(注:今回は、特殊な牌を白黒で表示しております)

 

 七回戦(最終戦)
 起家:秋葉
 並び:秋葉、琥珀、翡翠、志貴

 そろそろ夜も深くなったということで、都古ちゃんは客室で先に寝る事になり、さつきやアルクェイド達は帰っていった。
 最後に志貴がどうしてもと言う事で、遠野家の面子で卓を囲む事になった。
「一度くらいはトップ取りたいからさ。これだけは使いたくなかったけど……」
 そう言って、志貴は眼鏡を外す……
「今までは本気じゃなかったけど、最後だけは行くぜ」
 青く光る瞳が、全ての牌を見つめていた。

 東一局
 九順目。
「リーチ」
 秋葉が牌を出して宣言する。
 『略奪』は、誰から起きてもいいと踏んだリーチであった。
 瞬間

 ――死――

 死の線が入る代わりに、白黒で表示しています。

 志貴の牌のひとつに、線が走った。
「くっ……」
 軽く襲ってくる頭痛に、しかし志貴は不適な笑いを浮かべていた。
 ……来たな。
 それは、この牌が志貴にとっては『死んでいる』という事、すなわち……
 ……当たり牌、か。俺には見えてしまうんだよな……これが七夜の、血の感性とでも言うのかな――
 自らの運命を皮肉りながら、志貴はツモった。

 


 その牌も、ひび割れた線が走っている。
 筋待ちか、掴まされたな。
 志貴はそう思いながら、手を変えて一面子落とす羽目になった。

「秋葉さま、ロンです」
 結局、秋葉をかわした翡翠が安手をあがり、流れた。

 東二局
 七順目。
 「ポンです、翡翠ちゃん」
 琥珀がそう宣言した。
 牌を捨てた琥珀を確認して、志貴が手を見ると……

 

 ……やはり
 志貴の牌は、線に彩られていた。
 ひと鳴きでこんな変則待ちとは恐ろしい。
 二索、五索、そして……七筒。
 とても捨て牌からは読めるような形でなかった。
 そしてツモ……

 


 ……よく引くなぁ。
 五索だ。
 これで対子となったから、まだ辛うじて手がある。
 志貴は一発でドラを切り、とにかくかわし続けるしかなかった。

 この局も翡翠があがり、翡翠の洗脳まであとは志貴のみとなる。

 東三局
 二順目。
 翡翠がいつも通り、無言で牌を置く。
 志貴はまだ気楽なつもりだったが、

 


 ……もうテンパイしたのか
 ツモってきた牌を見て、苦笑した。流れはどうやら翡翠にあるらしい。
 それでも、自分は振らない。
 翡翠の流れはここまでで、さっきみたいな結果にはさせないと誓う自分がいた。
 志貴は単純に不要牌を落として様子を見ると……次巡、その牌から線が消えていた。
 なるほど、待ちを変えたか、翡翠。
「ならば、この牌は……通る」
 笑うと、志貴は先程まで死んでいた牌を切った。
「……」
 翡翠は無言だったが、ぴくりと一瞬眉根を動かしたのを志貴は見逃さない。
 自分でも可哀想な捨て牌だとは分かっていたけど、翡翠のいつもみたいな困った顔を見るのは少しだけ楽しかった。
 その後、ツキを呼んだか志貴は翡翠に合わせて打つ内に、平和タンヤオドラ一をツモった。

 東四局
 十四順目。
 うん、抱えている。

 


 線が走る牌はいくつかあるが、完全に自分の面子に組み込めていた。
 しかも、テンパイだ。
 だが、今回はやな予感がしている。まだ流れは自分に向ききっていない。
 だから、ダマで通す事とした。
 そして、海底……
「よ……っと!?」

 


 ツモった牌を見て、苦笑した。
 どうやら、誰かの当たり牌らしい。
 まったく、いいカンだ。
 そう言って手を崩し
「流局。ノーテンだ」
 と牌を伏せた。
「テンパイです」
 牌を開いたのは秋葉だった。混一色ドラ二、見事に河底で跳満になる手で、志貴は安心した。

 南三局
 ここまで点は僅かに志貴がリード。しかし油断は出来なかった。
 志貴がトップということは、少なくとも琥珀に狙われている。
 更に、翡翠も志貴からあがれば洗脳が完成する。防衛は少なくとも自身に貼っているのだろうが、どうも上手く機能していなかった。
 そして、秋葉はもちろん志貴を狙っていた。自分程の人間が、トップ以外から点を集めて勝とうとはプライドが許さなかったからだ。
 それぞれがそれぞれの思惑で標的にして……手を志貴に合わせていた。
 しかし、志貴からは出ない。鳴き材も出さない志貴の手に、全員の手が揃い初めて……
「くっ……ツモよ」
 切れない、と分かった牌を掴んでしまい、秋葉が悔しそうに呟いた。

