……が、

「えっ……えっ……?ああっ!」

 

 右手……力が入らない?

 

 忘れていた事実に、私の頭は軽く混乱する。
 志貴さんが私の奥まで到達する度、私は未知の衝撃に襲われた。

「きゃはぁっ……!」

 力を失い、シーツを掴めない右手のせいで

「あっ……あっ……!?」

 私はいつもよりもっともっと、深く深く、遠く遠く、信じられないくらいに気持ちよくさせられていた。

 ヤダ、なに、これ……!?

 ダメ……ダメ……ダメ……!

 私はそれが怖くて、体を余計強ばらせてしまう。それが膣の収縮と相まって志貴さんを悦ばせてしまう。
 志貴さんはそんな私がどうなっているのかなんて知らない。
 ただ激しく腰を打ち付けていつものように私を悦ばそうとしている。

 ……コワイ……!

 信じられない程の快感が私を包み、今まで体験し得なかったその凄さに恐怖を覚えていた。
 全身を駆けめぐるワケの分からない感覚が、私を狂わせて暴れる。
 身を捻っても、体の底から沸き上がるそれを逃れさせる放出口がない。
 高々右手のその役割を、今恐ろしい程に体が理解してしまっていた。
 
 いつもよりも強烈に襲いかかる激震に耐えられる術が無く、与えられる全ての快楽を自分の中で処理できなくなっていて、腕のかわりに顔を強くシーツに押しつけて逃れようとするが、敵わなかった。

「あ……!!」

 私が満足に声も出せぬまま弾けると、ぱあっと目の前が真っ白になった……

 

「……アキラちゃん」

 頬を優しく撫でる感覚に、私はようやく連れ戻される。
 ふわっと、雲の上から地面に降り立ったように、でもそこはベッドの中で。
 志貴さんが汗を滲ませながら笑顔で私を見下ろしている。
 物凄く美しくて、一瞬じーっと見つめてしまうが

「あ……」
 自分の今までの姿に気付き真っ赤になって、私は目の前の志貴さんと目が合わせられなかった。
「凄かったね……あんなになっちゃって」
 志貴さんはそんな私の痴態が物凄く嬉しそうだった。更に破顔一笑、とばかりにっこりと優しく笑いかけてくる。
「やだ……」
 あんな風にイッてしまうなんて、初めてだった……
 先程のその感覚をちょっと思い出しただけでも、私の体はすぐに反応してしまっていて。
 きゅっと、私は志貴さんを締め付けてしまう。

 え……志貴さん?

「あっ……」
 私の膣は、まだ志貴さんのでいっぱいだった。
「……あははっ。まだ、出してないからさ……」
 志貴さんは苦笑して自分のそれを軽く動かす。
「あっ……!」
 私は甘い声を上げてしまう。
 さっき連れて行かれたばかりなのに、またこんな反応しちゃうなんて……恥ずかしい。

「アキラちゃん……大丈夫?」
 志貴さんは動きたいのだろう、私に同意を求めてくる。

「はい……」
 私は優しく頷くと、志貴さんを見つめる。
「私のワガママ聞いてくれたから、今度は私が志貴さんのワガママを……好きに動いてください」

 3日も私を大事に思ってくれた志貴さんが愛しくて、私は身も心も志貴さんに捧げたかったから……優しく頬を撫でて、にっこりと笑ってあげた。

「ありがとう……じゃぁ、こんなのは?」
 と、志貴さんは私を抱き締めるとくるりと一回転させる。
「きゃっ!」
 繋がったまま、私は膣をかき回されてそれだけでまたおかしくなる。

 そのまま私の体を志貴さんに少し持ち上げられたので、浮いた格好で志貴さんと繋がる。ふたりの部分がより深く交わった格好で、私は揺らされ出す。
「や……恥ずかしい!」
 その今まで知らないような形で交わり、私は驚きと高揚感に晒された。
 背後から座位のようにされて、胸を弄られながら貫かれる。うなじをヌメヌメと這い回る舌が私に震えを走らせ、
「きゃふっ!いいです……志貴さん!」
 たまらない嬌声を上げさせる。

