焦った。

 けど、私だって負けないんですから。

 

「じゃ、じゃあ朱鷺恵さん。俺達はこれで」
 志貴さんはそこから早く逃げたいとばかりに、私の肩を抱く。
 その確かな感触に、私は少しだけ勇気づけられた。

「あら、お茶でも入れるわ。折角なんだからもう少しゆっくりしていったら?」
 朱鷺恵さんが残念そうに言う。
「いやその……俺達勉強があるから」
 志貴さんは、言い訳になってない言い訳で口実を作ろうとするが
「ふ〜ん、二人っきりで、何の「お勉強」かしらね?」
 そうからかわれて、志貴さんは完全に黙り込んでしまった。

「ふふっ、アキラちゃんも大変ね、こんな人が恋人で」
 朱鷺恵さんの笑顔に
「そうですね。でも、だから楽しいんですよね?」
 私も笑顔で応える。
「そ、がんばってね」

 朱鷺恵さんは私達を玄関まで案内してくれた。

 

「また何かあったら、いつでもいらっしゃい……と、今は志貴君の所に居るんだよね?なら私が行く方が先かしら?」
 朱鷺恵さんが少し考えるようにしてから、いつもの笑顔に戻った。

「それじゃぁ、またね。アキラちゃん」

 最後に見せたその笑顔は、やっぱり朱鷺恵さんらしくて。
 すっごく綺麗で、あこがれた。

「はい」

 私は志貴さんの手を取り、屋敷への道を帰っていった。

 

 

「志貴さん……」

 帰る道すがら、私は手を握ってくれているその人に話しかける。
「ん?」
 志貴さんは、嬉しそうに私を見つめる。
 ニコニコとしたその笑顔に、一瞬朱鷺恵さんのそれが重ねられた。

 

 ああ、朱鷺恵さんの笑顔って、志貴さんの笑顔なんだ
 じゃぁ、志貴さんともっと、もっと一緒にいれば、私もあんな笑顔が出来るのかな

 

 そんな風に気付いた私は、嬉しくなって

「ふふっ……」

 朱鷺恵さんみたいに、笑っていた。

「?」
 志貴さんはちょっと不思議そうだった。私はそんな志貴さんの腕に手を絡ませると

「さっきのことなんですけど……」
 と、一瞬自分でも恥ずかしかったが、思いを決めてみた。

「私も……志貴さんがもしよかったら、3人でしてみたいなぁ……とか思います」

 そう言って私が志貴さんを見ると、志貴さんは真っ赤になっていた。流石に私の手をふりほどいて暴れるまではいかなかったが

「あああああああ、アキラちゃん!?」
 あたふたと、頭から湯気を立ち上らせながら志貴さんはぐるぐると目を回していた。

「ふふふっ……」
 そんな志貴さんが凄く可愛くて。絡めた腕にぎゅっと抱きついていた。

 

 あ、朱鷺恵さんってこうしていつも志貴さんをからかってたのかな
 そう思うと、新たな一面を教えてくれた朱鷺恵さんに、感謝しなくてはいけなかった。

 

「アキラちゃん……朱鷺恵さんに何か吹き込まれたでしょ?」

 頭を押さえながら、志貴さんは失敗したなーと言う表情で私に聞いてくる。
 私はそんな志貴さんに、ふふっと笑いかけると、ゆっくりと口を開いた。

「そうですね。右手の痛みの代わりに」


 

 

〜後書き〜

 どうも、毎度毎度古守でございます。
 本人も想像だにしなかった、月姫世界で志貴に関係した女性で、倫理的に許せる範囲の最年少と最年長?の組み合わせです。
 ……ほら、都古ちゃんは、一子さんは、あのーそのー(笑
(ちなみに一子さんは、しにをさん作「ともだちのおねーさん」で完全にやられましたので、そちらを僕はリスペクトします)

 始めは僕がキーボードの打ちすぎで手が痛くなって、これはアキラちゃんもペンなり裁縫用の針なり握り続けるとこうなっちゃうだろうと思ったので、そこに丁度鍼の知識のある朱鷺恵さんを絡めてレズ書いてみようかな〜とか考えて書き始めたのですが……何やら最初の志貴とアキラちゃんのエッチシーンだけで十分になってしまいそうになりまして(ぉ
 何とか初志貫徹、最後まで書いてみた訳なんですが……肝心のレズっちは上手く書けてないじゃん(汗笑

 でも書いていて思ったのは、アキラちゃんのお姉さん的役割としては、秋葉より朱鷺恵さんの方が断然似合う、と言うこと。別に秋葉が合わないって訳でなく、朱鷺恵さんとアキラちゃんのいろんな所に共通点を見いだしている自分が居ました。

 ふたりとも、志貴を誰よりも愛してること。
 ふたりとも、自分より他人の幸せが大事なこと。
 ふたりとも、志貴という人間に変えられたこと。

 もちろん、僕の中での脳内設定でもあるので、そんなこたぁーねーと思い方もいらっしゃると思いますが、僕はそうなんで(コラ

 更に、書いていて、朱鷺恵さん、切なすぎます。
 ちなみにこの朱鷺恵さんは、手前味噌ですが「あの夏、一番静かな夜。」の朱鷺恵さんに準拠します。話としてもその後のお話のつもりで僕は書いてます。
 
 どうしてこの人はこうも自己犠牲を支払ってしまうのでしょうか。恋愛下手な女性像そのままです。可哀想すぎ。もっと力強く「志貴が好き!」と言える勇気があれば、この人はもっともっと幸せになれたに違いありません。
 
 こちらも始めはそんなつもりじゃなかったのですが、志貴を愛した女性としての想い、みたいなのを考えているウチにこんな切ない話になってまして。

 しかしこれに前後して阿羅本さんが「ずっと笑って」を公開されて……あああああ、同じだ同じだと震えてしまいました。その夜盗んだバイクで走り出し、校舎の窓を割った15の夜は、カラオケで友人が熱唱してました(笑

 この後は……もしかしたら3P書くかも知れません。新鮮な組み合わせだし面白そうだしいろんな組み合わせ?も出来そうですし。
 うはぁ、また自分でストック溜めちゃいました(爆

 それでは!!

(6/3:この間に真・三国無双2は5人をクリアしました(爆)