 南四局、オーラス。
 志貴は何とか逃げ切りたいと思った。
 翡翠と秋葉の能力は最終戦には無意味となってるが、それで終わる彼女たちではない。
 大物手が、確実に育っていた。
 また対面の琥珀も、きっちりとマクれるだけの手を着実に。
 そして……
「ポン!」
「! しまっ……」
 四順目、志貴は琥珀に八索を鳴かれた。
「志貴さん、覚悟してくださいまし〜」
 好牌が寄ったか、琥珀の手は動いた。
 そして、七順目……
 ……来たか。

 


 牌に線が走った。
 清一色のみでも、直撃は逆転……。
 しかし、琥珀は志貴が自分からは出さない事を分かってるだろうから、それ以上の手があるに違いない。
 志貴に出来る事は、当たり牌を持つ事。
 そして……
「!」

 


 ……引いてくる事。
 琥珀の当たり牌を次々と引き、暗刻に育てた。
 まったく、死の線が見えるというより、死が自分から寄ってくる感じだ。
 志貴が牌を落とし、一安心していると。
 ……死の線が、増えた。
 秋葉が、テンパイしたようだ。
 そして、それだけではなく
「リーチ」
「!?」
 翡翠の打牌と共に、遂に志貴の手の大半が線で彩られた。
「くっ……」
 ひどいもんだ、自分以外はテンパイとは……
 しかも、安全牌を落としていくたびに、他家の手が変わる。完全に狙い撃ちだ。
 まるで蜘蛛が移動するかの如く死んだ牌が入れ替わり、志貴はだんだんと追いつめられていった。

 そして、十六順目……
「もう、これしか切れないか……」
 頭がガンガンと痛い。
 もう焼き切れる寸前まで死の線を見せられ続けて、志貴は意識が遠くなっていた。
「兄さん、あまり無理をしないで下さい」
 秋葉は心配そうに言うが、勝負事とは別らしい。いかにも手加減無しの秋葉らしい態度だった。
「ああ、この対局が終わるまでは……」
 そう呟いて、手牌を見る。
 まるでもやがかかったように、牌の至る所に線が見える。
 それでも……死を背にして覚醒した七夜の血。
 その力は、普通ではなかった。
「くっ……!」
 飛びそうになる瞬間、志貴は自分の牌をツモって……


「!?」

 全部……

 手牌が全部、当たり牌。
 途端に、目の前がブラックアウトしていき、くらりと意識が遠くなる。
 しかし……最後に志貴は不敵に笑って

「ツモ……だ」

 そう言ったまま、貧血で倒れていた。

「兄さん」
「あ……れ?」
 志貴は目を覚ます。
 すると、居間のソファーで額に冷たいタオルを当てられて横になっている自分に気が付いた。
 翡翠は起きあがる志貴に手を貸し、琥珀は処方した薬を水と一緒に渡した。
「もう、無茶しすぎです。そんな線ばっか見て麻雀していると、本当に死んでしまいますよ」
 それを飲み干す志貴を見ながら、秋葉は半ばあきれ加減だった。
 が……
「そういや、勝負は――」
「まったく、ちっとも私の話を聞いてくれないみたいですね。……兄さんの勝ちですよ」
 そう言うと、全員が一度卓の方を見やり、改めて志貴を見る。
「でも、兄さんの能力は凄いですね……」
 秋葉が代表してそう言って笑うと、同じように琥珀と翡翠が完敗だという様子で微笑んだ。

 


「最後は大車輪まで見えてたんですが、完全に抱えられてますね」

 

  

「あは、私は緑一色が目標だったんですが、これじゃあ無理ですね〜」

 

 

「申し訳ありませんが、混一色飜牌ドラ三でした。ですが、当たり牌は……」

 それぞれがそれぞれに、きっちりと逆転手を抱えていた。
 そして、その当たり牌を大量に掴まされた志貴の手は、必然的に……

  ツモ


「ああ。で、俺が結局、四暗刻ってなるんだよなぁ……しかも今回は単騎」
 美しく、暗刻の揃った和了形になっていた。
 手牌が全て当たり牌でも、自分が上がりならば振り込む事はない。志貴の能力が呼んだ究極の結果は、もはや芸術と言っても過言ではなかった。

 しかし……やれやれ、恐ろしく疲れた麻雀だったな。
 そう志貴は思いつつも、一つの大きなイベントをやり遂げた感からか、自然に笑みがこぼれていた。

「楽しかったね、みんな?」
「ええ」
「そうですね〜」
「はい」

「また、やろうか?」


(続く)

 

 








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