/朝


「おはよう、秋葉、琥珀さん」
 食堂では秋葉が琥珀さんに給仕を受け朝食を取っていた。
「おはようございます、兄さん」
 秋葉は微笑みながら返事をする。
「おはようございます、志貴さん」
 琥珀さんは俺の方の食器を用意しながら、ころころと笑顔で応対してくれた。
「うん、おはよう」
 琥珀さんの作ってくれた朝食に手を合わせると、早速食べ始めた。

「……兄さん」
「ん?」
 応接間で食後の紅茶を頂きながら、秋葉が話しかけてきた。
「私には、無いのですか?」
 秋葉は少し残念そうに口にする。
「ん?んー……」
 それには答えず、俺は紅茶をくいっとやると立ち上がった。
「ほら秋葉、そろそろ行こうぜ」
 翡翠から鞄を受け取りながら、登校を促す。
「むー、兄さんずるいです」
 上手くはぐらかされてしまってちょっと拗ねながら、秋葉も鞄を手に玄関に向かう。

「志貴さん、秋葉様、いってらっしゃいませ〜」
 翡翠と琥珀さんの見送る中、俺達は屋敷を後にした。

「うー」
 まだごにょごにょと口の中で言ってる秋葉がなんか可愛らしい。
「ほら、秋葉」
 俺はそんな秋葉の手を握ってあげた。
「あ、兄さん……」
 それにはっとした秋葉だったが、すぐに嬉しそうに微笑むと俺の手を握り返してきた。
「私の負けです。さぁ、行きましょう」
 ほんの僅かの恋人気分を味わいながら、坂を歩く俺達だった。

 

「ん……?」
 学校の正門手前。流石に俺達も手を離して並んで歩くばかりだったが、珍しくそこには誰かを待つ先輩の姿があった。
「あっ……遠野君……」
 先輩は俺を見つけると、こちらに走り寄って来ようとして……隣に秋葉が居るのを確認して思いとどまったようだった。

「おはよう、先輩」
 にこりと笑いかけると一瞬ぼーっとしていた先輩がぴくっと反応した。
「あ!あ、おはようございます、遠野君」
 なんだかちょっと寂しそうに、でも嬉しそうに先輩が応える。
「むー」
 が、隣では秋葉がちょっとふくれていた。
「ほら、秋葉も挨拶して」
 俺が促すと、ようやく挨拶をする。
 どうも秋葉は先輩が苦手、というか嫉妬しているようだ。まぁ仕方ないかな、自分以上に兄と仲の良さそうな人物が目の前にいるからだろう。

「じゃぁ……遠野君、私はこれで」
 先輩は俺に用があったはずなのにくるりと振り返ると、そのままとことこと校舎裏に駆け込んでいった。
「……なんだろ、変な先輩」
 少し内股気味に走る先輩を見送りながら、俺達も昇降口に向かった。