夕立が激しく降る中、おれは町を見下ろす公園に来ていた。公園の中で、おれはまっすぐ、展望台に向かった。もう、そこしか考えられなかった。

 丘から突きだした展望台…その先端に、由利子さんは、おれに背を向ける形で立っていた。彼女もまた、雨に濡れていた。しかし動かずに、ただじっと立っているようだった。
 降り続ける雨の中、おれは彼女にもう少しで届きそうなところで立ち止まった。
 間違いなく由利子さんだ。間違えるわけもない。
 おれには言うべき言葉が、一つ意外全く思いつかなかった。いや、この瞬間、これより他に言葉なんかいらなかった。
 おれは走って乱れた息を整えると、迷わずにその与えられた言葉を告白した。

「好きです…。」

 おれは黙っていた。あれから彼女も何も言ってこない。二人の間を支配するのは、夕立の激しい雨音だった。
 しかしおれがこの沈黙に耐えかねて、ついに何か…本当に何を言えばいいか分からなかった…を言おうとしたその時だった。

「ねえ、覚えてる?最初に私に怒ったこと…」
「…」

おれは何も言わなかった。全て、彼女に任せることにした。

「…あの時は本当にドキッとした。でも、私、嬉しかった。 そんな事言ってくれる人がいるんだって…変なことかも知 れないけど、私にとっては大切な一言だったの。」

「それから、あなたのことを意識するのは、当たり前のよう だったわ。いつも優しくしてくれた。それが嬉しくて、い つか、本当のことを言おうとしてた。でも、でもね…。」

「私だけがそう思ってて、優君がもしそう思ってないとした ら…って考えたの。そう考えると、怖くなって、どうして も言えなかったの。あなたから、『しばらく会わない方が いい』…そう言われた時、私、その方がいいって思っ   ちゃった。」

 おれは、ショックだった。彼女も同じ悩みを抱えていたんだ…。
 おれが由利子さんに近付こうとして、足を動かそうとした瞬間、彼女が体ごとこちらに振り返った。
 彼女は、泣いていた。でも、笑っていた。

「おかしいよね、私…。そんな風に思っちゃうなんて。でも、 やっぱり、そんな事出来なかった。自分の本当の気持ちに、 逆らえなかった。」

「今日、林さんに言われたの。
  『気持ちに嘘ついちゃダメ』って。」

「もう、本当の気持ちをどうすることもできなかった。
 …だから、ここでずっと待っていた」
「そんな…もしおれが来なかったら…」

彼女はゆっくりと首を左右に振って、

「ううん、優君、絶対来てくれるって信じていた。来なくて も、このままここにいれば、いいと思っていた。…このま ま風にのように消えてしまってもって……」

「でも…やっと来てくれた」
「由利子さん…」
「今なら…言える、優君が告白してくれたように、私も、本 当の気持ちを言える…」

「あなたの事が……好きです。」

 

 

「わあ…きれい」

由利子さんが空を見上げて、両手を広げている。

「吸い込まれていきそう…」

しばらくそうして彼女は星を眺めていたが、ふと思い出したように、

「…去年は、見られなかったからね。」

そういった。
 そうだった。去年は結局見られなかったんだ。 今日はあれからちょうど一年後の七月七日。だいぶ夜も遅くなって、空には星が散りばめられていた。
 まさに、満天の星空。天と地との区別が付かなくなって、したに広がる町の光も、まるで星空の一部のように光り輝いていた。

「…あれから、一年経つんだね。」
「そうだね。一年か…」

そんな事を考えながら、俺はふとこの一年を振り返ってみた。
 …果たして、この一年、彼女に何かしてあげられただろうか?別に間がさしたわけでもない。何となく気付いただけだった。
 この一年、話をしたり、一緒に帰ったりしただけだった。亮介や美月さんには、「青い」とか「可愛い恋愛」とか言われるけど、おれはそれでも良かった。それで幸せだった。でも、彼女はどうなのだろうか?幸せなのだろうか? 何となく不安になってしまい、彼女に聞いてみようとした。
 その時、まるでおれがそうしようということを知っていたように、由利子さんがおれに向かって答えになるようなことを言った。

「優君…、私、この一年とっても幸せだったよ。他の人から 見ればつまらなかったかも知れないけど、あなたがいてく れるだけで、あなたとお話ししているだけで、私とても嬉 しくって、その度に、ああ…私、あなたの事、本当に好き なんだなあって気持ちで一杯になっていた。だから…だか ら、これからも、ずっと…」
「うん…いつまでも。」

おれがそう答えたら、彼女は顔を真っ赤にして、そして顔を背けるようにして上を見上げた。
 …嬉しかった。言いたいことはあるのに、言葉になんて出来なかった。言ってしまえば、軽くて安っぽいものになってしまいそうだった。…どうして、気持ちをもっとうまく伝えられないのか…もどかしかった。
言葉じゃ伝えられない。だから…
おれは、初めてで少し緊張したけど、上を向いている彼女にゆっくり近づいて、そして…唇を重ねた。




 今日がまた新しい始まりになる
 行く先には どんな道があるか分からない
 でも どんな道でも歩いてゆけるような気がする
 そう… 君と二人で…







〜掲載にあたっての後書き〜

 ……いや、若いですね。臆面もなく載せる自分もまた青い(苦笑
もう4年ほど前になりますか。高3の6月に出した文藝誌「四季彩 Vol.10」に掲載された純愛物の小説です。

 この当時は「ときメモ」のドラマCDの影響をもろに受けていて、非常に似通いすぎたお話になっています。これでも結構当時の本人としては「……よくやった!」という達成感があったのを覚えています。今思うと量的にもかなり普通で、文章もかなり読みにくいですね。

 掲載日、今日は七夕です。更新が出来そうにないのでお茶濁しでお送りしましたがどうだったですか?(苦笑
 一応、こんなのもありましたということで。それでわ。