Aqua Lovers
「……あちぃ〜」
カンカン照りの太陽、空には雲一つ無く。
畳の上で寝そべっていても、徐々に体力を奪われていく気がする。
暑いとは分かっていても、そして言ってはいけないと分かっていても口を衝いて出てしまう言葉に、正直うんざりだ。
で、
「暑いねえ、シロウ……」
それは一緒にいるイリヤも全く同じなようで。
というか、恐らく日本の夏は初めてだろうから、流石に俺以上に堪えている様子なのだが……
「……じゃあさ、イリヤ」
「なあに?」
そこで俺はある一つの提案をする。
「こう、もうちょっと離れようとか思わないのか?」
「イヤ」
「……はあ」
が、にべもなく断られると思わず溜息が出てしまった。
そうなのだ、イリヤは俺にぴったりと身を寄せ、何故かこの殺風景な部屋の中心で一緒に寝ていたりする。
夏休みに入ってしばらく経つが、暇を持てあましているのは俺達位だ。
藤ねえと桜は部活だし、遠坂は先週からロンドンへ行ってるという。
イリヤはそんな中、俺の家へ夏休み中は居候としてやって来ていた。
が、日中やる事のない俺達はこうして暑さをやり過ごすのに必死になっている訳で、しかしどうにもお天道様は無慈悲だ。
「おまえの部屋にはエアコンだってあるのに」
俺はイリヤの為にあてがった離れの部屋に据え付けられたそれを思い出す。が、
「あれはダメ。人工の冷風は苦手」
「そうですか……」
俺がパタパタと団扇であおぐ先でイリヤはぴしゃりと冷たく言い放つと、何を思ったかすりすりと身を寄せてきた。
「うわ、やめろ」
絡まれて思わず非難の声をあげてしまうも、イリヤは意に介してくれない。
「それにね、一人であんな所にいるよりも、シロウと一緒にいた方がいいんだから」
その言葉はありがたい。ありがたいけど勘弁してくれ。
イリヤの小さな身体は柔らかく、確かにこの暑い中でもいい匂いがしてきてたまらないのだが、今全てに優るものは温度だ。
「なあにシロウ? じゃあシロウはわたしと一緒にいるのがイヤなの?」
「え、え?」
が、挑発するようなその言葉に思わず首を上げ、イリヤを見つめてしまう。
「そ、そんなことないぞ……」
そんな、イヤな訳がない。というか出来ればいつでも一緒にいたい……のだがそれは主に涼しくなってからの方がありがたい訳で、でも確かに欲求は傾いたりしたり……うう。
「……ふうん」
そんな風に思いながら一人複雑な顔を浮かべていた俺を見たからか、イリヤは俺の胸に這い上がると少しだけ身体を起こし、頬へと手を当ててきた。
斜めに見下ろしてくるイリヤの顔は、俺を支配した瞬間にだけ見せる妖艶な『貌』。
夜にしか見られない筈のそれを記憶から叩き起こされ、暑さの中で急に全身がゾクリと震える興奮があった。
「あれだけ毎晩涼しくなるとすりすりとくっついてきた上で激しくしてくれるのに、昼間はほっぽりなのかしら、シロウ?」
「……」
その言葉に、この娘は最早少女なんかではない、と改めて思い知らされていた。
少女でなくしたのは、俺だ。
だが、殻を脱いだ少女は、そこから俺が想像していたよりも遙かに沢山の事を吸収していって、今や俺が少年の様に翻弄されることもしばしば。
で、そんなイリヤとこの休み中ずっと毎晩何をしているかと言えば……言えば殺されるかもしれない。だが事実は事実だし、それこそここ最近は毎晩俺の部屋で……今だって実は、昨晩と状況が違うとすれば、布団がないことと時間くらいだ。
「ふふふ……」
本当にどっちが年上なのか分からなくなるような、余裕に溢れたイリヤの笑み。
ニヤニヤと楽しそうに俺の頬を撫で、顎から首へと指が落ちてくる。
「……」
そんな姿になんともむず痒い気分。指は俺の胸へとつつつと辿り、誘っているようにも思えるからたまらない。
一度火がつくとイリヤは簡単に止められない、そんな記憶を辿りつつ首を傾けて指先を追うと、イリヤの身体が目に入った。