 後ろからの刺激がイヤではないのに、体は条件反射のようにそれから逃れようと前に前に倒れてしまう。
「くっ……」
 志貴さんがそれを支えきれずに、私はベッドに手を付いてしまう。
 意図せず背後位の形になってしまい、その格好で一回突かれただけで

「ああっ!」
 強い刺激が、私の新たな部分に走る。
 それに腰が砕けそうになりながらも、必死に腕で体を支えようとした時だった。

「えっ……?」

 

 右手が……支えきれない。

 

 そのまま、支えを失った体がどさりと右前方に倒れ込む形になってしまう。
 その瞬間、志貴さんがタイミングを合わせたかのように私の奥をずんと突いた。

「あああ!!」
 先程以上に凄い快感が私の全身を走り抜け、私は大きな喘ぎ声を上げてしまっていた。
「アキラちゃん、ここがいい?」
 その反応に気をよくした志貴さんが、更に奥に突き入れてくる。
「ああ!あああ!!」
 それに答える事が出来ず、体の奥でびくびくと震える志貴さんのモノに私はおかしくなりそうになる。

 また、こんな凄い……!
 おかしく、なっちゃう!
 イヤ……怖い!!

 私は、瞬間前のあの感覚をもう一度呼び出され、更に感じてしまっていた。
 一度経験した信じられない絶頂感に、早くも体が求めてしまっていたのか。
 びくびくとそれは膣の動きに反映され、余計に自分と志貴さんを悦ばすだけになっている。
 
「ああっ……ああ!」
 じゅぷじゅぷと言う音で、私の膣を志貴さんが出入りしているのがわかる。
 更にぱんぱんと打ち付けられる腰の動きが、リズミカルすぎて私を狂わす。

「あっ!ああん!!」
 さっきから同じような喘ぎ声しか出せないでいる。
 それほどまでに気持ちよく、私は限界に近い。
 右肩で体を支えているだけで、私はまたも拠り所を失い、志貴さんに貫かれ続ける。

「イ……イッちゃう……」
 堪らず枕に顔を強く押しつけて埋めているせいで、声にならない声が志貴さんには届いていない。
「アキラちゃん……そろそろ……」
 それでも、志貴さんも限界を感じていて、ピッチが一気に早まった。
 腰を掴む力がぐっと強くなり、引き寄せられて更に奥まで届く。

「あ……っ……!!イヤッ……志……貴さん……」
 私は次々と増大する快楽の驚喜に息も絶え絶えで、呼応してしまうように全身を痺れさせる。

「中で出すよ、今までの分全部!」
 最後に、志貴さんの手が下から私達の結合部に伸び、私の真珠を優しくこねた時だった。
 志貴さんの最後のひと突きが私の最奥目掛けて強烈に打ち込まれた。

「……んっ!!」
 私は僅かも声を出せず、激しく体を硬直させ、膣をぎゅうぎゅうと締め付けていた。
 そして同時に、志貴さんの熱い迸りが私のその中に注がれた瞬間だった。

 また、イク……!!

 ぴゅるりと、志貴さんの精液が強烈に私の膣を満たしている。
 私はその気持ちよさと、今まで感じた事の無かった物凄い高揚感に抗えず、気を失ってしまっていた……

 

「……」
 私は志貴さんに右肩を抱かれながら、真っ赤になって布団の中にいた。
「アキラちゃん……物凄く可愛かったよ……」
 そんなちょこんと出た頭を、志貴さんは優しく余った手で撫でながら微笑んでくれる。
「だって……凄く志貴さんが欲しくって……きゃっ」
 私はついそんな恥ずかしい事を口走ってしまい、頭まで布団を覆ってしまう。
「俺も……」
 志貴さんも少し照れながら、頭を掻く。
「我慢しちゃダメ……かな?」
 ふたりでそう言うと、どちらともなくあははっと笑い出す。

