ever snow
注:
「おはよう、秋葉……」 いつもの朝。志貴さんは翡翠ちゃんに付き添われてこの応接室にやってきます。そして必ず、秋葉様に声を掛けるのです。 「……七夜さん」 そして私にも。まだ眠いといった目をこすりながら、それでも屈託のない笑顔で私に笑顔を向けてくださるその姿は、本当に嬉しいものです。 「おはようございます、兄さん」 秋葉様がお返事するのを計って 「おはようございます、志貴さん」 私はにっこりと挨拶を返すのがお決まりでした。 「いただきます」 おいしそうに食べる姿は、作ったものとして最上の喜びになります。それが志貴さまの様な殿方なら、尚更そう感じるでしょう。 「志貴さま、そろそろお時間です」 私達が翡翠ちゃんの声に時計を見ると、もうそんな時間でした。 「本当だ。それじゃ七夜さん、この続きはまた夕方にでもね」 私がそうにっこりと笑うと、志貴さまは後ろを振り向いた。 「じゃぁ翡翠、行こうか?」
「……うん、今日はまっすぐ帰ってくるから、翡翠もそのつもりでいて」 ぴくり、翡翠ちゃんが反応します。頬を染め、少し俯き加減になりながらも 「かしこまりました」 冷静に返答する翡翠ちゃんを見ると
志貴さんは、翡翠ちゃんの事を真剣に見つめて声を掛けます。 「……七夜さん」 そして私にも。でも、私にはいつものような笑顔です。志貴さんは気付いてないかも知れませんが、私にはその微妙な違いが、分かってしまうのでした。 「行って来ます」 そう言って、志貴さんは門に向かって歩き出しました。 「行ってらっしゃいませ、志貴さま」 翡翠ちゃんがお見送りの言葉をかけるのを計って 「行ってらっしゃいませ、志貴さん」 私はにっこりと送り出すのがお決まりでした。 そんな志貴さんの背中が、ゆっくりと小さくなっていく気がします。
「……姉さん?」 私は涙を拭うと、翡翠ちゃんにとびっきりの笑顔を見せました。 「……ううん、何でもないわ。さっ、今日もがんばりましょう!」 翡翠ちゃんには、私のこんな気持ちを知られたくない。
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