真っ白なノースリーブワンピース。
首の所も大きくカットされて、いかにも涼しそうな格好ではあるのだが……その格好が故の光景。
開いたワンピースのそこから、イリヤの小さなピンク色のポッチ。
ノーブラだから、寝そべっているイリヤの胸は無防備に俺へと晒されていた。
小さな女の子の服の隙間から可愛い先端が見える、そんな状況は見慣れているものでも来るものがあって、
「……ん〜」
思わず声が出てしまう。
「?」
と、そんな俺に一瞬疑問符を浮かべたイリヤだったが、視線の先を見て理由を知ったらしい。
「えっち」
さっきまでの濡れた瞳はどこへやら、いきなりおかしそうな表情でにっこりと笑った。
この、コロッと変わる表情がイリヤだ。屈託のない笑顔で人のことを見下ろして、すっかりじゃれついた様子に早変わりしてしまうのだから凄い。
ツン、と鼻を突かれる。
それはちょっとした照れ隠しなのかも知れないが、しかし胸を隠そうとはしない。見られてるのにそうしているのは、きっと俺だからかな……なんて考えると嬉しくて……
「シロウ」
と、そこでイリヤの顔が近づいてきたから、俺も自然に位置を合わせ……唇を重ねていた。
「……」
ちゅっ、ちゅっと啄むようなキス。差し出した俺の唇に楽しそうに触れ、更に舌を使ってその表面をペロッと舐めてくれた。
柔らかく暖かい感触。キスをするだけでこんなにハッピーな気分になれてしまうのだから、人間って不思議だ。
「ん……」
くちゅ、っとイリヤの舌が進入してきた。俺は拒むことなく受け入れて、早速出会った二人の舌は楽しくじゃれ合い始める。
ちろちろと舌先同士で小さな追っかけっこをして、捕まえたらちゅっと吸い付く。そんな遊びは楽しくて、じわりと浮かぶ額の汗も忘れさせてくれる気がした。
鼻で息をしながら一瞬でも離れないように、イリヤと唇でえっちなことをする。絡み合って口内は沸騰する位に熱いけど、それは暑さと違うからやめる理由になんてならない。
きゅーっと俺の首を抱きしめて、イリヤが唇をより密着させてきた。一部の隙間もないように塞がれて、イリヤの唇ごと食べてしまいたい気分。
と、小さく開いたイリヤの奥から、とろ……っと送られてくる唾液。
すっかり大人のキスが大好きになった少女から、蜜を受け取って俺はこくんと喉を鳴らす。さっき食べていたバニラアイスの味がちょっとだけ残って甘い、でもそれ以上にイリヤのものだから甘く思うそれがじわりと身体の中に広がると、なんだか自分がイリヤの一部になったみたいで嬉しかった。
おいしかったよ、という返答を舌で合図する。
「ん……」
イリヤは嬉しそうにそれを受け止めると、目の前でにっこりと微笑んでまた唾液をくれた。それを一滴もこぼさずに、汗で乾いた喉を潤す甘美な蜜として何度も嚥下していた。
「……」
そんなキスの最中、イリヤの身体がふと動く。片手は俺の首筋に回したまま、もう片方の手が俺の身体をさするようにして降りていき……
「ん」
と、その手がたどり着いた先を確認してから、イリヤはおもむろに唇を離していた。
「……まだ半勃ち」
「うっ……」
そしてにべもないきつい一言に、思わず出てくるうめき声。
この暑さでバテている訳ではないのだが、起つ物のスピードがイリヤの想像より遅かったらしい。ハーフパンツをテント状にギンギンと盛り上げる……にはほど遠く、確かにようやくむっくり目覚めたと分かる程度。
「む〜。……しゃぶればおっきくなるかなぁ?」
そんな俺の股間をズボンの上からさすりながら、如何にしておっきくしようかと神妙な顔。
「そりゃそうだが……」
不釣り合いな状況に思わず苦笑しながら同意するも、そっちの方は相変わらずイリヤの愛撫にもヘロヘロなわけで。
「ん〜、とりあえずシロウが本気になってくれなきゃ」
と、そこで諦めたのかイリヤはさすっていた手を離すと、俺の上に馬乗りになった。
「へへへ〜、シロウ?」
