「私、志貴君と寝たわ」

 


 それが、本当に当たり前のように。
 朱鷺恵さんは、一番の核心に触れる話を切りだしていた。

「……」

 やっぱり……と思うより、今は目の前のこの女性の話を全て聞きたい、その思いが強かった。
 私は何も言わず、朱鷺恵さんの次の言葉を待ち続けた。

 

「私……志貴君を愛していたわ。誰よりも、誰よりも」

 窓の外を眺めながら、少しだけ寂しそうに、本当に寂しそうに朱鷺恵さんは告白してくれた。

 

「きっと、今のアキラちゃんより、志貴君のことを愛していたわ」

 そう言って私を見つめる瞳は、さっきまでの優しいそれとは明らかに違って、凛とした大人の、しかも女性のそれ。
 それは、朱鷺恵さんの気持ちを痛い程私に分からせていた。

 

「ウチに来て、お話をして、食事なんかもして。何気ない日常に志貴君が居ただけで、嬉しかった」

 指を組み、微笑んでる姿はとても美しく、でも同時に儚さも感じさせていた。

 

「確かに、始めは弟みたいだって思ったの。……ううん、今思うとそれも間違ってるのかもね」

 首を振って、苦笑する朱鷺恵さん。

 

「きっと私、始めから志貴君が好きだったんだね。やっとそう気付いた時、私の胸はドキドキが止まらなくなっていたの」

 胸を押さえ、目をつぶってその時の感覚を思い出すような仕草。

 

「いつでも、どんな時でも。志貴君のことを考えていると幸せで。ああわたし、志貴君のことが好きなんだなって、大きな声で叫びたいくらいだったわ」

 可憐な少女に思えるその気持ち。私以上に強い志貴さんへの愛がそこには。

 

「だから……志貴君が私を初めて抱き締めてくれた時、涙が止まらなかった……」

 その瞬間、朱鷺恵さんの表情が僅かに歪んでいた。

 

「それはほんの数日だったけど……愛し合えた日々が物凄く嬉しくて、私の中では一生忘れられないの……」

 そこで、言葉が止まった。言葉は続かないのかと思われる程の沈黙。

 が、

「そう、今も……」

 自分の想いに嘘は付けない、とばかりにそれだけ呟くと、朱鷺恵さんは僅かに顔を俯けた。

 その髪に隠された瞳から、一粒の雫が床を濡らしていた。


「そん……な……」

 絞るようにしてそれだけ声にする私の頬には、幾筋もの涙が流れていた。

 


 信じられなかった
 朱鷺恵さんは、こんなにも志貴さんのことを愛していたなんて
 愛して、愛して、愛して、愛して、愛して、愛して、愛し続けていたのに

 志貴さんは、そんな朱鷺恵さんを捨ててしまったのか
 私はその愛を、自分だけのものにしたかったのか
 そう思うと、志貴さんが……いや、自分が
 物凄く 許せなかった

 


「あはっ……どうしたんだろう。ちょっと感傷に浸っちゃったね」

 朱鷺恵さんは誤魔化すように笑うと、袖で自分の瞳をぬぐう。

「そんな、感傷なんかじゃ……!」

 私が何かを言いかけるその口を、朱鷺恵さんは人差し指で塞いだ。

「ううん。そういうことにしておいて。今は私はただの優しいおねーさんで、アキラちゃんが志貴君のたった一人の恋人、ね?」

 さっきみたいな瞳ではなく、またいつもに戻ったような瞳。聞き分けの悪い生徒を諭すように、年上ぶって朱鷺恵さんが私を見つめた。

 


 ひどい
 嘘を、この人は付いている
 本当は、自分がもっと志貴さんに愛されたいはずなのに、私にそれを譲ろうとしている

 そんなの、間違っているに決まっている
 なのに、私はそれを咎めることは出来ない
 それを口に出すことを、この人の瞳は禁じているようだった

 