「アキラちゃん、その……二学期からもさ、秋葉みたいにウチから通ってよ……」
 志貴さんが少し恥ずかしがりながらそう言う。それはつまり……
「それって……同棲……」
 自分でそれを言ってしまって、頭から湯気が吹き出す。
「うん……」
 志貴さんも、同じように今度こそ真っ赤になる。
「だってさ……これじゃ、我慢出来ないから……」
 言い訳のように志貴さんが誤魔化そうとするが、それは……

 

 私も……

 

「私も……我慢できそうにありません」
 今だって十分そう言う関係なんだけど、改めてそう言われると私にたまらなく張り裂けそうな気持ちが溢れてきた。
 志貴さんにぎゅっと抱きつき、胸に頭を乗せる。
「だから、お願いします……」
 その言葉の意味を理解して、嬉しそうに頷くと
「うん……」
 志貴さんも優しく右肩を気遣って抱いてくれた。

 そのうち、志貴さんはくにゅくにゅとまた私の右肩を揉み出した。
「……志貴さん?」
 不思議そうに志貴さんを眺めると、志貴さんは少し心配顔で
「痛み……早く何とかしてあげたいけど……これくらいしか」
 そう言って痛みを和らげようとしてくれる。
「大丈夫です、現代医学は立派です。湿布とか貼れば2・3日で良くなりますよ」
 私は志貴さんの不安を除いてあげようと、少し日数にサバを読んで答える。
 正直、このまま痛いままだったらどうしようとか思うけど、流石にそれはないだろうから。

「現代医学、ねぇ……」
 それでも志貴さんには心配みたいで、顔をしかめていた。自分は現代医学にいい思いが無いからなのだろう。
 
 そうでなければ志貴さんにはあんな「線」も見えないのに……
 でも、そうでなければ志貴さんは私と出会えなかったはず……

「うーん……そうだ!」
 突然、志貴さんは妙案が浮かんだかのように顔を上げる。
「?」
 私はきょとんとして、志貴さんを見る。
「現代医学よりも、もっと効く治療法があるよ」
 にこりと、志貴さんが私を見つめる。
「え……?」
 まさか、おまじないとか……?
 そんな私の思いは、流石に志貴さんの考えでもハズレであって欲しい。

「うん。今日はもう遅いから、明日行くと良いよ」
 そう言いながらもくにゅくにゅと私を揉むその腕の感覚が、とっても気持ちよくなったから
「はい……じゃぁ、今夜はいっぱい……」
 私はそう言って、志貴さんのその柔らかい唇にもう一度触れようと、自分の顔を近づけた時だった……

 

 コンコン

「志貴様、瀬尾様、お食事の用意が……」

「「は!はいっ!!」」
 翡翠さんの無慈悲なお告げに、私達は揃ってベッドで跳ね上がると、慌てて服を身につけたていた。

 

 

 私は見慣れぬ町を歩く。
 一人では迷いそうなその住宅街。
 でも、隣には愛する人がいて……
 手を繋いでくれるその人は、笑いながら私を見ていた。

「手……熱くない?」
 私はぶんぶんと首を振ると、
「そんな事ないですっ!」
 私は全力で否定する。
「志貴さんが握ってくれるなら、いつだって……」
 そう言ってぎゅっと握る私の手は、熱さとは違う汗でぬれているようだった。

「ほら……着いたよ」
 何回目かの曲がり角、現れたそこは思っていたそれとはかなり外見が違っているように見えた。
「ここ……ですか?」
 その思いを隠せず、いささか不安そうに私が訪ねてしまう。
「まぁ、闇医者みたいなモノだからね……」
 そう言う志貴さんの顔には、明らかに今までとは違う汗が滴っていた。


 今朝志貴さんが自ら電話をして、ここに来る事を伝えてくれた。
 ただ、話の途中から志貴さんは少し様子がおかしくなった。
 で、受話器を置くと苦笑いしながら私を見て
「俺も来いだってさ……」
 と、余程イヤなのかため息をついていた。


