「ひいっ!」
瞬間、秋葉の躰が激しく硬直する。
それは、達したからではない。
気持ちよいからではない。
恐怖だった。
「あ……」
晶は見ると、そこに確認した。
窓の向こう、すぐ隣の校舎の廊下。
月夜には邪魔な一筋のオレンジの明かり。
そして、よく聞くと自分たちのフロアにも足音。
警備が巡回に来ているのだろう。
「や……やめて、瀬尾……」
急に冷静になった秋葉が、オロオロとしながら晶を見る。
それを見て、晶は少しだけ嫉妬した。
私との愉しみよりも、モラルを気にするんですか。
私はまだ、先輩をつかめていないのですか。
悲しい。
そんな自分が。
そんな先輩が。
許せない。
「どうしました、先輩?」
わざと気付かぬようにして、2本の指を突き入れる。
でも、今度は先程までの優しさを忘れ、強く。
ぐじゅりと大きな音がする程に、最奥へと。
「んんっ!」
秋葉は声が漏れぬように口を閉じながら、その中で叫び声を上げた。
「ほら……今夜は気を失うまでと言ったじゃないですか」
晶の瞳は濁っていた。
ただ機械的に、秋葉の膣を探る。
かつ……かつ……
足音は大きくなる。
近付いてくる。
こんな所……見られたら
あれほどうなされていた汗は冷や汗にかわり、体温が一気に低下していく。
「嫌、いやぁぁ……やめて、やめてぇぇ……」
そう焦る秋葉の躰は、しかし晶の責めに着実に反応を返す。
それどころか、焦燥感が興奮に変わっている。
一度狂った歯車は、そうそう簡単に戻るものではなかった。
恐怖が、膣を締め上げる。
向こうの光が一瞬、自分に向けられたかと思った。
瞬間、それが起爆装置であるように躰が再び、いや、より熱いものを放ち始めた。
「ひっ……」
自らの声を塞ごうと手に持ち続けていたスカートの裾を噛む。
その姿が、余計晶を欲情させるとは知らずに。
布の切れ端から、声が漏れる。
止めどなく与えられる快感が、本当の拷問だった。
「ああ……先輩、いやらしすぎます」
うっとりとする晶は、服越しに左手で秋葉の胸を優しく揉んだ。
ブラの堅さを通り抜けて、まだ膨らみきらないその柔らかさを味わう。
「ん、っ!!」
秋葉の声がより緊迫したものになる。
それが誘っているようで。
もっと強く指を動かす。
右手は激しく出入りし。
左手は柔らかい肉に埋めるように。
かつ
今までに一番大きい音が、ドアのすぐ向こうから聞こえた。
簡単に開いてしまうドア。
その向こうに、人が……いる!?
秋葉の絶望感が、一層大きくなる。
しかし、晶は夢中になったように指の動きを止めない。
その音が解っていないのか。
そう思ってしまうように、一層激しく。
焦燥感が鼓動をハヤクする。
早すぎて、破裂してしまいそう。
躰の奥から次々と湧く暗黒の雲が、躰を支配している筈なのに。
それが、快感に繋がっていた。
誰かに……見られる……!
そう思うがために、躰が火を放ちそうだった。
見られたら、どうなってしまうのか。
嘲り、侮辱されるのか。
それともこの光景に加わり、犯されるのか。
瀬尾に押さえられ動けない躰を弄ばれて。
入れられ、中に出されてしまうのか。
恐怖が、最悪の妄想が秋葉を次々に遅う。
いや! やめて……!
助けて欲しいと心が叫ぶ。
しかし躰が全くワカラナイ状態になって。
ブルブルと悪寒に震えているのか。
快感に震えているのかワカラナイ。
ぐちゅぐちゅと濡れた音があまりに大きく木霊する。
胸を触る衣擦れの音が、同じように大きく木霊する。
その音しか聞こえないように。
その快感しか解らないように。
同時にこねられる秘所と、胸と。
それだけが自らを縛る鎖かのように。
ワカラナイ。
どうなってしまうのか。
どうなってしまうのか。
タスケテ……タスケテ!
