なんて――酷い、夜

この作品は、Moongazer様で行われた「固定シチュ大会・第1弾」の大崎瑞香さんの作品「なんて――酷い」の続きです。まずはそちらをお読みになってからお楽しみ頂けたら幸いです。

 

 

 

 

 

 静まる学園。
 昼間は喧騒に包まれるその建物も、夜間はうって変わって無人の廃墟と化す。
 気休めとばかりに灯される非常口の緑の明かりが、いっそう不気味さを際立たせている。

 そんな無人の廃墟に――姿がひとつ。
 その姿は小柄で華奢というにふさわしい。
 その姿は微塵とも動かず、ただ椅子に座り窓の外から月の光を眺めていた。
 窓の外には満天の月。
 空から注ぐ白光は斜に部屋を照らし出し、彼女の背後の床に長い影を落とす。
 そんな姿が……ふっと笑った。

 スッ……

 無音にも近いそんな扉を開く音も、この静寂には喧騒である。
 誰かがこの部屋に入ってきた音。
 それを聞いて、愉悦の笑みを浮かべていた。

「瀬尾……」

 扉をすり抜けるようにして入ってきた人物は、自分に背を向けている姿に呼びかける。
 それは、驚きに満ちた声ではない。
 約束に遅れた待ち合わせのような、相手の機嫌を伺う控えめな声。
 それでいて、何故かその中に喜びをたたえた声。
 そして……その姿に期待を漂わせ、震えた声。

「先輩、早かったですね。まだ約束には30分もありますよ」

 椅子から立ち上がり、名残惜しそうに月を一瞥して、その姿……晶は振り返った。

「だって……」

 秋葉が続けようとする言葉を

「でもいいですよ。先輩がそんなに私と一緒にいたいと思ってれるのなら、嬉しいです」

 制するように晶が微笑んだ。

「瀬尾……」

 その言葉だけで、秋葉の中で何かが渦巻く。
 晶の唇から漏れ出す細い声に、全身が疼く。
 秋葉の理性が気づかないうちに、心が躓く。

「ほら、今日はこんなに月が綺麗ですよ、先輩」

 と、両手を広げて晶が背後の月に包まれる。
 その姿は何よりも美しく、月に祝福を受けた聖女のようであった。
 秋葉は何も言わず、その光と影のコントラストに目を奪われ、立ち呆けていた。

「だから……先輩」

 と、両手を下ろした晶が声をかける。
 その表情は、これから訪れるであろう楽しみに愉悦を浮かべる。
 先ほどまでの聖女は、何処へ行ってしまったのだろうか。
 そこにいるのは、悪戯に喜びを隠し切れない小悪魔。

「今夜は朝まで楽しみましょう……ね」

 その一言で、秋葉の中のオンナは一気に目覚めた。

「……あぁ……」

 躰の奥から沸き出す熱いうねりが、どうしようもなく襲ってくる。
 その場にじっとしている事など出来ない位に熱い。
 もうその場に溶け去り、淫蕩の海に躰をさらけ出してしまいたい。

 かつりかつりと晶が秋葉に近付く。

「先輩……私の約束は、聞いてくれましたか?」

 と秋葉を見つめ、子供がせがむようにする。

「……」

 その瞳に目が合わせられない。
 合わせたら射抜かれて墜ちてしまいそうで。
 純粋な眼差しに潜むオンナに負けてしまいそうで。
 淫乱な自分に気付かれてしまいそうで。
 理性を保つための必死の抵抗だった。

「先輩……返事してくれなきゃ分かりませんよ」

 目を逸らす先に体を移動させ、尚も覗き込む晶に

「……あぁ、やめて瀬尾……」

 秋葉は首を振るようにして両の手で顔を隠した。

「どうしてですか? 教えてください先輩……」

 最後は潤み声になるような晶の声に、その姿が見えぬ秋葉の体が震えた。

 瀬尾が悲しんでいる。
 私はどうしたらいいのだろう。
 この子を泣かせてしまうのか。
 そうしたら私は……このまま……?!
 嫌。
 嫌。
 イヤ、イヤ、いや、いや……!!

「……」

 秋葉が顔を覆いながら、ゆっくりと首を縦に振った。

「先輩……嬉しいです」

 と、その意味を理解した晶が笑顔に戻る。

「……あぁ……」

 自らの内部に蠢くオンナに負けた秋葉は、全身の力が抜けてしまった。
 自らが望んだ。
 頷くこと。
 受け入れること。
 愛されること。
 墜ちること。
 晶の体にもたれ掛かるようにして、その背中を抱かれる。