 一応、家の前には小さく看板があって、辛うじてそれと分かった。

 

 時南医院

 

 でも専門が何とか書いてなく、一目見てこの医者に通おうと考える人は居ないだろうと思った。
「入るよ……」
 まるでそれがお化け屋敷かのように、志貴さんはイヤイヤながらも玄関のチャイムを鳴らしていた。

 


「ようやく来おったか、この半死人が!」
 待合室、と言うには狭いその部屋で待っていたのは、一人の初老の男性だった。
「背は腹にかえられないからな、この藪医者なんかに用はないのにさ」
 お互いかなり物騒な事をいっているが、それは本心からでなくてきっと信頼し合ってるからだろう。
「で、たまに来てみれば女連れとは、貴様も生意気になったもんじゃな」
「なんだ、自分のこと棚に上げて言える立場か?」
 ……そう、思いたいです。

「で、遠野よ。ワシにはこの嬢ちゃんを紹介してくれんのか?」
 私をちらりと見るその瞳は、いかにもそう言う世界を生きる人らしく鋭さを含んでいるが、とても優しそうに見えた。
「は、はいっ!私、瀬尾晶と申します!」
 そう言われて、私はちょっと緊張しながら自己紹介をして頭を下げた。
「はっはっは。そんなかしこまらんでもワシは偉くないわい。わしゃ宗玄、時南宗玄じゃよ」
 宗玄さんは笑って私を制した。
「はい……宗玄先生」
「先生もこそばいゆいわい。そんな風に呼ばれたのはいつ以来かのう」
 と、志貴さんを見て言う。
「なんだよ、宗玄せ・ん・せ・い?」
 志貴さんが強調してそう返すと
「うわぁやめい!気持ち悪くて蕁麻疹が出るわい」
 と、おどけて背中をぼりぼりと掻くまねをした。

「ふふっ……」
 私はそんなやりとりが面白くて、つい笑ってしまった。
 そんな私を宗玄先生が優しく見つめた。それはまるで志貴さんのお父さんのような感じで。
「にしても、こんな男にゃ勿体なさすぎるわい。嬢ちゃんも早くこんな半死半生の男なぞとは別れた方がいいぞ」
 志貴さんを横目に見ながら、宗玄さんは私をからかうようにそんなことを言ってくる。
「なんだよ、さっきから言わせておけば」
 志貴さんも流石にこの人には敵わないらしい。
「んー?反論するなら後で覚えておくことじゃな」
 ニヤニヤとしながら宗玄先生が志貴さんを見ると
「くっ……」
 志貴さんはそれっきり言葉を詰まらせた。

 志貴さんは多分宗玄先生に呼ばれたのだろうけど、何をされるのだろう……?
 正直、自分のことを棚に上げて不安になってしまった。

 が、宗玄先生は私をなにやらまじまじと眺めている。
 私はそれに気付いて、少し縮こまってしまった。
 
「おお、すまんすまん」
 宗玄先生は悪かったと軽く謝ってから言葉を続けた。
「いやぁ、ウチの朱鷺恵にも見習って貰いたいものじゃな」

「……トキエ?」
 その初めての響きに、私は自分で声を出して繰り返していた。

 

 何だか、綺麗な響き……

 

「そうだ!爺さん、こんな事話しててもしょうがないんだよ」

 志貴さんが思い出したかのように声を上げる。

「今日、俺達は朱鷺恵さんに用があるんだから」

 

 そう言う志貴さんの顔は、なんだかとても嬉しそうで。

 少し、嫉妬した。

 

「そうじゃったな、こっちの嬢ちゃんはな」
 そう言うと、宗玄先生は奥の方に向かって呼びかけた。

「お〜い、朱鷺恵。お客さんじゃぞ〜」

「は〜い」

 ぱたぱたとスリッパの音。そして……

「ごめんなさい、診察の準備していたから……」

 そう言って現れた人は……

 

 

 ものすごく、きれいな人でした。