「さ、そろそろ良いかな?針を外すから、ちょっと動かないでいてね」

 いつの間にか、私は起きあがっていた。
「えっ……あっ……」
 さっきまでは気がつかなかったが、私は無防備に朱鷺恵さんに裸の上半身を晒す格好となっていた。
 急に現実に戻されて恥ずかしくなり、その指示に従ってしまっていた。

 そんな私の肩から針を一本一本抜くと、朱鷺恵さんが最後に肩をポンと叩いた。
「はい、終了〜。腕、動かしてみて?」
 朱鷺恵さんが私を促すから
「はい……あれ?」
 私は腕をぐるりと動かしてみて、驚きの声を上げていた。

「凄い……痛くない」
 先程まではこうすると筋肉に引きつるような痛みが走ったのだが、僅かの間に針を数本打たれただけで、それがすっかり消え失せていた。

「よかった。上手くいったわね」
 朱鷺恵さんも、嬉しそうに手を合わせて喜んでいる。

 凄い。
 まるで魔法のような不思議さ。
 東洋医学の神秘とは言うけれど、まさかこんなに凄いなんて……
 握った手を開いたり閉じたりするが、もう指先の痛みまで完全に無くなって、嘘のようだった。

「はい!ありがとうございました!」
 苦痛から解放され、嬉しくなって、私は大きな声でお礼を言っていた。

「ありがとう。これくらいだったらお安い御用よ」
 そういって笑う朱鷺恵さんが、ふと視線を下に落としていた。

「あら……」
 そうして、私も下を見ると……そこには私の胸が露わになっていた。
「アキラちゃん、可愛いわね〜」
 朱鷺恵さんがそう言うと、私は途端にボッと発火してしまった。

「あわわわわ……これは、これは……」
 私は少し混乱して胸を隠すが、そうしてがら空きになった私の頬を撫でるように
「ふふっ……」
 朱鷺恵さんの手が触れた。

「さっきは冗談だったけど、愛しい志貴君の彼女にイタズラしちゃおっかな〜」
 そう言って見つめる瞳に、私はまた魅了されていた。
 そのとろけそうな視線に、ポーッとした瞬間……

「……!んんっ……!?」

 唇を、塞がれていた。


 私は僅か、体を反らして逃げようとしたけど適わない。
「んっ、んんっ……」
 いつの間にか両手を添えられて、見開く私の瞳には目をつぶった朱鷺恵さんの顔がアップで写っていた。

 とさっ……

 そのままもう一度ベッドに倒される格好になって、私は力無く沈み込んでしまう。
 どうしてか、力が抜けている。
 朱鷺恵さんのその甘い口づけに、私の心は魅了されていた。

「ふふっ……」
 一瞬唇を離し、朱鷺恵さんが微笑む。
 凄く気持ちよさそうで、甘くとろんとした目。
 その瞳を見せられた瞬間に、私は体が熱くなっていくのを感じた。

「あっ……」
 気付く間もなく、もう一度塞がれて。今度は柔らかいその舌が私の中に入ってきた。
 ぬるり、と滑り込んだそれは柔らかく、更に熱く甘美な興奮を私に与える。

「んん……」
 女性とキスしている、というある意味反社会的な行為なのに、それが私に興奮を呼び起こしているが如く感じられてしまう。
 くちゅりと唾液の絡まる音が口の中でくぐもって、きゅんとなってしまう。
 気付けば、私もそれに応じていた。朱鷺恵さんから与えられる快感に応えるように、舌が蠢いて二人絡まり合わせていた。

「ふふっ……上手ね。志貴君に教わったの?」
 朱鷺恵さんが微笑む。
「はい……私、志貴さんだけですから……」
 上手と言われたことに赤面して、あらぬ告白をしてしまった自分にハッと気付くが、遅かった。

「そっか、志貴君だけなんだ」
 何だか懐かしそうな目をする朱鷺恵さん。
「私も、志貴君だけだよ」
 そう言って、また唇を合わせてくる。

「だから……これはお互い志貴君のテクニックの所為だね」
 笑ってまた舌を絡ませるが、私は凄く衝撃的な一言に動きが止まっていた。

 

 今、朱鷺恵さん……何て?
 ……志貴さんだけ?
 そんな、まさか……

 

