8年もの……




「はぁ……」
 公園のベンチに座り、ため息をつく。
 どうしたものか、と考えるだけで頭痛がしてくる。
「そりゃあ、俺にだって問題があるのは分かってるんだけど、もうちょっと……」
 と言ったところで、公園の空気がぎゅっと圧縮される感覚。
「……仲良くなれないのかなぁ」
 はぁ、ともう一度ため息と同時に

 ガキイッ!ズシャァ!

 それは騒々しい音が響き渡った。突き刺さる剣、えぐれる地面。

「もう……」
 ふるふると肩が自然に震え、自分の我慢の限界を越えたのに気付いた。
「いいかげんにしてくれー!」
 と、ぴたりと嘘のように音は止み、そこには互いに構えた格好のまま、キョトンとしてこちらを見る二人。

「どうしたの志貴?あ、やっと私に決める決心がついたんだね?」
 ニコニコと屈託のない笑顔でアルクェイドはこっちを見つめる。
「違います!志貴君は私を選ぶ事に決めたんです!」
 シエルは反論しながらも結構大胆な事を言う。
「ふーん、言うじゃない?」
「続けますか!?」
 また始まりそうだったので
「アルクェイド、シエル!いい加減にしてくれ……」
 と、また頭痛に苛まれる。

 アルクェイドとシエル、どうしてこうも犬猿の仲なのか。
 ロアは消滅した。そして、俺はシエルを大切にすると誓った。
 でも、俺はアルクェイドに生かされてる。それは仕方の無かった事。
 アルクェイドに好かれているのは、まぁ男としては悪くない。
 ただ、アルクェイドはなにかとシエルをからかい、いつもこうなる。

 どっちかを選べ、と言われればシエルを選ぶかも知れない。
 が、アルクェイドの意思1つで俺は灰に帰するかも知れないから、表だって選べるわけがなかった。それがいつもの俺の曖昧な返事になっているわけだ。
 シエルだって、それを十分理解しているのだろうが、どうしても頭に血が上りやすいと言うか、横恋慕が許せないらしい。
 
 アルクェイドには、そりゃぁ……色々とお世話にもなっている。実はシエルの前では余裕にしながらも、実はベッドでは初々しい……っと、これ以上は考えないようにしよう。
 まぁ、シエルは嗅覚がいいから俺にアルクェイドの臭いを感じるとそれを消そうと躍起になって……結局、俺が2人分の「お相手」をして気を吐けば済む事だ。

 ……夜の話はともかく、今は目先の問題が先立ったな。

「頼むから、喧嘩だけは止めてくれ……」
 言うだけ無駄と分かりながら、それでもこんな言葉しか出ない。正直二人が仲良くすれば3P……じゃなくて、解決策がないのだから仕方がない。

「志貴、疲れてるね。シエルがアバズレだから大変なんでしょ?」
「違います!あなたが志貴君を苦しめてるからでしょう!」

 全く、こんな端から見なくても痴話喧嘩を日中最中から……ここは今、シエルの結界の中か。
 
「そっちが!」
「あなたが!」

 結局、また姿をかき消し(見えないだけだが)闘う二人。

 もう、こうなったら藁をもすがる思いだ。……こんな問題、すがる藁もないだろうけど。

「先生、助けてよ……」
俺がふと、その言葉を発した時だった。
「呼んだか、志貴?」
「!?」
 それは、この結界の中では聞けるはずのない声だった。
 ……そう、その人が普通の人なら。

「?」
「!?」
 今までつかみ合っていたアルクェイドとシエルも動きを止める。
 全員が聞き覚えのある声。
 それは

「志貴、久しぶり」
 と、俺の座るベンチの後ろ、いつも通りの大きな鞄を持って……
「先生……!」
 思わず、立ち上がってしまう。
 
 そこにいたのは、確かに先生だった。目をこすっても、その姿は消えない。
 あの時と同じ、Tシャツにジーンズの格好で、そこに立っていた。
 驚きと、嬉しさと、懐かしさと……でも、どうしてここにいるかが分からなかった。

「まぁ、予想通りね。話には聞いてたけど随分苦労してるみたいだな」
 目の前の二人を軽く見やりながら、皮肉混じりに先生が言う。
「ちょっとブルー。何しに来たのよ」
 アルクェイドは訝しげに訪ねる。
「どうして……結界があったのに」
 シエルはそれ以上に自分の結界がいとも簡単に通過された驚きと、相手が協会側だと言う事で余計力がこもっていた。

「あんな結界、突然街中にドカンと張られちゃ、誰だって気付くわよ」
 誰だって、の定義が違う事はこの際気にしなかった。
 助けてくれる……そんな期待が押し寄せてきた。
 