ああ、ああ……あああああああ!!!!!!!!
「ふふふ……先輩、可愛いです」
気を失ってしまった秋葉を見て、晶はとろけるような溜息をついた。
結局ドアは開かれなかった。
そんなことを、晶は知っていた。
だって、鍵はここにあるから。
鍵がかかる部屋を開けようだなんて、普通は考えないから。
でも、秋葉にはそれがわからなかったようだった。
ビクリと躰を震わせるのに合わせて、激しく愛撫した。
火が出る程、泡立つ程に秘所に指を出し入れし。
同時に胸を揉みしだき。
最後と感じた瞬間に、ふたつの突起を同時に強くこねてみたら。
落ちた。
一番深いところに、落ちてった。
躰をビクビクと痙攣させて。
絶頂に達していた。
「ふふふ……ああぁ……」
晶の躰も、激しい絶頂に弛緩して、ぐったりと倒れる。
互いの躰が互いを支え合うようにして。
荒い息を立てる秋葉の顔を目の前にし、微笑んでいた。
「先輩、早く起きてください。夜はこれからです……」
そうして、ゆっくりと唇を舌で濡らした後。
優しく、口づけをした。
朝。
「先輩」
蒼香達に話しかけ、屋敷へ向かう車に乗り込もうとした秋葉を呼び止める声。
「……」
秋葉は答えない。
瞳も合わせられない。
駆けてくる少女を前に、固まりつく秋葉がいた。
目の前にたどり着くと、少しだけ息を整えてにっこりと秋葉を見つめる少女。
「先輩、帰られるんですか?」
見れば解る、さも当たり前の質問をする晶がいる。
そんな質問に当たり前に答えられない秋葉がいる。
「先輩、これ見てください」
晶は、後ろ手にしていたそれを秋葉に翳した。
「……!」
「ね、一緒に見てください」
晶はそう言うと、その画面をぱかっと開く。
ハンディカメラ。
その小さな画面には、月夜。
そして……その光に照らされた、自分の姿。
あられもなく足を広げ、後ろからの止めどない責めに声を上げ。
見慣れぬ定点の映像は、しかし自分の昨日の姿であると瞬間で理解できてしまった。
躰が、精神が。
凍り付く。
気付かなかった。
窓枠にカメラが置いてあったなんて。
それに躰を晒し、嬌声をあげていただなんて。
こんなに淫乱な姿を、見せていたなんて。
「先輩、一緒に帰りましょう。そうして、一緒に見てください」
晶は屈託なく笑う。
「それに……こんな姿を志貴さんに見せたら、どんなお顔をするんでしょうかね」
その一言に、完全に時が止まった。
兄さんに、こんな姿。
私の、こんな姿。
オンナに狂う、浅ましい姿。
耐えられない秘め事への焦燥感の産物。
そして……
「……先輩?」
「……ええ、一緒に帰りましょう」
秋葉は、笑った。
これからどんな夜が待ち受けているのか。
それは、恐怖ではなく。
愉しみとして。
狂おしく思う気持ちが、早くも躰を火照らせる。
堕ちていく。
狂った歯車が、それを正しく回し始めている。
違う世界の歯車として。
今夜訪れる新たな世界が、悦ばしい。
気体に溢れる蜜が、また内股を伝わったような気がした。
ああ、なんて――酷い。
〜後書き〜
なんて――酷い。
ここで終わってしまうのかと、なんて――酷いと思った人ごめんなさい。
これからの展開には含みを持たせるのは、ひとえに瑞香さんが「バトンタッチ」という言葉を使ったからです。
バトンって、どういう時に使いますか? そう――リレーですね。
リレーって、2人ではやりませんよね? 普通は、3人以上――少なくとも4人――はいますよね?
瑞香さんも「バトンは渡すためにある」様な発言をしてらっしゃいますし。
さぁ、しにをさん、続きをお願いします。
それは……なんて――酷い(笑)
つづく('02.09,08)
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