「どうしたのかな〜、もう気持ちよすぎる?」
 そんな私のことを勘違いする朱鷺恵さんが、でも笑う。
「ふふっ、もっと良くしてあげる。私が、志貴君にされたみたいに」
 朱鷺恵さんの顔が眼前から消え去る。と、胸に甘い衝撃が走った。

「きゃっ!」
 ぺろりと、いきなり乳首を舐め上げられた。その艶めかしい刺激に体が跳ね上がり、声を上げさせていた。
「ふふっ、いいでしょ?」
 朱鷺恵さんは私のその薄い胸に舌を這わせると、ぬめぬめと頂点から周縁にかけて、ゆっくりと舐め回していく。
 その舌の軌跡から私を狂わせるようにして、胸から熱い感覚が脳髄を刺激する。
 反対の胸を更に指の腹でくりくりと刺激されると

「あはぁ……ん」
 少し強いくらいの刺激に、私の体は反り上がる。
 ちゅう、ちゅうと、音を立てて私の乳首を吸い上げる朱鷺恵さんが私を見る。
「ね、志貴君はこんな事してくれるよね?」
 朱鷺恵さんの言葉が、私に響く。

 

 実のところ、確かにそれは志貴さんのやり方で。
 私は本当に志貴さんに抱かれていると思わされていて。

 

「はい……」
 頷く私に満足そうにする朱鷺恵さんが、ゆっくりと指を私の胸から腹、臍を通って下腹部に下りていった。

「あっ……」
 私がだらしなくしていた脚を閉じるより早く、そこに朱鷺恵さんの指が滑り込んでいた。
「すごいね、もうこんなに溢れてる」
 朱鷺恵さんが私の下着に触れると

 じゅっ……

 私の愛液が染み出すように、更に溢れてきた。

「あ……」
 とっくに、自分で理解していた。
 さっきからのキスに始まる愛撫に、私はすぐに濡らしていたことを。
 でも、言われて、改めて羞恥の心になる。

「こんなんじゃ、パンティ付けて手も仕方ないから……ほら」
 するりと、あっさりと私の下着を朱鷺恵さんが抜き取ってしまう。

「あっ……」
 その露わにされた部分を隠す暇もなく、朱鷺恵さんは顔を割り入れてしまう。
「ふーん、今までしっかり見たこと無かったけど、こうなってるんだね」
 朱鷺恵さんがさも興味あるかのように、私の股間を覗き込んでいた。そのまま、指を使って私のまだ閉じていた秘裂をくつろげられる。

 くちゅっ……

「いやぁ……」
 その自分のいやらしい音に、私は更に興奮を覚えてしまう。とくりと更に私は透明な液を湧き出させてしまう。
「あ、また奥から溢れてるよ」
 そう言って微笑む朱鷺恵さんが、私の泉の奥を探るように指を挿入してきた。

「きゃん!」

 くちゅ……くちゅ……

 ゆっくりと出し入れされ、かき回すその指の動きに合わせて、私の心の中までもがとろとろになってきていた。

「ほら、志貴君はこうやって私を愛したんだから……」
 何だか少し悔しそうに、朱鷺恵さんが言ったように聞こえて
「えっ……」
 私は喘ぐ声を一瞬潜め、朱鷺恵さんの顔を覗き込もうとした。……が

「……あはあんっ!!」
 私は新たに与えられたその刺激に、一気に飛ばされていた。
 ぐちゅぐちゅと、泡立つ程の激しい勢いで2本の指が私の膣を出入りしている。
 更にその頂点の真珠を、こちらは優しく舌で転がされていた。

「ほら……志貴君は、こうして私をおかしくしたの」
 朱鷺恵さんの声が遠く、私には聞こえない。

 これは……志貴さんの愛撫。
 いつも、いつも、私が抱かれているあの人の……
 私、志貴さんにされてるの?

「アキラちゃんに、私がされたことと同じ事をしてるの」
 朱鷺恵さんが呟く。
「あはっ、きっと、アキラちゃんの姿に自分を重ねて、また志貴君に抱かれようとしてるのかもね……」