 のに……
 
「あんたたち、人が先に目を付けた子に手を付けるなんて、はしたなくない?」
 なんて先生が言ったからたまらない。
「な!?」
 俺も、アルクェイドもシエルも驚愕する。
「8年前、志貴にツバを付けたのは私よ」
 と、その何が入ってるか分からないトランクを置き、ベンチを後ろから飛び越えるようにして俺の横に着地する。
「な……」
 俺が言葉を発しようとした時だった。

「何を言ってるんですか!!」
 と、真っ先に反論したのはシエルだった。
「志貴君は、私を選んだんです!もう、決まってる事なんですから!」
 語気を荒げ、反論してくれるのが嬉しい。が……アルクェイドがそれを制する。
「それなら、私にも言わせて頂戴、志貴は、私が血を与えたからこうして生きてるのよ。私に従って貰わなかったら困るわ。まぁ、志貴なら特別に自由にしてあげるけどね」
 何気にこちらにアピールしながら、きっちりとシエルのウィークポイントを付く。その辺はアルクェイドに分があるかもしれない。

 だが先生はそんな言葉に耳も貸そうとせず、俺の眼鏡を取り上げると
「8年前、私がこれを志貴にプレゼントしてなかったら、そもそも遠野志貴の存在はここに無かったわ。あなた達がこうしていられるのも、全て私のお陰だと思わない?」
 そうキッパリと言い放ち、俺に眼鏡を返してくれた。

「くっ……」
 シエルが言葉を詰まらせる。反論できない、その表情から見て取れる。
「それは……」
 確かにそうだ。この眼鏡が無ければ、俺は狂死か殺人鬼だったに違いない。先生には言葉で言い表せない感謝がある。
 しかし、わざわざ火に油を注ぎに来なくても良かったのに……さらに頭痛がしそうだった。

「ふうん、言ってくれるじゃない」
 と、アルクェイドは構える。見ればシエルは既に無数の剣を突きつけていた。
「仕方ないわね……」
 やれやれと、先生もため息をつきながらも目の色を変える。
 結局、三つ巴になるだけで話が進展しない、そう思った時だった。

「ん?」
 と、先生が唐突に上を見上げる。
「???」
 そこにいた全員が、吊られてその方向を見やる。
 後になって考えれば、結界の中だから何かがあるわけがなかった。でも、それに気付く前に全てが片づいていた。

 ふっ、と先生が腕を振り下ろす気配がした。と、同時に……

 何だか分からない閃光に視界を、音とも感じられない衝撃に一瞬で意識を奪われた。

「ん……」
 目が覚める。どこかの室内らしい。
「お、目覚めたか」
 先生の声がする
「ここは……?」
 まだはっきりしない意識で、そう訪ねる。
「まぁ、秘密のラボとでも言っておこうか」
 どうやら助けて貰ったらしい。とりあえずお礼を言わなきゃ。
「先生、ありがとう……」

 ギシリ

「!?」
 体を起こそうとして、それが動かないのに気付く。
「な?ななななな!?」
 見れば、手足に枷がかけられて、身動きが取れない状態にされていた。
「せ、先生!?」
 助けられたはずなのに捕らえられてる?
 なのに先生は、さも当たり前のように
「大丈夫、ちゃんと鬱血しないようにしてるから」
 さらりと答えるからたまらない。
「そう言う問題じゃなくて……」
「あ、どうやってここまで来たかって?さっき投げたのは本当は目くらましのつもりだったけど、ちょっと威力がありすぎたみたい。耳栓してた私以外は全員伸びてたよ」
「違います……」
 俺が半ば呆れると、先生は目を輝かせ
「だって、折角志貴を連れてきたんだもの、逃げられちゃ美味しくないでしょ?逃げないって言うなら外してあげてもいいけど、どうしようかな?」
 ちょっと、キャラに合わない事を言ってる。
「美味しくないって……」
 俺は意味が分からないようにかえした。

「志貴、8年もの間待たせてくれたわね。本当はあの時いただいちゃっても良かったけど、なんか死相が出てたし、流石に子供過ぎかなと思って、今まで我慢してたの。まぁ、ちょっと最近忙しい間に先に味見されちゃったみたいだけど、そんなのあまり気にしないわ。童貞狩りとか趣味でもないし」
 
 ……ワカラナイ。先生はどうしてそんなキラキラとした目をするんですか?