見下ろしてるイリヤの表情はすっかりパパの上の娘だが、そこからの行動はちょっと違う。
「ほら、見て見て」
ワンピースの裾を摘んで翻すと、惜しげもなく白い内腿とショーツがお臍と共に露わになった。ローライズと呼ぶらしい小さなショーツが辛うじてイリヤの大事な所を隠しているだけで、健康的で素晴らしい姿はまさに眼福。
「こーふん、した?」
「……ちょっとだけ」
だが、どうにも見慣れてしまっている所為もあってか、興奮にはちょっと遠い。
「むう〜……」
そんなやる気満々の自分に対して乗り気が足りない俺が気に入らないらしく、イリヤは唸りながら下馬した。
「どうした?」
改めて俺の横にばふっと倒れ込みながら、ちょっと不満げに俺の瞳を見据えるイリヤ。
「だって〜、シロウが本気になってくれなきゃヤ」
「うう、スマン」
そんな言葉には、素直に謝るしかなかった。
イリヤが積極的なのに男がこうとは情けなさ過ぎだ。この貸しは夜にたっぷり還元したいが、今だから燃え上がるモノがあると言いたげなイリヤに見つめられると……自分の股間を激しく打ち付けてやりたい気分にも駆られる。
「いつだって、お互いが気持ちよくならなきゃセックスじゃないよぉ……」
「ああ……」
それは、イリヤのちょっとしたこだわりだ。俺も同意だし真理だろう。最初はもうがむしゃらに愛し合うだけだったけど、経験を重ねてきて少しずつ見えてきた。
だからこそ、今も片方だけが満足するえっちは許さないから、ポリシーに反してまでワガママを押し通す気はなくなったらしい。
しかし、そんなイリヤの欲求不満を思えば、流石に俺だって罪悪感はある。
「もうちょっと涼しくなったら、いっぱいしような……」
ぼんやりと天井を見つめながら、妥協案として納得して貰うしかなかった。
「あとどれくらい?」
抽象的な表現に、具体案を求めるイリヤ。
「……あと十度」
「え〜」
「じゃあ七度」
「大差ないよ、シロウ……」
そんなやりとりを繰り返しつつ、俺はイリヤをぎゅっと胸に抱いた。少々暑くてもこれ位しなければ、なんだかイリヤばっかりかわいそうだ。
「む〜、じゃあ、七度でいいよ……いっぱいしてね」
抱き寄せて胸にすっぽり埋まったイリヤは頬を少し膨らませながらも、抱きしめてあげたことには喜んでくれた様子。
「ああ……今夜は寝かせなくてもいいか?」
「うん。どうせ明日も暑いだろうから、昼間は諦めてエアコンつけて寝てる……」
「なら、俺も一緒に寝かせてくれ」
「うん、いいよ」
端から見るとトンデモない発言を余裕で交わしつつ、二人揃ってぼけっとするばかりであった。
「シロウ」
「ん?」
昼も過ぎる頃。
食事を食べる気も失せたまま意味もなく抱き合っていたが、
「プールとか行かない?」
「……行くだけ芋洗いだし、往復でまた疲れるからイヤ」
イリヤのそんな質問に、俺はやる気のない返事。
「そうだね……」
温い水に浸かってもただ疲れに行くようなモノ。そう悟った俺達はとても出かける気力などない。正直イリヤの水着姿も見たいのだが、どうにもそこまでの過程が遠かった。
「……水浴びとか、したいねえ」
「ああ」
また、どちらとも無く無言で呆ける。
水浴び。
なんて魅惑的な言葉だろうか。
イメージとしては、森の奥深くにある泉で沐浴をするイリヤ。神々しき美しさの裸体をキラキラ光る水の羽衣で纏い、俺は森の奥からそれをいけないものを見つめるような気持ちで眺める小人役とか……どうにも頭が火照って、考えることまで沸騰してるらしい。
が、そんなイメージが、俺の頭の中にある一つの考えを呼び起こしていた。
「……そうだ」
「?」
イリヤを抱いたまま起きあがり、不思議そうに俺を見る姿へにっこりと笑いかける。
どうして今まで気付かなかったのだろう。
「水浴び、しよう」
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