「先輩……約束の印を、見せてください」

 と、瀬尾は背中をそろりとひと撫ですると体を離した。

「あぁ……」

 それだけなのに、秋葉がわななく。
 晶のひとつひとつの行動が秋葉を胡乱な気持ちにさせていく。
 触れたそこから広がる甘すぎる刺激が全身を伝搬し、達しそうになる。

「先輩……」

 晶はスカートの裾を掴み、軽く引っ張るようにしておねだりをした。

「……あぁ、見ないで……」

 溜息も熱く、秋葉は言葉と裏腹にスカートを摘む。
 指先が震える。
 恐怖しているのか。
 期待しているのか。
 早く楽になりたい。
 早く墜ちてしまいたい。

 するすると、ゆっくりではあるが秋葉の膝が露わになる。

「まだですよ、もっと上まで。そうです」

 まるで劇場の幕が上がるように、緞帳に似たスカートが持ち上がる。
 それを確認すると、早く芝居を見たい子供のように晶はかがみ込み、秋葉の細く白く美しい脚を見つめる。
 晶の声に従順に腕を上げていく秋葉。
 その膝から白い腿が月光に晒され、そして……

「先輩、光ってますよ?」

 これからという時、唐突に晶の声がした。
 びくりと体を強張らせ、秋葉の動きが止まってしまう。

「あ、しかもその周りはいっぱいべとついてます。先輩、あの後もまさか……?」
「いやぁ……」

 落涙も瀬戸際の様な声で秋葉が首を振った。
 晶がそう望んだから、いじらず、履かぬないままでいたのに。
 恥辱と悦楽に震え、期待していたが為。
 何度も妄想し、しかし鎮められずに。
 何度波を迎え、そして内股を濡らし、身を焦がしたか。
 狂い、舌を噛み切って死んでしまいたい程の切迫感。
 決して許されぬ接触に雁字搦めに縛られ、震え続けた。

 だというのに、瀬尾は……

「スカートの中から先輩の臭いがいっぱいして、いやらしいです」

 くんくんと臭いを嗅ぐようにして、晶がスカートの裾まで顔を寄せた。

「先輩、ずうっと濡らしていたんですか?」

 嬲られる。

「夕方から夜、そうして今の今までずうっとこうして濡らしていたんですか?」

 驚きであるかのように目を開きながら、晶の口からは言葉が生まれ続ける。

「お食事をしている時も、蒼香先輩達と話をしている時も、その間中……」
「もう……やめて……瀬尾……」

 恥辱にまみれ、体をわななかせて首を何度も左右に振る秋葉の髪が跳ね、さわさわと音を立てる。

(綺麗です……先輩)

 晶はその艶やかに光を跳ね返す絹の束の乱舞に陶酔し、見つめ上げる。

(そんな先輩がいけないんです、私をこんなにおかしくさせるから……)

「どうしてですか? だって、ほら……」

 と、すっと晶の手が伸びるようにして秋葉のスカートの中に一瞬消えた。
 その動きを追えぬままの秋葉に

「……ひいいぁっ!!」

 ぞくりと、総毛立つような感触。
 晶の指が、秋葉の内股に触れる。

「こんなにべっとりと粘っているのに……」

 と、押しつけた指の力をゆっくり解き、引くと

 ニチャァ……

 糸を引く程の秋葉の生乾きの音が響いた。

「あああぁ……」

 わが身が奏でたその音色に、秋葉の精神が揺さぶられる。
 ああなんて――厭らしい、音。
 私はなんて――浅ましい、女。
 瀬尾に触れられ、言葉で責められて悦びを溢れさせている。

 そんな秋葉をよそに、晶は指に付いた粘った液体を、2本の指の腹でこねてから離す。
 またそこで糸を引くその片指を、晶はおずおずと口に運んだ。

「ふふっ、また先輩の味だ」

 そう言って喜ぶと、立ち上がってもう片方の指を秋葉の唇に触れさせた。

「先輩もどうぞ、お裾分けです」

 秋葉は一瞬立ち上がるその臭いに口を噤みたくなったが、しかし許されぬそれに抗うことも出来ず、力を抜いてしまう。
 押し込まれるように晶の指が秋葉の口内を犯し、舌に触れ回って味わされる。

「先輩ったらこんなに美味しそうに、淫乱ですね」

 口の中で指をぐちゃぐちゃに掻き回されながら、晶の言葉に秋葉が素直に従ってしまう。

「んっ……んあっ……」

 秋葉は口に広がるむせるような味に嘔吐感を覚える。
 なんて――酷い仕打ちなのだろう。
 自分のはしたない露をこうして口にねじ込まれて、それにあらがえない自分がいる。
 それどころか、瀬尾の指がこうして舌に触れている事実に……喜んでいる。
 事実、秋葉の中からは新たな熱さが沸き出して、躰を伝わりその表面に浮き上がる。

「や……やめて……瀬尾」

 秋葉は指を突っ込まれたまま、弱々しく否定した。
 しかしそれは思わず口を衝いて出てしまった言葉。
 本当はやめて欲しくなんて無いのに。
 くだらない冗談に「ウソ?」と返すような、そんな無意識の反応。