「ほら、ワインは出来た年も美味しいけど、寝かせるともっと美味しくなるじゃない?私はボジョレー・ヌーボーも好きだけど、寝かしたワインも好きよ」
 先生は嬉しそうに、俺の目の前までやってくる。
「志貴、本当あの時のままの顔立ちで更に端正になって成長してくれたわね。お姉さん嬉しいわ」
 俺の顔を舐めるように見つめ、ウットリしてるんですけど……

「さしずめ志貴なら「8年もの」、と言ったところかしら」

 フフフと、妖しげな光が見えた気がした。
「いただきます」
 と、先生は突然に俺の唇を自分のそれで塞いだ。
「んっ!?」
 俺が反論する前にすぐさま舌が差し込まれる。状況に不釣り合いな艶めかしいその感触に、一気に俺の気力が奪われる。
 気付けば舌を絡め、そのキスを味わい尽くしていた。

「ふふっ、誰に教わったのかしら、上手いじゃない」
 と、唇を離して先生が呟く。口の端からこぼれた二人の唾液が劣情をそそる。
「せ、先生……」
 正直、気持ちが付いていけなかった。今まで尊敬してたのに、突然横に殴られたような感覚。
「志貴、私の事嫌い?」
 ぐっと、視界が先生で埋まる。その少し悲しそうな目に、鼻孔をくすぐるえもいわれぬ香りに、思考が完全に停止する。
「いや……」
 否定。
 嫌いじゃない。でもそれ以上ではなかったのに……

 先生は優しく笑うと
「君の事考えると、なかなかいい男がいなくて最近ご無沙汰だったから、8年我慢した分たっぷり相手して貰うわ」
 目の光を恐いほどに輝かせていた。

 あ、騙された……が、気付いた時には遅かった。

 先生が、首筋を妖しく舐める。
「ああっ……」
 柄にもない、女性のような声を出してしまう。
「これよ、これ。久しぶりで快感だわ……」
 先生がウットリと、それを眺めて続けてくる。その舌使いに翻弄され、俺は悲しくも嬌声を上げ続ける。
「そろそろ、こっちもいいようね」
 と、動けない事をいい事に俺の下半身に近付き、ズボンのジッパーを下ろしてしまう。
「せ、先生……!」
 いくら何でも気後れするが、そんなの構ってくれない。そのままトランクスをまさぐられ、先生の愛撫で悲しくもいきり立ってしまっていたそれを露わにさせられた。
「凄い、これが志貴の……思った以上だわ」
 と、先生も息を呑む。が、すぐに取り直して
「ふっ……むぅ」
 と、チロチロとその先端を啄み始めた。
「くっ……!!」
 その刺激に頭が白くなる。

「志貴、気持ちいい?」
 先生がこちらを見上げながら聞いてくる。
 気持ちよくないわけがない。
 でも、そこでそれを認めてしまうのは、自分が許せなかった。先生のこの行動を受け入れてしまいそうで。
「気持ちよくなんか……」
 そう、反論しようとした時だった。
「志貴、見え透いた嘘はいけないわよ」
 先生はニヤリと、あの時に重なる事を言う。
「そんな……」

 ダメだ、ダメだ、ダメだ……

「……気持ち、いいです」
「そう、男の子は素直じゃないとね、可愛いわ」

 抗えずに本当の事を漏らしてしまい、先生は満足そうだった。
 そのまま、先生は全体を含むようにして、俺をくわえ込む。あまり積極的にされた事がないから、強烈に新鮮な刺激だった。陰嚢の方まで優しく揉まれ、たちまち限界に近付く。
「やめて……先生……出ちゃう」
 それはダメだった。何とかして、先生に離れて貰おうとするが
「いいのよ。志貴の精液、口の中に全部頂戴」
 と、先生は更に奥深くまでくわえ、なおかつ先端を舌でぬるぬると撫でさする。

「……!」
 びくりと、俺のモノが跳ね、欲望を放出してしまう。
 先生は、それを嬉しそうに受け止め、味わうように音を立てて嚥下した。
「ふう……凄い濃いわ。美味しい。ワインとか言ったけど、これなら白って事かな?」
 妖しい目で、先生がほうと息を付く。正直、その姿が艶めかしくて、そそられてしまう。
 ビクッ、と悲しくモノが反応してしまう。それには流石に先生も驚いたらしい。

「凄い……まだ元気。私もそろそろ我慢できないわ」
 先生はするりとズボンを脱ぎ、ショーツを引き下ろす。そしてそのまま俺の上に乗ってきた。
「ふふっ……濡れてるでしょ。志貴の銜えてたらこうなっちゃったのよ。こんな事なかなか無いのに、自分でもビックリしてるわ。それほど私も志貴がいいみたいね」
 と、先生はいやらしく自分の秘裂を開いてみせる。ニチャリと音を立て、既にそこはとろとろで、すぐにでも男を受け入れたがっていた。
「だから志貴、一杯楽しませてね……っ」
 と、そのその開いた花唇を、ゆっくりと俺のモノにあてがい、腰を沈めていった。
「あっ……深ぁい。やっぱりいいわ……」
 俺の全て飲み込むと、今度はグラインドを開始する。最初はゆっくりに、段々と激しく。
 目の前の先生が、まるで違う人のようだった。こんなに乱れるなんて信じられない。
「ああっ、志貴!いい!!」
 先生は、髪を揺らしながら聞いた事のない様な甘い声で叫ぶ。
 
 先生の中は、信じられないくらいに気持ちよかった。ぎゅうと締め付けながらも、優しく俺自身を包み込み、うねうねと襞が全体を刺激してくる。それは今までの誰とも違う、名器とも言える動きだった。
 目の前で大きく揺れる先生の体。胸がそれに合わせてシャツ越しに上下するのが、目をも刺激する格好となる。
 さっきあれだけ出したのに、もう次が迫ってきていた。

「だめ……もうっ……」
 俺が弱々しく発すると、先生の動きが更に大きくなる。
「あっ、私も!どうして、いつもより早い!!」
 自分の意外な速さに驚きながらも、それを受け入れて先生が喘ぐ。
「志貴、膣に全部出して、志貴の濃いの、妊娠させるくらい奧に!!」
 と、がくがくと体を大きく揺らし、先生が反り返る。
「あっ、ああっー!!」
 と、ぎゅうと俺を搾り取る感覚。俺もそれに逆らわずに、欲望のまま放出してしまった。
「あっ……」
 子宮口に、ドクドクと噴出が当たっている。収縮に合わせての生殖に似た行動。しかしそれは快楽の享受の為だ。

 全てを出し終えると、先生がゆっくりキスをしてきた。
「志貴……凄かったわ。こんなの初めてよ……」
 と、舌を絡めてくる。
 それに答えてしまいながら、これからの事を考えようとした時だった。

「でも、まだ全然始まったばかりよ」

 と、先生は妖しげな声を出す。
「え?」
  気付けば、俺のモノはまだ先生の中にあり、その絶妙な締め付けに元気を取り戻しつつあった。
「ほら、また元気。志貴って底なしね、これで彼女たちを悦ばしてるのね?ちょっと妬けたわ」
 先生が少しいじらしそうに言う。それが可愛い……じゃなくて
「せ、先生!?」
「あら、これで終わりなんて言わないわよね?8年よ、8年。それこそその間に何百回出来た事か。今からその埋め合わせをして貰うからね。手加減は無しよ」
 と、かちゃりと音。
 気付けば俺のモノの根本にリングが。
「な!なな!!」
 これじゃ射精できない……じゃなくて、終われないじゃないですか。
「この調子だったら大丈夫そうだけど、しばらく射精は我慢して起て続けなさいね。一杯楽しませてもらうから。ほらソムリエが言うじゃない、ワインは噛むようにしてゆっくり味わえと……ね」
 と、腰の動きを再開させていた……


「はぁっ……んんっ……」
 センセイノコエガ、サッキカラヒビキツヅケル。
 ドレクライ、コウシテイタノダロウカ。アタマガ、オカシクナリソウダ。
「志貴……離さないわよ……誰にも……」

 アア、アルクェイド、シエル、ケンカシテモイイカラタスケテクダサイ……



後書き

 リクエスト妄想具現化第一弾、「志貴×先生」、如何でしたか?
 正直難産でした。自分の中でえちい話に持って行きにくい組み合わせでしたので。でも、そこは何とか頑張りました。お客様は神様ですから!(笑
 確か、先生は美少年を飼ってるなんて設定があったので、ショタ風味に味付けてみましたが、なかなか上手くいかなかったり、それ以前に口調が統一されてない所も勘弁してください(苦笑
 結局志貴を壊して、稀代の先生ぶりを発揮してますね(ぉ

 ちなみに、この話の設定はシエルルートのグッド後の設定です。で、志貴はアルクェイドも当然のようにいただいちゃってるので、彼の経験した相手というのは順に、朱鷺恵さん・シエル・アルクェイドそして先生になるわけで……全員年上じゃん、羨ましい(ぉ
 いやぁ、朱鷺恵さん話書いてからというものの、今まで見向きもしなかった年上もいいかなーなんて思っちゃったりしてます(笑
 いや、でも全然年下の方がいいですよ?そりゃぁ僕は志貴宜しくヴァージンキラー大万歳ですから(爆

 ともかく、リクエスト下さった天戯さん、ありがとうございました!