「あら? ならやめちゃいますよ、先輩?」

 なのに、晶はそれを真に受けてしまう。
 晶はそう言って、すっと指を引き抜く。
 秋葉から離れるそれは濡れ光り、そして熱かった。

「あ……いや……」

 秋葉が、困惑した声で呟いた。
 そんなつもりじゃなかったのに。
 私はやめて欲しくなかったのに。
 どうしてあんな言葉が出てしまったのか。
 ワカラナイ。
 ワカラナイから、泣きたくなった。

「どうしてですか? 先輩がやめてと言ったんですよ」

 晶は自分の指を見つめながら、秋葉に笑いかける。
 そうして、自分の指にまとわりついている秋葉の唾液を舐めた。
 ぴちゃぴちゃとわざと音を立て、舌でこそげ取るように。
 それさえも嬉しい行為が如く、晶の目は妖しく光る。

「いや……」

 秋葉は頭を振る。
 瞳の奥からじわりと溢れるものを感じる。
 狂おしさから溢れ出す涙。
 初めてそんなものがあると知ってしまった。
 溜まった涙は、やがて秋葉の美しい曲線を伝い、顎にかかる。
 そこでふたつの瞳からこぼれる涙はひとつの雫となり、床に落ちた。

「……やめないで……」

 震える声に、晶が秋葉を見つめ直す。
 滲む視界に写る晶の姿は不思議そうにしていた。
 しかしその表情の中にオンナの笑み。

「先輩、泣かないでください」

 晶は悪びれた様子もなく微笑む。
 自分の思うように次々と表情を変える秋葉に、震え上がりそうな程の悦びを得る。
 そんな秋葉が愛しく、狂ってしまいそうな程。

「先輩がいけないんですからね。私をこんなに狂わせて」

 そう。
 狂いそうな程の愛情。
 同姓であるが故の愛情。
 次々に見せるオンナの表情が。
 晶を、こうして興奮させていくのだった。

「ほら……」

 と、晶がついと一歩歩み寄る。
 晶の両手が、秋葉の顔を包み込むように置かれる。
 顔を固定されるような格好で、秋葉が晶を見つめ。
 また晶は秋葉を見つめていた。
 上目遣いの晶の瞳。
 僅かに潤んだ水晶が秋葉のこころを縛りつける。
 少しだけ困ったような表情が、あまりにも扇情的に感じる筈なのに。
 月の光に写ってか冷たく見える瞳。
 自分のどろどろに溶けそうな熱い瞳とは対照的に、酷く落ち着いた瞳。

「先輩のこんな顔も、愛おしいです。そして涙も……」

 そうして、その可愛い舌を覗かせ。
 ゆっくり、唇に触れるような動きから……下降した。

 ぴちゃ……

 晶はそのまま、秋葉の顎に溜まる涙の雫を舐め取っていた。

「ひゃ……」
「だから、先輩の涙は全部、私が……」

 そう言うと、晶の舌が動き出す。
 顎からどちらかを一瞬思案した後、ゆっくりと秋葉の右目に遡るかのようにして舌が這い上がっていった。

「ああ……」

 そのぬめりとした感触は、秋葉のこころに新たな気持ちよさとなって伝わる。
 顔を舐められる、そんな行為なのに。
 背け、嫌悪すべき行為だと思っていたのに。
 胡乱なこころにはそれが甘美で。
 総毛立つような生暖かさが、躰を熱くした。
 あまりにも遅いその動きがもどかしく、躰がもっと強い刺激を求めてしまう。
 もっと。
 もっと。
 もっともっともっともっともっと!

 だというのにそれはキャンバスに油絵を塗るような遅さ。
 何度も何度も同じ道を少しずつなぞり、そろりそろりと上がってきていた。

「ああああああ……」

 一定のリズムで、あまりにゆっくりとした動きはこころを融かし。
 そして狂わせていく。
 いつ発狂してもおかしくない秋葉を愉しみ、晶は頬を舐め、そして瞳に向かった。

「ひゃ……」

 漸く涙の源泉まで到達した舌先に、思わず秋葉が瞳を閉じた。
 今はきっと、その瞼をも舐め取られる。
 睫の一本一本までも、瀬尾の唾液に絡められても構わない。
 それが、秋葉には悦びとなるはずであった。

 しかし。
 晶の動きはいつまで経っても無かった。
 暗黒の中、頼りは頬に添えられた晶の両手。
 網膜に写らない先で、何を思い、どんな表情をしているのか。
 触覚を頼りに思いを全力で巡らす秋葉だったが、ワカラナイ。
 言い得ぬ不安が秋葉を蝕み始め、訳も分からず震えそうになる。

「目を開けてください、先輩」
「え……?」

 漸く聴覚に響く待ち望んだ刺激。
 その命令は穏やかで、しかし強い響きを持ち。
 意味を咀嚼し、嚥下する秋葉は決して逆らうことがなかった。

「……」

 瀬尾が望んでいるから、私は……
 それに従い、秋葉が目を開ける。
 と

 

「ひゃぁっ!」